Ars technicaによるSlaw Device RX Viperのレビュー(和訳)

アメリカのテック系サイト、ARS technicaに掲載された、リー・ハッチンソン氏*1(Lee Hutchinson)によるSlaw Device製ハイエンドラダーペダル・RX Viperのレビューです。

原語版: https://arstechnica.com/gadgets/2016/07/new-year-new-500-pedals-reviewing-the-slaw-device-rx-viper/

*1)ハッチンソン氏はFolland Gnatでの飛行経験や、
TA-4、F-100のコックピットへの搭乗経験がある

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新しい年、新しい500ドルのラダーペダル

Slaw Device RX Viperのレビュー


もしお金で買える最高のフラシムペダルが欲しいなら、Slawに連絡だ。

リー・ハッチンソン - Jul 30, 2016 8:30pm

私は昨年、Slaw Device BF 109フライトシムペダルのセットを輸入し、思っていたより多くのお金を周辺機器を買うことに費やしてしまった。届いたペダルは、機能性はもちろんのこと、美しい仕上がりであった。パウダーコートされたアルミニウム製ストラット、光り輝くクロームカラーのボルトとナットのアクセント、美しく肉抜きされたペダルなど、この装置は紛れもなく熟練した職人によるもので、ペダルは見た目と同じくらい素晴らしく動作するものであった。Elite: DangerousからDCS Worldまで、私の没入感を向上し、なめらかでジッターのないラダーのコントロールを可能としてくれた。このペダルなら、もう永遠にハッピーでいられる、そう思っていた。

そう、永遠に。実際のところ永遠とは16か月であった。五月のある晴れた午後、新しいラダーペダルが私の目に入り、私のBF109ペダルが突然古くてみすぼらしいものに見えるようになってしまった。旧式のバンパーアーム機構はローラーカムと同等のスムースさではないし、足載せでの使用も、かかとが床についた状態での使用ほど快適ではないだろう。そして、あああ、カラーリング!新しいペダルはカラーリングが施されている!

...結局、私は693ドル貧しくなった、しかし、ほら、君たちに私のフライトシムペダルをご覧に入れようではないか!

Slawの夜明け

Slaw Deviceの"Slaw"とは、ベラルーシ人のエンジニアで、ポーランドの Śmiłowoに作業場を構え手作業でラダーペダルを設計・製造しているWiaczesław Oziabłoのことである。彼と話したのは2015年の初頭で、彼はフルタイムでラダーペダルを作るために仕事を辞めたとのことだったが - 大体240セットを販売したと我々に教えてくれたので、結局のところうまくいっているようである。設計、製造から発送、そして彼の作業時間を十二分に埋めるだけのたくさんの注文を彼はいまだに一人でこなしている。

Oziabłoは英語を話せず、私もポーランド語もベラルーシ語も話せないので、私たちはグーグル翻訳を通じ会話した。それでも私たちが過去数か月の間にやり取りしたメールの数々から、彼がフレンドリーでかつ、ここアメリカが夕方の時、かの地ポーランドは深夜であるにもかかわらず、常によろこんで質問に答えてくれるような人物である。彼によれば、彼自身、小さな頃から"機械好き"だったそうで、最初はおもちゃを、後にはバイクを分解したり機構を頭の中で組み立てたりしていたそうだ。

彼は頭の中のビジョンを紙の図面に具現化するという製図者としての才能を持っている。フライトシムのペダルにおいては、まずペダルをどのように動かすかという機構的コンセプトから始めると彼は説明してくれた。「最初は外観について考えず、機能する仕組みを作るんだ」と彼は言う。Kompas 3Dでその機構を構築した後、Oziabłoはそれを発展させ、メカニズムの周囲に仮想のハードウェアを構築し、彼が求める外観を実現させる。


