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マガジン版のための前書き

常陸国風土記 古代の常陸国ナショナルジオグラフィック

 はるかな昔、朝廷から各地の役人に、地勢や産物、地名などについて報告せよとの命令が下りました。都が平城京に移って間もない奈良時代初めのことです。できあがった報告集は、やがて風土記と呼ばれるようになりました。残念ながら、今に伝わっているのは五カ国分と断片だけです。

 その一つである常陸国風土記ひたちのくにふどきは、国司などとして都から赴任していた一流の文人、詩人が、地元の国造くにのみやつこらの報告を集め、恐らくは自らも調査して記述したものでした。その結果、無味乾燥な行政文書ではなく、魅力にあふれた「常陸国ジオグラフィック・マガジン」ができあがりました。

 当時の歴史書である古事記・日本書紀を、時系列で並んだ絵巻物にたとえるとすると、風土記は人々の生活や風景を描いた屏風絵のようなものです。風土記には物語的な面白味は少ないのですが、代わりに古代人の生活や各地の伝説などを時間を忘れて楽しむことができます。

 どうぞ現代語訳で「楽しい古代」を味わってみてください。各章末尾の解説は読み飛ばしてもらってかまいません。

 私は古代史や国文学の専門家ではありませんが、先学の研究成果を参照し、原文を逸脱しない訳を心がけました。ただ、何しろ古代の文献であり、原文が外国語(漢文)なので、少し読みにくくなった部分があります(横書きなのも残念)。その場合は、ちょっとだけ忍耐をお願いします。

 この現代語訳に満足できなかった場合は、ぜひみ下しで読んでみてください。風土記には複数の文庫本があります(後書きに文献を示します)。漢文で読むのは骨ですが、訓み下しなら、注釈があるので難しすぎることはありません。その導き役になれたら幸いです。
 見出しの写真は、つくば市の平沢官衙かんが遺跡。筑波郡つくばのこおり郡役所(官衙)の遺跡が発見された場所です。現在は公園として整備されています。


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