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11/10 北海道新聞朝刊にコメントが掲載されました

 北海道新聞朝刊に6回にわたり連載されていた、「子どもを守ろう」というテーマの第1部「ネット社会のワナ」で、専門家インタビューとして、コメントを大きく掲載していただきました。

※新聞には著作権がありますので全体を引いてアップしました。

 担当記者の下山さんには丁寧にいろいろお聞きいただいたことにまず感謝申し上げます。

 今回は表現のむずかしさを痛感しました。一点残念だったのは、「母子家庭や共働きの困窮世帯では、親の目が行き届いていない例が多い」という一文です。これは結果として、そういう場合もあるという意味ではそんなに間違っていないと思いますが、それに至る背景にこそ目を向けてほしいと思いました。

 下山さんの草稿記事に対し、私は、以下のようにその草稿記事に対し修正をお願いしました。

 今回は落ち込んだりもしましたが、もし、それ以外の内容で、少しでもお役に立つことがあれば幸いです。

【以下修正原稿です】

札幌市内で小中学校のスクールカウンセラーをしたり、大学などその他でも相談活動をしたりする中で、SNS(会員制交流 サイト)が絡む、非行や子どもの被害に関する問題は目に見えにくい部分です。SNSは子どもたちの生活に身近なものになっており、家庭や学校以外にも、一部の子どもたちにとっては欠かせない「居場所」になっています。時代の変わり目に何が起きているのか、これまで以上にアンテナを張らなければ対応できません。

カウンセリングの場にやってくる生徒の多くは不登校です。特に母子家庭や共働きの困窮世帯は、親の長時間労働などをはじめとする、生活に余裕のない状態であることが少なくありません。その結果として、親の目が子どもに行き届いていない場合もあります。親が精神疾患を抱える家庭では「心配で学校に行けない」と悩んでいたり、アルバイトで家計を支えていたりすることで、本来育まれるべき友人や家族などとの人間関係が希薄化している子どもたちが存在していることも事実です。

こうした問題を抱えながら援助交際をした子どもたちから話を聞くと、ときに家庭や学校などで自分が必要とされた経験が乏しいのではないかと感じます。さらに親から虐待を受けていた場合、自分の心や体が傷つくのを覚悟でSNSに救いを求めようとする傾向もあります。虐待を受けているという情報をリアルな関係のある大人に話すことがためらわれてしまうことがあるからです。子どもたちを支える大人たちには、そうした子どもの境遇を理解しようとする豊かな感受性や想像力が求められるのではないでしょうか。

子どもの非行や援助交際などを行う背景に「孤独感」があるのは、今も昔も変わらないでしょう。その上で、かつての非行は暴力行為など目に見える形で表面化しましたが、SNSを介した援助交際など最近の非行は見えにくくなっているように思います。

子どもたちは友達や部活の仲間などのリアルな人間関係だけではなく、高校生などはツイッターなどを使った匿名のやりとりにも長けており、SNSにおける関係構築も重要になっています。特に、匿名のやりとりに慣れてしまった子どもにとっては、生身の人間関係を形成することを避け、ますますネット上のやりとりにはまってしまう場合もあるでしょう。

そのネットのやりとりにはまってしまった最悪の結果が、神奈川県座間市で起きた事件かもしれません。SNSで知り合った人たちとのやりとりが、自分の存在を肯定してくれる「つながり」になってしまい、その容疑者を信じて近づいてしまったのかもしれません。匿名性の高いネット上では、年齢や性別、職業や趣味などはすべてフィクションという場合があります。字面や電話だけのやりとりに惹かれてしまい、危険を察知するセンサーがリアルな人間関係の希薄化により作動しなかったことも考えられます。

自画撮りの被害も深刻化しています。裸の画像がLINEやツイッターで大勢に拡散し、転校を余儀なくされた子どもがいるという話も耳にしたことがあります。子どもたちの浅はかさを指摘することは簡単ですが、大人たちの巧妙な言い回しによって、そのような自撮り被害に遭ってしまう子どもたちの心や生活をケアしていくことこそ大切なことではないでしょうか。

また、性非行をしてしまう子どもたちや、性の被害者になる子どもたちの中には、薬の過剰服用やリストカット(自傷行為)をする場合も少なくありません。自分を傷つけることで、自分がリアルな世界でも生きているということを再確認していることもあります。また、周囲の人に対して、性にともなう自分の心の痛みやつらさをわかってほしいというメッセージの場合もあるでしょう。

非行や、援助交際などの福祉犯被害者になってしまった子どもたちの中には、人間関係がこじれたり反対に希薄になったりすることで、大人の支えや支援を拒絶することもあります。また、小さなマチでは、精神科病院などに行くことでうわさが広まってしまうのではないかと危惧し、悩みを抱えたままでいてしまう場合もあると聞きます。スクールカウンセラーや病院心理職などの心の専門家は都市部に多く、地方ではなかなか専門家に相談できないという問題も散見されます。

孤独や貧困、家庭環境などの問題に対して、これらは自分の暮らしている社会の問題だということを私たち大人は認識し、自分のできる範囲で行動を起こすことが求められているのではないでしょうか。

私たち多くの人間が、ときに大変な思いを経験しながらも、精神的に大きく破綻しないでいられるのは、これまで家族や友人、同僚など、社会における複数のつながりがあったからこそではないでしょうか。子どもたちのことを考える上で大切なことは、子どもたちを取り巻くリアルな人間関係も、SNSなどのネットにおける人間関係もともに尊重することでしょう。しかし、子どもたちのリアルなつながり乏しく、ネット空間だけに依存しないで生活するために、私たちに求められることは何でしょう。

それは、私たち大人が「対話」を通して、子どもたちと「つながり」を構築し続けていく努力と覚悟だと考えます。

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