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自分を綺麗だと思えない日はそのまま表現する。プラスサイズモデル・北原弥佳さんインタビュー|Diverstyle Book

2019年にピーチ・ジョンのリアルサイズモデルとしてデビューし、その後も日本では数少ないプラスサイズモデルとして活動を続ける北原弥佳さん(以下、Mika)。ボディ・ポジティブやルッキズムについて日々発信しているMikaさんに、美の既成概念にとらわれない姿勢をどのように育んできたのか、話を訊きました。

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体のラインが出る服を意図的に着る

——Mikaさんは日本では数少ないプラスサイズモデルとして活動されています。私服姿を日々SNSで発信されていますが、コーディネートにはどんなこだわりを持っていますか?

Mika:体のラインがはっきりと出る服を意図的に着ることが多いです。日本はシルエットを隠すコーディネートが好まれる傾向にありますが、私は体型を隠さずにいたい。肉付きのいい私が堂々とモデルをしたり、体のラインが強調される服を着たりすることで、勇気を与えられる人がいると思うからです。

——洋服選びの際に、軸にしているものはありますか?

Mika:その服を着ることが楽しいかどうかを判断軸にしています。父や兄からは「似合ってない」「ダサい」と言われることもあるんですけど、私が好きでやっているのだから、それでいいんじゃないかと。有名なブランドではなくても、着ていてワクワクするものであれば、それを大切にしています。名指しするほど好きなブランドもないですが、強いて言えば、日本のブランドよりは海外のブランドやモデルさんの着こなし方をチェックすることが多いです。

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——「自分が好きなら身に付けていいし、自分が好きなことをした方がいい」というメッセージは、MikaさんがSNSなどでよく発信されているテーマだと思います。小さな頃からそのような考え方だったのでしょうか?

Mika:子供の頃はどんな服が自分に似合うかまったくわかっていなかったですし、考え方も真逆でした。育ったところが田舎だったので近所にはユニクロやしまむらしかなかったですし、いつも兄のお下がりを着て、男の子っぽい格好をしていたのを覚えています。ファッションも言動も、ちょっとでも周りと違っていたら変な人だと思われそうで、とにかく目立たないように、個性を出さないようにしていました。

——ファッションや生き方の意識が切り替わったのはどういったタイミングでしたか?

Mika:今日の撮影場所でもある「東京スクールオブミュージック専門学校渋谷」在学中に、少しずつ変化していったのだと思います。モンゴルやスリランカなどさまざまなルーツを持つ学生がいて、その子たちと仲良くしているうちに、自己愛や「ありのままが素敵」といった考えを、無理なく自分に落とし込めるようになっていきました。ファッションも奇抜な子が多かったし、「どんな服を着てもいいし、どんな生き方をしてもいいんだ」と思えたのは大きかったです。

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——具体的なエピソードなどは、覚えていますか?

Mika:授業の一環で、ドレスを着る機会があったんです。丈の短いドレスだったので、私が「お尻が大きいのが目立ってすごく嫌だ。皆の前でステージに立ちたくない」と言ったら、「何言ってるの、そのお尻が素敵なんだよ! そのお尻だからいいんだよ!」と、怒るくらいのテンションで仲間が叱ってくれたんです。ボディ・ポジティブが前提にある環境があったからこそ、私は自己肯定感を上げることができたのだと思います。

自分を綺麗だと思えない日はそのまま表現する

——Mikaさんは専門学校在学中に下着ブランドであるピーチ・ジョンのオーディションに合格して、リアルサイズモデルとしてスタートを切ったと伺いました。リアルサイズモデルやプラスサイズモデルとして活動しようと思ったきっかけは、どこにあったのでしょうか?

Mika:ハリウッドでプラスサイズモデルや俳優として活躍している藤井美穂さんの投稿が、たまたまTwitterのタイムラインに流れてきたんです。その投稿で初めてプラスサイズモデルの存在を知って、モデルの世界に肉付きがいい人でも活躍できる場所があることを知って感動しました。もともと、太っていることは悪いことだと思っていたし、少なくとも私は絶対にモデルになれないと思っていたんです。この学校で歌が一番うまい子でも、オーディションではルックスを問われて落とされる。日本で表舞台に立つにはルッキズムによる篩(ふるい)にかけられなければならないから、藤井さんの投稿を見るまで、その道を諦めていました。

——日本でプラスサイズモデルとして活躍されている方はかなり少ないかと思います。前例があまりないのに挑戦しようと思えたのは、なぜだったのでしょう?

