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業界騒然!相続税評価の新旧比較とタワマン節税の終焉

はじめに

 「タワマン文学」がちょっとした流行となりました。タワーマンションの高層階・低層階の住民たちの悲哀を、皮肉を込めて描いたネット文学です。痛々しさが際立っており敬遠してしまいましたが、こうしたネットミームが誕生するほどに、
『高所得者→タワーマンション』
という印象が世間に浸透していることを浮き彫りにした代表例とも言えます。
 そんなタワーマンションですが、令和6年(2024年)1月1日から相続税の評価方法が大きく変わります。この変更により、特に高層階の物件で相続税評価額が大幅に上昇する可能性があります。
 ある意味では妥当な改正とも言えますが、この記事では改正の背景、新しい評価方法の詳細、その影響などについて整理していきます。

本文

1. タワーマンション評価の変遷

1-1. 従来の評価方法とその問題点

 これまでのタワーマンション評価は、主に以下の方法で行われていました。

  土地部分:路線価方式
  建物部分:固定資産税評価額

具体的な算式は以下の通りです。

区分所有財産の価額 = 区分所有権の価額 + 敷地利用権の価額

区分所有権の価額 = 家屋の固定資産税評価額 × 1.0
敷地利用権の価額 = 路線価を基とした1㎡当たりの価額 × 地積 × 敷地権の割合

 一般的なマンションでも用いられるシンプルな計算式ですが、この方法には以下のような問題がありました。

・市場価格との大きな乖離(タワマンはエグゼクティブの象徴のはず)
・高層階ほど評価額が低くなる不公平さ(高層階ほど高価格なはず?)
・築年数や階数の影響が十分に反映されない(敷地部分の面積にのみ左右される)

 シンプルな評価計算の方法ゆえに、特に高層階の物件で相続税評価額が実際の価値よりも著しく低くなる傾向がありました。

1-2. 新しい評価方法:細かな要素を考慮

 当然起こり得たことではあるのですが、数年間にわたる納税者と国税当局との裁判を経て、令和6年(2024年)1月1日から導入される新しい評価方法では、「区分所有補正率」という新しい概念が導入されることになりました。
 新たな評価方法では以下の要素を考慮します。

・築年数
・総階数
・所在階
・敷地持分狭小度

2. 新たな評価方法の詳細な算式

 「区分所有補正率」という新たな概念を取り入れた評価は以下の算式で計算します。

2-1. 基本算式

居住用の区分所有財産の価額 = 区分所有権の価額 + 敷地利用権の価額

     区分所有権の価額 = 従来の区分所有権の価額 × 区分所有補正率
     敷地利用権の価額 = 従来の敷地利用権の価額 × 区分所有補正率

2-2. 区分所有補正率の算出

  1. 区分所有補正率の決定:

    • 評価水準 < 0.6 の場合:区分所有補正率 = 評価乖離率 × 0.6

    • 0.6 ≦ 評価水準 ≦ 1 の場合:区分所有補正率 = 1(補正なし)

    • 1 < 評価水準 の場合:区分所有補正率 = 評価乖離率

2-3. 各要素の意味

  • 築年数:建築の時から課税時期までの期間(1年未満の端数は1年とする)

  • 総階数:地階を除く階数

  • 所在階:専有部分が複数階にまたがる場合は、階数が低い方の階

  • 敷地利用権の面積:

    • 敷地利用権が敷地権である場合:一棟の区分所有建物の敷地の面積 × 敷地権の割合

    • 上記以外の場合:一棟の区分所有建物の敷地の面積 × 敷地の共有持分の割合

2-4. その他注意点

  • 評価乖離率が0以下になる場合、原則として区分所有権及び敷地利用権の価額は0円となります(敷地利用権については、下記の場合を除く)。

  • 区分所有者が一棟の区分所有建物に存する全ての専有部分及び一棟の区分所有建物の敷地のいずれも単独で所有している場合、敷地利用権に係る区分所有補正率は1を下限とします。

  • 専有部分の所在階が地階である場合、Cの値は0となります。

 細かい算式はさておき、この新しい評価方法はタワーマンションの特性をより詳細に反映し、市場価格との乖離を縮小することを目的としています。結果的に、特に高層階や築浅物件では従来の評価方法と比べて大幅に評価額が上昇するものと見込まれています。

3. 新旧評価方法の比較

 新旧の評価方法を比較すると、以下のような違いがあります:

評価方法の新旧比較

 この比較表からわかるように、新しい評価方法ではより多くの要素を考慮し、実際の市場価値により近い評価を行うことができるようになります。特に、高層階の評価が大きく変わる点が特徴的です。

4. 具体的な計算例

 新しい評価方法の影響を具体的に見るために、以下の条件でのタワーマンションを例に計算してみましょう:

