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悪太郎と大谷、弥太郎とジョブズ

 スティーブ・ジョブズを考慮に入れることで、明治維新期のイノベーターである岩崎弥太郎に新たな照明を当てられる、と私は推測して来ました。で、この二人と対比できる似たような一組を歴史や文学の中に見つけ、弥太郎の革新性についてうまく説明したいと考えたのですが、あてはまる適当な例をどうしても見つけ出せませんでした。

 良い例があれば、理詰めで説明するよりたやすく理解してもらえるはずなのに……。困っていると、歴史や文学と関係ないところで、妙に辻褄の合う対比が目に飛び込んで来ました。大リーグ、エンジェルスの大谷選手が、完封勝利と二打席連続ホームランを一日の内になしとげた際のネットメディアの記事です。

「昔凄い投手がいて、堀内恒夫氏が1967年10月10日に広島戦で、ノーヒットノーラン、3打席連続ホームランを記録している」「日本ではノーヒットノーランした試合で3本塁打打った堀内さんがいます」「伝説はもっと語り継がれるべき」と、元読売ジャイアンツのエースで、野球解説者・堀内恒夫氏に注目する声も。
堀内氏は1967年10月10日の対広島カープ戦でノーヒットノーランを達成。さらに投手ながら3打席連続本塁打という離れ業を1試合でやってのけており「4打席目にホームランが打てなかった」と落胆していたという逸話がある。

「大谷翔平、1日で完封&2HR ネットではそれ上回る日本人投手の「伝説」が話題に」Sirabee(2023年7月28日)

 堀内氏がその試合でなしとげたことは、空前にして(今のところ)絶後のすごい記録なのですが、近年話題になることはほとんどありませんでした。堀内氏は、高卒新人で開幕13連勝、現役通算203勝、ゴールデン・グラブ賞投手部門7年連続受賞、投手なのに本塁打現役通算21本、自身の引退試合でもホームランを打つなど、打撃にも優れたすごい投手だったのです。

 以上は、ほぼ彼のWikipediaに記されていることですが、そこでは野球選手ではなく「日本の政治家」と規定されています。政治家だった年月はプロ野球選手時代とは比較にならないほど短いのに。しかも、現役選手時代の写真ではなく、引退後に自民党から参議院議員選挙に出た時の候補者姿が使われています。Wiki作成者の堀内氏への悪意を感じます。

 門限を破っての夜遊びや、新人時代からのふてぶてしい態度のために「悪太郎」と呼ばれ、巨人軍黄金時代の立役者の一人だった割に人気は今一つだったように記憶しています。引退後は野球解説者などをしていましたが、誘われて出た参議院選挙で二回落選(一度目は後に繰り上げ当選)。投票数からすると、巨人ファンすら余り投票しなかったように見えます。

 九州の人間で西鉄ライオンズのファンだった父が、新人で連勝といっても堀内は強い巨人の投手だから、とくさして・・・・いたのを思い出します。確かに彼は(当たり前ですが)巨人相手には投げることはなく、全盛期の王・長嶋の援護を受ける一方、対戦はしていないのです。それは堀内氏のせいではありませんが、実績の割に一般的な評価が低い一因になっていそうです。

 上の記事を掲載した@niftyニュースに、コメントが一つだけついていました。「大谷と堀内を同列? やめてやって(;´Д`)」。「同列?」という書き方は微妙ですが、二人を並べて記事にしてほしくないという投稿者の意図は明確です。確かに大谷選手は別格で、比べられる野球選手はベーブ・ルース以外にいないでしょう。それでも、堀内氏の記録は間違いなくすごいものなので、この機会に思い出してあげるくらい許してあげて、とも思います。

 岩崎弥太郎も普段は忘れられていて、でも一旦思い出されるとなると大抵ひどい扱いになります(NHK大河ドラマ「龍馬伝」のように)。それは、一部は実際に弥太郎自身のせいでもあるのですが、多分に「風評被害」です。被害の最たるものは、彼が明治維新期に行ったイノベーションの本質が、ほとんど知られないままになっていることです。

スティーブ・ジョブズと岩崎弥太郎を同列? やめてやって(;´Д`)」と考えるジョブズやアップルのファンがきっといることでしょう。世界のジョブズと大谷、日本の弥太郎と堀内、と新たな対比もできてしまいそうです。でも、ジョブズと対比して弥太郎を考えることは、決してお門違いではないのです。その人格や成し遂げた変革の質において。以下、次回。

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