メタルの世界へ

そして、ああ、なんという美しさ。RX Viperペダルは、Oziabłoがリリースした3番目のメジャーデザインで、BF 109とF-16スタイルのラダーペダルに続く新作だ。Viperは黒い陽極酸化処理された航空機用アルミニウム製ストラットと鋼製部材にクロムのねじとナットを取り付けた、技術にうるさい人々を駆り立てる工業作品とも言える。2つのトーブレーキは複数の連結された板が蛇腹を思わせる見た目を備えている。私はRX Viperのトーブレーキカバーに黒を選んだが、Oziabłoは赤とシルバーも用意している。
(訳注、現在は黒またはシルバーの二色のみ)

Oziabłoによれば、RX Viperの組み立てに要する時間は約3日半とのことだが、この点、今回のレビューに関しては少々ズルをしている。というのも彼は体調を崩していたのだが、この黒のRX Viperは撮影用に作られた二号機(0002のシリアルナンバーをもつ)で、ラダーペダルをすぐに発送することができた。 Śmiłowoからヒューストンまで配送に9日間かかったが、私は問題なくPoczta Polskaのステッカーが貼られた重い箱をサインして受け取ることができた。

ペダルの質量は7.9kg(約17.5ポンド)と重いが、使用中に動かないよう床に固定する必要がある。コックピットやシムピットがあれば、ベースプレートにあらかじめあけられた穴を使うことができる。あるいは、Oziabłoは協力な両面テープを使用してカーペットや硬い床面に貼ることを提案している。

組みあがったペダル全体は、中央のローラーカム機構を中心として構成されている。かかとは床の上にいたまま、土踏まずまたは足のふくらみを2つのバーの上に置く。私は、靴下や裸足でペダルを使用するときは、それぞれの足のふくらみをバーに置いたときが最も快適だと感じた。左または右のペダルを前方に押すと、センターカムが回転し、それがローラーをその形状に沿って押すことでバネにとりつけられたテンションアームによって引っ張られる。バネを長くしたり短くしたりするねじを回すことでリセンター力を調整することができ、Oziabłoはリセンター力をそれほど必要としない人のために、デフォルトのバネの代替としてとりつけることができる、より長いバネを各ラダーぺダルにつけて出荷している。

ペダルに搭載されているカムは非常にソフトなセンターを持っている。長いバネを採用しているため、ペダルへの付加力が比較的小さく、センターを通過した感じがほとんどない。もう一つのカムはより強いセンターを持っている。このカムは、ペダルに油圧ダンパーを取り付けて、実際の航空機のペダル感触をより忠実に再現する場合に最も効果的だ。


限界を探る

バネとカムおよびねじにより、足で感じる感触は高度にカスタマイズできる。Bf 109と違って、RX Viperではトーブレーキの位置や方向を調整することはできない。(下線部については間違い:後述)しかしViperのFoot-on-Floorのペダルを使えば、足をペダルにはめ込む必要がないので、使い始め以外はほとんど調整する必要がない。(修正:トーブレーキは3段階で傾斜を調整でき、最小設定で出荷されている)一か月ほど使ってみて、Bf 109の足置き型ペダルよりもフットオンフロアのほうが好きだということがわかった。このほうがラダー軸とトーブレーキの両方を使用する際により楽である。

複雑な連結構造には合計31個のベアリングが使われており、各トーブレーキの上部アームには4つの滑り軸受が用いられている。実際にはアームにほんの少しだけ遊びがあるが、トーブレーキの動きを前後に移動させるために必要なものだ。両方のトーブレーキ周りの過剰性能ともいえる構造は、ペダルの機械的な美しさの大部分を占めており、周囲様々な方向から眺めてみると、複雑な仕組みがまるで生きているかのように見える。

しばらくの間、私はペダルをデフォルトの位置で使用していたが、すべてがより堅固でしっかりとしていることに嬉しくなった。私は以前ぼBf 109ペダルを軽い力で動くようにセットアップしていたが、箱出し状態のViperを動かすには結構な力を要する。多くのインターネットの情報(そしてOziabło自身も)によれば、Viperはダンパーがついているほうがずっと良いそうなので、30ドルのバイク用ステアリングダンパーを買ってペダルのマウントにとりつけた。

