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賃料の増額はできますか?収益物件をお持ちのオーナー向け記事ー賃料増額請求とは

「マンション・アパートの家賃を値上げしたい。でも、方法がわからない。」

「反発されてしまうかもしれない。」

このようなお悩みがあるのではないでしょうか。

収益物件を所有するオーナー様から、以下のようなご質問をいただきました。

質問  私は収益物件を保有して法人に店舗として貸しています。  最近、検索サイトで近隣物件の賃料を調べてみました。近隣の物件で、築年数や広さや駅歩が変わらないのに、私の物件の賃料は、3~4割程度低いことに気が付きました。ここ10数年で、急激に地価が上昇したことで、近隣物件の賃料が値上げ傾向にあるようです。近隣物件同様に賃料を値上げしたいです。

質問
 私は収益物件を保有して法人に店舗として貸しています。
 最近、検索サイトで近隣物件の賃料を調べてみました。近隣の物件で、築年数や広さや駅歩が変わらないのに、私の物件の賃料は、3~4割程度低いことに気が付きました。ここ10数年で、急激に地価が上昇したことで、近隣物件の賃料が値上げ傾向にあるようです。近隣物件同様に賃料を値上げしたいです。

回答
 更新時などにおいて貸主と借主との間で交渉することで、合意が得られれば問題なく賃料を増額することができます。
 しかし、多くの借主は賃料が上がることを望みません。
 そこで、借地借家法は「賃料増額請求」(借地借家法32条1項)を定めています。これは、従前賃料が不相当といえる場合に、賃貸人(大家さん)が、賃借人(住んでいる方)に対して、一方的に賃料増額の請求ができる制度です。
 従前賃料が不相当といえるためには、公租公課の負担の増加、土地・建物の価格の上昇、近隣類似物件に比べて地代や家賃が低いなどの事情が必要になります。
 ご質問のケースでは、所有物件の近隣の地価が上昇していることや、近隣物件に比べて家賃が低いことから、従前賃料が不相当といえる可能性があります。
 適正な賃料がどの程度なのかを調査をした上で、借主の事情にも配慮して適正な賃料になるよう交渉すること、交渉が決裂した場合には調停などの裁判手続を利用することが考えられます。

第1 賃料増額の交渉をする


 賃貸借契約は、賃貸人が物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、賃借人が賃料の支払い及び契約終了時にその返還を約することによって生じます(民法601条)。

 民法では、当事者の意思を尊重するという観点から、「契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。」(民法521条2項)と規定しています。

 そのため、賃料については、「契約の当事者」である、賃貸人・賃借人の合意によって、自由に決定することができます(民法521条2項)。

 賃貸借契約の内容である賃料を変更することを協議して合意を目指します。契約更新時などに賃料をそのまま維持するのではなく、近隣物件の賃料が高くなっているなどの客観的な資料を示した上で、増額に関する交渉を行います。情報を集めて放置しないことが大切です。


第2 賃料増額請求


1 賃料増額請求権とは?

では、賃料の増額について、賃借人の同意が得られない場合には、賃貸人はどうすれば良いでしょうか。


一般的に、賃借人は賃料の増額(家賃の値上げ)を望みません。

そのため、賃貸人(大家さん)が、賃借人に対して「家賃を値上げしたい」と交渉したとしても、賃借人に反対されてしまいます。


そうすると、契約当事者の合意によって、賃料の増額をすることはできません。


そこで、法律は、賃貸人から賃借人に対して一方的な意思表示によって、賃料を増額することができる、「賃料増額請求権」(借地借家法32条1項)を定めています。


2 従前賃料が不相当であること

賃貸人(大家さん)が、賃料増額請求権を行使するためには、従前賃料が「不相当」(借地借家法32条1項)であることが必要です。


賃料増額請求権は、経済変動等によって、従前賃料が不相当となってしまった場合の対処として、借地借家法に定められています。


ここでいう「従前賃料」とは、最後に賃料の額が決められた時点(直近合意時点)における賃料をいいます。

すなわち、「従前賃料が不相当」であるか否かは、直近合意時点を起点として、その時点以降の経済事情の変動等を総合的に考慮して「不相当」か、どうかを決めることになります(最二小判平成20年2月29日判時2003号51頁)。


「従前賃料が不相当」であるとは具体的には、借地借家法32条1項において以下が掲げられています。

・土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増加
・土地若しくは建物の価格の上昇その他の経済事情の変動
・近傍同種の建物の借賃に比較して低額といえること

もっとも、上記①から③に限られず、諸般の事情を斟酌することで、従前賃料の不相当性が判断されています(最判昭和44年9月25日集民96号625頁)。


質問者様のケース

・地価が上昇したことは、「土地」の「価格の上昇」という「経済事情の変動」にあたります。

・近隣物件かつ、築年数・部屋数が同じ物件と比較して、質問者様のマンションの家賃が低いという事情は「近傍同種の建物」の「借賃」に比較して低額であることにあたります。

