見出し画像

#5 妊孕性温存療法のこと

こんにちは。こちらを書くのが久しぶりになってしまいました。

9月から抗がん剤の種類が変わって1回目の時に2週間ほど熱がでてしまい体調が全く読めなくなり仕事もセーブしてなるべく安静にして、やっと体調が落ち着いてきました。それでもちょっと動きすぎると急に体がだるくなって動けなくなる日も多いのですが…。
副作用で鼻の粘膜が弱って鼻血が出たり、肌が荒れたり、お腹が壊れたり、眉毛もまつ毛もなくなり、自己肯定感下がらないのが無理だろ、っていう自分の身体の状態やままならない自分をなんとか受け止めようと努力する日々です。

今回は妊孕性温存療法の体験について書こうと思います。
抗がん剤治療の説明を受けたときに、抗がん剤の影響で生理が止まること、抗がん剤治療を終えた後も生理が戻らない可能性が高いことを話されました。つまり、妊娠が難しくなるということです。
そのために抗がん剤治療の前に「卵子凍結」をすること、妊孕性温存療法を検討することになりました。

妊孕性温存療法とは、将来自分の子どもを授かる可能性を残すために、がん治療の前に、卵子や精子、受精卵、卵巣組織の凍結保存を行う治療のことです。

小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業

でもこの説明をまずされたときに、私のがんの転移があるか無いかがまだ検査結果が出ておらず、生きれるかどうかわからないのに、将来子供を授かる可能性を残すための治療をするかどうかの話をされてとても混乱しました。
私は子供を欲しいという願望を抱いたことがないので子供を産めなくなりますよ、という話だったらそうか、仕方ない。となっていたのかもしれないのですがこの妊孕性温存療法をするかしないかの自分の選択で、将来の可能性をゼロにしてしまうという恐ろしさに困惑しました。

妊孕性温存療法の説明を受けて、やるならすぐやって抗がん剤治療が遅れない方がいい、と考える時間を1日しかもらえず(おかしいと思う)一日中ずっと考えて、自分が生きれるかどうかわからないのに判断するのは無理だ、と頭を整理して次の日にがん治療の主治医に相談しました。
相談したうえでがんの転移がなく根治できるとわかったら妊孕性温存療法をすることにしました。結果としてがんの転移がなかったので少しばかり抗がん剤治療の開始を遅らせて、卵子凍結をすることになりました。

でも卵子凍結をするためのプロセスが想像以上に大変でした。
いまある卵子をただ採卵して冷凍保存すればいいわけではなく、卵子を育てなくてはならず、そのための薬の投与が注射でした。
自分で毎日注射を打たなくてはならなかったのです。ペンのような形の注射の打ち方を教えてもらいながら、「落ち着いてますね。」と言われつつもこれを自分でやらなきゃいけないのか…と静かに気持ちが落ちてました。(動揺が顔に出ず、落ち着いてる、と言われてしまった自分…)
数日投与し、病院へ行って卵子の状態を確認し、後半には薬の種類が変わったり。毎日説明書を見ながら恐る恐るお腹や太ももに注射をして、10日間ほどかけてやっと採取できることになりました。

その採卵をする手術自体は10分15分ほどのものらしいのですが全身麻酔をしていつの間にか終わっていました。
初めての全身麻酔だったのですがこれがダメでした。私以外にも2人ほど手術を受けた人たちが元気に帰っていく声が聞こえているなか、なかなか頭がはっきりせずいい加減起きたいな、と思いお手洗いに行くために動いたら気分が悪くなってしまい…。
あとで調べたら麻酔の術後合併症で悪心嘔吐があるらしく、完全にそれだったのですが。気分の悪さを伝えて良くなるまで横になってていい、と言われたものの全然良くならないし特に何か処置されるわけでもなく家で休みたいと思い、帰ることを伝えると帰る前に診察してもらわないといけなかったようで吐き気に襲われながら婦人科の診察台に座る…という経験をしました。婦人科の足を開いて超音波の器具を入れられる診察は何度やってもなんとも自尊心が削られる感覚があるのにものすごく気持ちが悪いなかで行われ、まあしんどかった。なんとか診察終えたものの結局またトイレで吐き、(手術のために何も食べてなかったので吐くものないはずなのに緑色のものが出てきてびっくりした)会計を済ませて、タクシーでなんとか家に帰りました。
吐き気、気分が悪いのが本当に嫌いなので(好きな人はいないと思いますが)とにかくしんどい採卵手術の一日になりました。
事前の説明ではすぐ終わるし、昼には帰れますよーと楽な感じで言われてましたが具合が悪くなってしまって帰れたのは夕方になってました。