ダンパーをペダルの作動特性を変化させる。電子的では無く、実際の物理的な力を変化させるという点を無視すれば、応答曲線を編集するのとほとんど同じといえる。ダンパーが設置されると、ペダルは動きの全範囲にわったより一貫した抵抗を提供し、その動きを容易かつ余計な摩擦なしに維持することができる。終端から終端への動作も依然容易である一方で、より洗練され制御された感触を受ける。またペダルはバウンドせずセンターに戻るようになる。終端まで押したうえで足を素早く放しても、ペダルはガタガタいうこともなければバウンドすることもなくセンターに戻る。ペダルの感触は、去年12月にいくつかの冷戦時代のジェット機のコックピットに座って操作したときとほぼ同じで、スムーズかつ重厚感がある。

トーブレーキもカスタマイズ可能で、両側に2つのバネがあり、バネをひっかけるための複数のポイントがある。私がもっとも満足している構成では、ペダルを終端まで完全に押すために約6.5kg(14.3ポンド)の力が必要で、トーブレーキをストップ位置まで完全に押すために約5kg(13.2ポンド)の力が必要になる。多くの力が必要なように聞こえるかもしれないが、実際は軽く感じる。ペダルの機構がスムーズに負荷を吸収するので、押しているという感じはほとんどない。

スムースさとその重さの代償として、Viperは何かに固定しなければならない。ベースプレートには、さまざまなコックピットのペダルプレートに対応するドリル穴があらかじめあけられている。ボルトで固定することができるし、勇気がある、または十分に狂っている人は強力な両面テープを使うこともできる。私はほぼテープで固定したが、カーペットの上にペダルをしっかりと固定するのは少々大変である。木製またはタイルの床であればそれほど問題はない。

ほとんどの家庭用シムピットのセットアップで使用されるようなペダルプレートにとってもまた問題がある。確実な取り付けが可能ではあるものの、ペダル端のボルトから反対のボルトまで530mmの幅があり、ワイドである。RX ViperとVolaire Simのコックピットの組み合わせでは、ペダルが大きすぎてVolaireのトレーに収まらないため、ちょっとした工夫とジップタイが必要だった。私はまた、Obuttoの創設者でマネージングディレクターのChris Dunganに寸法を送り、RX ViperがR3volution Premiereコックピットに入るかどうかを訪ねた。Dungan氏によれば、ペダルトレイが最も低い位置にあれば(または完全に取り払ってしまえば)Viperペダルはぴったり会うはずだと回答してくれた。その後、実際に彼の見立てが正しいことを確認することができた。トレイが最も低い位置にあれば、ViperはObutto R3volutionに問題なくフィットする。

しかし、購入を予定する人は注意してほしい。このペダルはほかのほとんどのものよりかなり幅広なので、購入を決める前に取り付け予定の場所の寸法を確認するべきだ。


接続性、ソフトウェア、互換性

電子的には、ViperペダルはOziabłoの以前の作品とその頭脳部やセンサーを共有している。コントローラーはロシア人のフライトシム愛好家である"=SPb=RED BARON"によって設計・製造されており、センサーは非接触磁気式のカスタム仕様品である。ペダルはWindows上でRX, RY, RZ軸として認識され、軸系を認識する最近のゲームであればほぼ自動的に検出される。私はまたペダルを使いたいと思ったゲームで認識されないものには遭遇していない。

センサーはジッターがなく正確で、キャリブレーションやデッドゾーンの設定は不要である。この点に関してはRX ViperとBf 109ペダルにおける私のお気に入りの点である。私が以前使っていた古いペダルでは、小さな入力がゲーム内でフラッターやジッターを起こす可能性があった。これは古いジョイスティックがほんの小さな力をあたえると不規則な信号を発するのと似ている。非常に古いものでは、これは通常軸ポテンショメーターと埃によるものだが、全デジタルのスティックやペダルでは低品質のセンサーによる可能性がある。

Slaw Deviceのペダルではそのようなことは起こらない。0.5mmの変位は安定した小さな信号になる。Elite: Dangerousではその結果として船が鈍く小さくヨーイングする。いかなるヒカップやジッター、動揺もない。