 ただし、上述しましたが、従前賃料が不相当であるか否かについては、上記①~③に限られず諸般の事情が考慮されることになるため、ケースバイケースといえます。


現在の賃料が不相当であるかどうかについては、法的な判断が必要になります。賃料増額請求権に詳しい弁護士にご相談下さい。


3 「賃料を増額しない特約」(借地借家法32条1項但書)

 以上のように、従前賃料が不相当であることを満たせば、賃貸人は賃借人に対して、賃料増額請求権を行使することが可能です。


 もっとも、借地借家法では賃料増額請求権について「ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」(借地借家法32条1項但書)と規定されています。

 そのため、賃貸人と賃借人との間で、一定期間、「賃料を増額しない特約」を締結することも可能です。

 このような特約がある場合には、賃貸人は、特約で決めた期間において賃料増額請求権を行使することができません。


4 賃料増額請求権の行使方法

 賃料増額請求権は、賃貸人が意思表示をして、それが相手方たる賃借人に到達することで効果が生じます。

 賃貸人の意思及び通知内容を、きちんと形として残しておくためには、口頭ではなく、内容証明郵便で通知するのが良いと考えます。


 紛争が生じないように、賃料増額請求権の行使については、弁護士に相談することをおすすめします。


第3 調停・訴訟による解決


1 調停・訴訟の必要性

 賃料増額請求権を行使しても、賃借人が反対し、増額した賃料を支払ってもらえないことがあります。また、賃貸人・賃借人間において、賃料増額に関する話し合いをしても、交渉がとん挫することがあります。

 そのような場合、調停・訴訟といった法的手続を検討します。



2 調停前置主義

 賃貸人が、賃借人との間の増額賃料に関するトラブルを、法的手続で解決しようと考える場合には、どうすれば良いでしょうか。

 民事調停法は、「借地借家法・・・三十二条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。」(民事調停法24条の2第1項)と規定しています。


 すなわち、賃料の増額を求めて、いきなり訴訟をすることはできません。調停を先に行う必要があります。これを、調停前置主義といいます。

 訴訟で争うよりも、まずは当事者間の話合いによって解決することができれば、当事者間の納得の解決に繋がると考えられているからです。

 そして、特に、賃料は、契約に至った事情など、当事者間の個別事情が絡んでおり、賃貸人・賃借人が、互譲の精神により対話する必要があるからです。

 調停において、賃貸人は、賃借人に対し、「周囲の地価が、上昇している」・「他の類似の近隣物件よりも、賃料が著しく低い」ということを主張立証し、どこまで、賃料増額について納得をしてもらえるかが問題になります。

 

 調停では、賃借人の立場も尊重した上で、調停委員及び賃借人を客観的なデータを基にして賃料増額が相当であることを説得することが重要です。

 不動産鑑定士の資格を有する調停委員が選任されるケースもあり、正式な不動産鑑定ではないですが、適正賃料に係る専門家としての意見を聞くことができることもあります。

 調停は、賃料増額請求の経験を有する弁護士に任せることをおすすめします。交渉に慣れた弁護士が賃借人と交渉することで、賃貸人(大家さん)が希望する結果を得ることにつながります。


3 訴訟

 双方の意見の対立が大きく、調停による話合いによる解決ができない場合には、調停が不成立となりますので、賃貸人(大家さん)は賃借人に対して増額賃料請求に係る訴訟を提起することになります。


 増額賃料請求に係る訴訟では、上述した、従前賃料の不相当性について争われることになります。そこでは、賃貸人としては、従前の合意賃料が客観的に見て低額であり不相当であることを基礎付ける事実を主張する必要があります。


 従前賃料が不相当であると、裁判官を納得させるためには、適切な主張をし、客観的なデータ(固定資産税評価証明書等)の証拠を提出する必要があります。

 主張の対立が激しい場合は、裁判所の知見を補充するため、鑑定の申立てをして裁判所に鑑定人に意見書を作成いただくこともあります(鑑定費用を事前に裁判所に納める必要があります)。

 鑑定人の意見書に沿って判決において適正な賃料が判断されることが多いことから、鑑定人の意見書に従って増額賃料の額を定めて和解をすることもあります。



第4 まとめ

 

 賃料増額請求においては、交渉、調停、訴訟という段階があります。

 現在の賃料が不相当であることを示す客観的なデータを収集した上で、交渉に着手することが肝要であると考えています。そこで、交渉に着手する前の早い段階から、賃料増額請求の経験のある弁護士に相談することをおすすめします。「賃料(家賃)を上げたい」賃貸人(大家さん)の方は、法律の専門家である弁護士にご相談下さい。

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飯田橋法律事務所 弁護士 中 野 雅 也
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