Mika:たぶん、自分に嘘はつきたくないというか、綺麗な部分だけを見せようとしている自分が嫌だったのだと思います。Instagramでは綺麗な部分をトリミングしたり、痩せているときの写真を載せたりしていましたが、それは本当の自分ではないなとずっと思っていました。モデルになるために痩せて綺麗になろうと必死に努力をしていた時期ありますが、プラスサイズモデルとしてありのままを表現することの方が、よっぽど健全だと思えたんです。

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——「プラスサイズモデル」や「ボディ・ポジティブ」といった言葉があまり認知されていない日本では、心ないことを言ってくる人もいると思います。それに対して、どのように立ち向かったり、気分転換したりしていますか?

Mika:気分転換が苦手で、正直全然うまくできていないです。この前も、SNSで「(プラスサイズモデルは)現実逃避だ」とコメントが来たんです。ショックを受けたんですけど、ボディ・ポジティブという概念が知られていないから、心ないことを言う人もいるのだろうな、と。あとは、落ち込んでいることも、自分が綺麗だと思えない日のことも、そのままSNSに投稿するようにしています。人間ならネガティブな感情も当然持っているはずなので、上手く処理できなくてもいいと思うようにはしています。

——モデルとしての活動を続けていく中で、自分を曝け出すことへの羞恥心や恐怖心とはどのように向き合っていますか?

Mika:そういう気持ちはまだまだ根強くあります。出来上がった写真のデータを見て落ち込むこともよくあります。私は前歯がコンプレックスなんですけど、前歯が強調された写真が目に入ってくると、悲しいというか、なんとも言えない気持ちになります。そういった気持ちになるたび、まだ自分のすべてを愛しきれてはいないのだと感じます。でも、それはそれでいいのかな、と。人間なので、すべてに自信を持つ必要はないとも思っています。

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「太ること」にとらわれた結果、痩せてしまった

——学校を卒業してから、日本で数少ないプラスサイズモデルとしてさまざまな仕事をするようになりましたが、心境に大きな変化はありましたか?

Mika:つい1ヶ月前のことですが、体重が7kgも落ちてしまって……。

——7kg! 原因を伺ってよろしいでしょうか。

Mika:プラスサイズモデルやリアルサイズモデルと呼ばれるこの業界で活躍されている方たちは、皆さん体が私よりももっともっと大きい人が多いんです。私はこの世界でいうと、痩せてはいないにしても、すごく大きいわけでもない。どっちつかずの中間であることがコンプレックスになって、「もっと太らなければいけない」と強迫観念みたいなものに駆られた結果、ストレスからか太るどころか痩せてしまいました。

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——プラスサイズモデルになるまでは「痩せること」にとらわれていたのに、今度は「太ること」にとらわれてしまったんですね……。

Mika:そうです。結局ないものねだりというか、体型の悩みからは逃れられないんだなと思うと途方に暮れました。「ありのままでいい」とSNSで発信しながら、一方で自分は、ストレスで痩せてしまったり、お腹が痛くなるまで食べるときもあったり。何やっているんだろうと、葛藤の日々が続いていました。

——痩せていることも、太っていることも、他者との比較によって定義されるものです。そうした他者との比較によって生まれる悩みは、どれだけ自分らしくあろうとしても発生してしまうものなのでしょうか。

Mika:私の場合はそうだと思います。最近もライバルが現れて嫉妬していました(笑)。その子は私よりも肉付きがよくて、英語も話せて、性格も明るいので、輝いて見えました。比較してしまうと、どうしようもなく自分が劣って見えてしまう。でも、直接やりとりを交わすうちに、その子にも悩みがあることがわかったり、自分の目標設定の曖昧さに気付かされたりしました。嫉妬しているのも嫌で距離を置こうと思った時期もありましたが、結果的に成長させてもらえたので、その子がいてよかったと思います。

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他者との交流から芽生えた、新たな目標

——目標設定の曖昧さに気付いたとのことですが、Mikaさんが目指したい方向性は、改めて見えたのでしょうか?