ただし、必要に応じてセンサーとコントローラーを再調整して、デッドゾーンを設定することは可能だ。Oziabłoは、必要に応じて実行できるWindowsのEXEファイルを用意している。BF 109を1年以上所持している間、このユーティリティーを使う必要はなかったし、今のところViperでも使う必要に遭遇していない。古いペダルも新しいペダルも、箱から出してすぐに調整することなく、簡単にかつ美しく機能する。


フライアウェイ・コストと入手性

BF 109ペダルと同様、RX Viperラダーペダルには安くはない。出荷時に550ドル、さらに米国までの送料としておよそ100ドルがかかる。Oziabło氏がPaypalを使えるようになったことで、国土安全保障省の監視リストに載ることになるかもしれない海外への不審な電信送金をすることなく、迅速な取引でペダルを購入することができる。(私は去年BF109のペダルのために電信送金を1度行ったので、監視リストに戻されるかもしれないが)

送料とPaypayの手数料の合計で、Slaw Device RX Viperを米国に配送するには合計693ドルの負担となった。

入手性のほうがより問題がある。Oziabłoは今も一人で運営をおこなっており、休暇や旅行のために休みを取ることがある。すでに29セットのRX Viperラダーペダルにを発送しており、9月に作業場に戻ったときにはさらに約30個の注文が並んでいた。Oziabło氏は現在のバックログをクリアするのに3~4か月かかるだろうと見積もっている。つまり現時点でRX Viperの新品を手に入れることができるのは12月が来年の1月ということになる。

Oziabło氏は外部の支援を受けることを検討しているが、そうだとしても生産を加速させることはないかもしれない。新人が素早く組み立てられるようにするには時間がかかるかもしれないし、さらに彼が言うには「ポーランドの法律は中小企業の助けにはならない」。彼は自分のデザインをライセンスしてサードパーティーに製作してもらいたいと申し出ているが、Oziabłoは製造の品質を保証せずに製品を出荷するつもりもないことを明かしている。つまりこれは近い将来も彼は単独飛行を続けることを意味している。


Aces High

693ドルは正気の沙汰ではないように思えるかもしれないが、これでもまだ購入することができる最も高価なラダーペダルではない。価格を上げることは大衆市場から大きく離れていくことを意味する。ここから先は商用フライトシミュレーター向けのギアを買うしかない。つまり795ドルのFlightlink RCMペダル、または999ユーロのRevolution Simproductのラダーキット、さらには3,600ユーロのPrecision Fly ペダルなどがる。そして私はこのウサギの穴がさらに深いものであるということも知っている。実際の商用航空機のラダーペダルを購入して、それをフライトシミュレーターで使えるように配線しなおす輩もいるからである。

周辺機器に対する私の欲望は極端だが、上に照らしてみればそれほど極端とも言えないものの、Slaw Device RX Viperラダーペダルに支払った金額は、ゲームの入力デバイスに使う金額としては最高額だ。

おそらく、私のOziabłoに対する最後の質問は、RX Viperが彼の究極のデザインなのか、それともほかのものを用意しているのかということだった。そして彼によれは、Viperペダルの足載せバージョンである"RF Viper"を計画してことがわかった。彼はまた、今年後半にはBf 109ペダルのデザインを一新し、トーブレーキ軸にはカム、ペダルにはViperと同様のカラーオプションを追加することを示唆した。

そのさらに後については誰にもわからない。Oziabłoは我々に対し、フライトスティックやスロットルのようなラダーペダル以外の周辺機器の製造を検討しているが、彼を躊躇させているのは、たとえどんな種類のスティックやスロットルグリップにもプラスチック成型を使用するという必要があるという製造の複雑さだと語った。鋼鉄とアルミニウムを使用することで、仕様に正確に部品を注文したり製造したりすることができるが、プラスチック成形となるとプロセスは非常に複雑になってしまう。

それでも、Slaw Device StickとThrottle?うーん、そんな日がいつか現実になると考えるだけで、期待で食指が動いてしまう。Live to fly, Fly to liveなのだから。

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