旧友再会

 昨夜は日曜日、イーズカは家族というものが居ないので、もっともヒマな日である。
 会おうと約束した人間が、「日曜の夕方も大丈夫」というので、迷わず指定した。赤坂の店で合流して、久しぶりに杯を傾けた。状況としては「タカッタ」というに等しい。
 もともとはイーズカがもう40年近くも通っている飲み屋の、バイトスタッフと客という関係から始まった。
 その後、彼が独立して始めた店にもチョコチョコと顔を出していた。
 互いに若い頃から知っている旧友の一人である。
 イーズカは現在、セミナーにて様々な業界の危機管理について書こうとしている。彼はある業界のプロで大学教員でもある。
 イーズカが自らの危機管理に失敗して、何度も谷底に落ちた事実を、彼は知っている。そして、その谷底からつねに素手で這い上がって来たことも知っている。
 その失敗と復活の繰り返しが、セミナーの説得力の源泉になっている。
 失敗を恐れない、と言えば聞こえは良いが、「みずから危機を呼び寄せている」という因果応報な側面もある。
 再会の場の会話も、業界取材というよりも互いの苦労の歴史を笑い飛ばす会となってしまった。
 同じく教育の現場に居る者として、「若い連中が、失敗を恐れすぎる」「無駄なコトを嫌い過ぎる」という点に話が集中した。
 現在の日本社会を反映している、と言えば言える。親も、先輩も、同期もほとんどがそんな姿勢で生きている。あまりにチャレンジが無く、イノベーションなど起こりえない。
 そしてコロナ禍に襲われた現在は、世界的な一大変革期となることが避けられない。
 飲み屋を筆頭に、多くの店がつぶれ、空き店舗が大量に発生する。
 これらは「惨状」ではあるが、「千載一遇のチャンス」でもある。こんな逆境に挑む人間には、ハイリスクと超ハイリターンがついて回る。
 そんなことを若い人々に伝えたい。
 そしてイーズカがもっとも訴えたいのは、「体力が、すべてを支える」ということである。
 どんな強靭な精神力も、健康な肉体が無かったら継続できない。
 われわれはアナログな現実世界で生きており、デジタル数値の上で生活している訳ではない。
 すべての実現には、具体的で柔軟な肉体と、強靭な体力が必須条件となる。
 むかしの日本共産党ではないが、「若者よ、カラダを鍛えておけ」が不変のメッセージとなる。
 絶品の料理と美味い酒、そして弾ける会話で極上の時間を楽しんだ。

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