数日後にまた病院に行き、凍結できた卵子は4つだったと伝えられました。これは数としては少なく、事前の説明では10個くらい採取して保存できると良いと聞かされていました。凍結した卵子で実際妊娠しようと思っても、成功率がそこまで高くないから数を多く保存できたほうがいいのです。
1回の採取ではそこまで卵子をとることができないのでもう一回注射して育てて、採取するプロセスをやることも勧められたのですがとにかくしんどかったのと抗がん剤治療をこれ以上遅らせたくないな、と思いもう一回採卵するのはやめました。

また妊孕性温存療法は保険がききません。注射の薬もめちゃめちゃお金がかかります。1回採卵するまでに20万以上はかかります。助成金が出るのでそれは申請したのですがとりあえずは自費で出費するしかありません。

可能性をゼロにするのが怖くて卵子凍結することにしましたが、そのプロセスの毎日注射をすることの精神的負担、注射打ったところはアザにもなるし、採卵前に生理が来てしまってパニックになったり(特に問題はなかったのですが)病院に数日ごとに行かなきゃいけないことも、採卵の手術自体も、その後に4つ凍結できましたよ、って伝えられても妊孕性温存療法を頑張って、卵子が凍結できたという達成感よりもしんどかったな…。というのが率直な感想でした。
可能性がゼロじゃないだけで、4つでは私が将来自分の子供を持つ可能性はとても低いのだろうなというのはわかります。
病院の説明も余計な希望を持たせないようになのか、いかに卵子凍結で授かる可能性が低いのかの説明は重ねてされました。受精卵の方が可能性が高いことを伝えられましたが独身の私には無理な話です。

それでも。
子供を欲しいと思ったことがないのに、生殖機能がなくなることへの抵抗感、自分の選択によって自分が持っている命の可能性を奪ってしまうことへの心の抵抗が自分にはあることを知りました。
自分には当たり前に次の命を繋げる能力があったんだと。それは当たり前ではなくなってしまった。がんになって、その力は失われました。
自然に生むことはできなくなったけれど、命の可能性をゼロにすることもできなかった。それは自分の心のためにゼロにしないことを選んだけれど、でもそのためのプロセスは私にとって不自然なことばかりで心への負担も大きかった。
悲しいのかどうかもよくわからないけど、もちろんこの妊孕性温存療法があることで救われる人もたくさんいるはずですごい医療技術のはずなんだけれど、そのプロセスは楽ではないことも手術で気分が悪くなる可能性があることも私は知らなかった。考える時間があまりにもなくて調べきれなかったのも大きいのですが。知りたかった。
誰かがもしそういう体験談を調べてるなら、率直な私の感覚を書き残しておこうと思い、書きました。卵子凍結を考えている人の参考にもなるかなと思います。

今朝、海外のがんを誤診されて2年間がん治療を受けたという女性の記事を読んだ。そこにもあまりにもさらっと「がん治療が生殖機能に影響することもあるため、メーガンさんは自分の卵子を凍結保存することにした。」と書いてあるけれど、がん治療によって奪われたものの実感がある私としてはあまりにも酷すぎて言葉が出ない。
卵子凍結のプロセスは楽じゃない。命を繋げるのは楽なことではない。
そもそも女性が生殖機能を維持するために毎月生理というとんでもない身体への負担があるし、妊娠出産だって命がけだし、なんかもっと世の中は女性が当たり前に背負ってるものを慮るべきではないのだろうか。
妊孕性温存療法だって保険適用されないのはなんで?助成金が申請から実際におりるまで時間がかかりすぎるし費用負担で諦める人だって多いだろう。
政治家が少子化が問題だとかいうならうんと女性に優しい社会に変えなきゃ無理だと心から思います。命を産んで欲しいと思うのであればめちゃくちゃ頑張って社会を変えてくれ。

いまある命も、これから生まれる命も、うんと大事にされるべきだ。

私が持つ命の可能性はうんと低くなってしまったけれど、しんどい過程を経たけれど、ゼロにはしたくなかった。
それがとても大事なことだったのです。



いただいたサポートは写真活動のために活かします! 応援ありがとうございます