  • 築年数:10年

  • 総階数:50階

  • 専有部分の面積:80㎡

  • 敷地面積:5,000㎡

  • 敷地権の割合:1,000,000分の1,600(80㎡ / 5,000㎡ × 100)

  • 従来の区分所有権の価額:5,000万円(全階同一と仮定)

  • 従来の敷地利用権の価額:5,000万円(全階同一と仮定)

 以上の条件をもとに1階、25階、50階の評価計算の過程を表にしました。

各階層ごとの計算例

この計算例から、以下のことが読み取れます。

  1. 階数が上がるにつれて、評価乖離率、区分所有補正率、新評価額が増加します。

  2. 1階で24.5%の上昇、25階で50.4%の上昇、50階で77.4%の上昇と、全ての階で評価額の上昇が見られます。

  3. 特に高層階では、評価額が大幅に上昇する可能性があることがわかります。

5. 改正の背景:6項問題と法的判断

 この通達改正の背景には、「6項問題」と呼ばれる課税をめぐる争いがありました。

5-1. 財産評価基本通達6項とは

相続税贈与税の財産評価は、ほとんどの場合「相続税法財産評価基本通達」と呼ばれる通達に依存しています。その財産評価基本通達の第6項には以下のように規定されています。

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」

 要するに、通常の評価方法では適切に評価できない特殊な財産に対して、より適切な評価方法を適用できるようにするための足枷のようなものです。

5-2. タワーマンション評価をめぐる課題

 従来の評価方法では、特に高層階の物件で市場価格と評価額の乖離が大きくなる傾向がありました。これを利用した相続税対策として、富裕層がタワーマンションの高層階を購入するケースが増加しました。

5-3. 国税当局の対応と裁判所の判断

 国税当局は、この状況を問題視し、6項を適用してより高い評価額を主張しました。いわば伝家の宝刀を抜いた形ですが、この問題は裁判にまで発展し、以下のような経緯を辿りました。

  1. 納税者側の主張:従来の評価方法は通達に基づいており、それに従って評価することは適法である。

  2. 国税側の主張:実勢価格との乖離が大きすぎるため、従来の評価方法は不適当である。6項を適用してより適切な評価を行うべきである。

  3. 裁判所の判断:最高裁判所は国税当局の主張を認める判決を下しました。裁判所は、タワーマンションの相続税評価額が実勢価格と著しく乖離していることを認め、従来の評価方法を適用することが「著しく不適当」であると判断しました。

5-4. 新たな評価方法の策定

 この判決を受けて、国税庁は新たな評価方法を策定することになりました。新しい評価方法は、6項問題で指摘された課題に対応し、より公平で実態に即した評価を目指しています。

6. 新しい計算式の意図と効果

 新しい計算式には、以下のような意図が込められています:

  1. 市場価格との乖離縮小:評価乖離率を用いることで、相続税評価額を市場価格により近づけること

  2. 物件特性の反映:築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度を考慮し、各物件の特性をより正確に評価に反映させること

  3. 公平性の向上:高層階や築浅物件の評価額を適正化することで、課税の公平性を高めること

 この新しい計算式により、以下のような影響が予想されます:

  1. 高層階物件の評価額上昇:特に高層階の物件で相続税評価額が大幅に上昇する可能性がある

  2. 築浅物件の評価額上昇:比較的新しい物件ほど評価額が高くなる

  3. 相続税対策の見直し:タワーマンションを利用した相続税対策の効果が薄れるため、資産運用戦略の再考が必要になる可能性がある

  4. 不動産市場への影響:タワーマンションの需要、特に相続税対策目的での購入が減少する可能性がある

まとめ

  • 2024年1月1日から、タワーマンションの相続税評価方法が大きく変わる

  • 新方式では、築年数、総階数、所在階、敷地持分狭小度など、より多くの要素を考慮

  • 高層階や築浅物件は評価額が大幅に上昇する可能性があり、最上階で77.4%の上昇(計算例)

  • この改正により、タワーマンションを利用した相続税対策の効果が薄れる可能性

  • 改正の背景には「6項問題」と呼ばれる課税をめぐる税務争訟があった

  • 新しい評価方法は、市場価格との乖離縮小や課税の公平性向上を目指す

  • 不動産市場、特にタワーマンションの需要に影響を与える可能性

おわりに

 今回の改正はすでにタワーマンションをお持ちの方、とくに将来的な相続税の圧縮を目的として購入された方にはかなりの影響があるものと思われます。当初の想定からは大きく外れることになる評価通達ですので、何がどのくらい変わるのか一旦整理し直した方が良いと思います。
 税金の圧縮を目的に対策を立てる際には、思惑通りに行かなくなる「法改正リスク」を常に意識しておく必要があります。「絶対」が存在しないのは法律や税務の世界でも同じことですのでご注意ください。

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

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