Mika:はい! アシュリー・グラハムさんという、プラスサイズモデルの第一人者と呼ばれている方がいるのですが、その方と一緒に撮影をすることが、今の目標になっています。あとは、アジア人のプラスサイズモデルとして、どこかのランウェイを歩くこと。私が実力をつけて、そういった表舞台で活躍することで、昔の私のように外見のことで悲しい思いをしている人の励みになればいいと思っています。

——アシュリー・グラハムさんや、プラスサイズモデルの存在を教えてくれた藤井美穂さん、先ほどの話に出ていたライバルの方など、Mikaさんは他者から受けた刺激を大切にしている印象があります。

Mika:それで言うと、フォーリンラブのバービーさんと撮影をご一緒させていただいたことがあったんですけど、バービーさんも本当に格好良かったです。とても肉付きがいいんですけど、それを武器として捉えて、とても堂々とされていました。私だったら怯んでしまうような場面で皆を引っ張っていってくれる姿は、今でも鮮明に覚えています。あの撮影のときのバービーさんは、芸人ではなくモデルの顔をしていました。今では勝手に師匠みたいに思っています。

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——人からだけでなく、映画や本などの作品から影響を受けることはありますか?

Mika:ボディ・ポジティブについては、『アイ・フィール・プリティ 人生最大のハプニング』という映画の影響が大きいです。自分が醜くて仕方ないと感じている女の子が主人公なのですが、トレーニング中に転倒したことをきっかけに、外見は変わっていないのに自分が美しく見えるようになる、という設定なんです。人は自分のことを美しいと思えただけで、人生を好転させる力を持っている。物事を見る角度を変えれば色が違うし、私自身も自分は醜いと思っていたけれども、ある人からすれば美しいと思うのかもしれないと、いろいろなことをポジティブに考えるきっかけを与えてくれた作品でした。

——Mikaさんの発信によって影響を受けている人たちに向けて、情報を手に取るときに気をつけてほしいことはありますか?

Mika:まずは自分の内側に取り入れるべき情報を選択することが大事だと思います。誤った情報や偏見が交じった声も多い時代なので、SNSのつぶやきや記事を見たときに、これは自分の中に取り入れていい情報なのかどうか、一旦冷静になって考えてもらいたいです。とくに若い頃は、ダイエット関連のアカウントなどを熱心にフォローしがちです。ダイエットや自分磨きを頑張っている方は素敵ですし尊敬していますが、冷静になって読んでみれば不安を煽るような書き方をしているのに、気付かずジムにお金を落としていたり、体に負担のかかるダイエットに取り組んでしまうこともあります。そういった事態を避けるためにも、まずは「なりたい自分」を明確にする。その上で、取り入れるべき情報を冷静に選択することを、心掛けてほしいと思います。

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ボディ・ポジティブやプラスサイズモデルという生き方を体現し、発信し続けているMikaさん。「もっと自分の影響力を高めたい」と話すその理由を訊ねると「昔の私のように『目立ってはいけない』『世間的な”普通”でいないとダメ』と思っている子たちに、自分の可能性に気付いてほしいから」と語りました。“モデルは細くなくてはならない”“痩せている方が美しい”といった「美」の固定観念を覆すMikaさんの活動は、今後さらに大きな影響力を持っていくでしょう。

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Diverstyle Book by IIQUAL

ジェンダーバイアスにとらわれず多様な生き方をする人々にフォーカスしたDiverstyle Book。IIQUALの服やスタイリングの参考になるだけでなく、その人の価値観や生き方といったストーリーを追った"ライフスタイルブック"です。

IIQUALが目指すのは、誰かが決めたららしさを脱げる服。自分のらしさを着られる服。「誰かが決めたらしさを脱ぐ服」というコンセプトで、メンズ・ウィメンズという概念のない服づくりに挑戦しています。詳しくは下記リンク先をご参照ください。


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