お笑い面接

 クリスマスイブの昼間、ジムでテコンドーの彼女と遭遇して「正社員になったので、なかなか運動できない」という話を聞いた時、ある求人に応募しようか考えていた。
 彼女のエネルギッシュな話を聞いて、帰宅するなりネット応募した。その日のうちに電話が入り、今日の15時に面接を受けることにした。

 仕事内容は18時~20時の介護系老人ホームの送迎運転手だ。家から徒歩5分で行ける。
 施設長と介護士との面接だった。履歴書には正直な職歴が書いてある。「職歴を簡単に説明してください」と言うので、概略に加えて「大学教員なんぞの世界には戻りたくなかったので、管理人になりました」と悔し紛れの前フリを入れておいた。

 送迎相手は殆ど認知症とのことだった。
 「クルマに認知症の方3名を乗せて運転することもありますが、何か心配なコトなどありますか?」と訊かれたので、「何を心配すれば良いかの想像力がありませんが」と話しながら、前フリを思い出した。
 「大学に戻りたくなかったのは、ジジイ教授どもとソリが合わなかったからです。連中は陰湿なインテリで、職にしがみつく為なら何でもやります。姑息で卑怯で何の可愛げもありません。それに比べたら認知症の方などカワイイと思います。
(少し間を置いて)
という冗談はさておいて、何でも慣れだと思います。」
と続けたら大笑いされた。

 それから「コロナ禍で大変ですが、免疫力は体力だと思います。もうエアロビクスを40年近くもやっていて、今も近所のゴールドジムに毎日通っているので内臓疾患ゼロです。」と話すと、コチラも大いにウケた。

 お笑い面接を終えて、家まで歩いていたら同僚だった大学教授から電話が入った。彼はワタシと大学との戦いを応援してくれ、今やユニオンの大学支部長だ。他の会社の組合員がマンション管理人をやりたい、と言うのでワタシが紹介して相談に乗ったりしている。

 電話で「ワタシは60歳を過ぎて仕事を選ぼうなどとは思っていない。明るく楽しく働くのが老人や中高年の正しい姿だと思う」と話しながら、家に着いた。
 「時給が1030円か1200円かよりも、ゼロか1000円かを考えた方がイイ。さすがにゼロでは何ともならない。間違いなく精神を病んで、肉体が悲鳴を上げるだろう。まず働くことだ。」と話し、大学教授も同感してくれた。

 長電話を切ると施設長から電話があった。「年明け1月4日から働いてほしい」という採用連絡だった。

 たった2時間だが週5日勤務の定期契約なので、それほど負担なく稼ぎが増える。
 今回は応募から採用まで約4日。テコンドーの彼女の正社員話に触発されたので、受かりそうな気がしていた。

 イーズカのような強面でも、要は明るさと愛嬌である。テコンドーに遭ったら、「君のメリークリスマスで福が来た」とお礼を言おう。


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