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穏やかな時間を過ごすきっかけに。由上恒美さんが「陶刻」に込める希望と平和への願い

ー作り手

今回ご紹介するのは、陶刻家の由上恒美さん。空から動物のかたちをくり抜いたような空シリーズや、雲をイメージした花器の雲シリーズ、大地をイメージした地シリーズなど、自然の要素と彫刻の技法を取り入れた陶芸作品を制作しています。

空シリーズの中でも絶滅危惧種をモチーフにした動物たちの作品は、作家活動をしていく上でとても重要なものとして位置付けられています。「私たちに癒しを与えてくれるものたちを、人間の手によって壊してはいけない」と、命の尊さを訴える強いメッセージが込められています。

一方で、由上さんの作る器はどんな食卓にも合うようなシンプルで温かみのあるフォルムが特徴的です。

忙しい日々の中で少しの時間でも食事を丁寧に愉しみ、心身共に健やかに過ごして欲しい。

元々料理好きだった由上さんが作家活動をする中で芽生えた、食と向き合う時間を大切にしてほしいという願いが器の制作に欠かせない要素になっています。

作品はすべて手作業、制作方法もさまざまなものを取り入れています。表面に空色の色土が塗られている作品では粒子の細かい土を重ねて作る「テラシジラタ」というヨーロッパの技法をもとにアレンジをし、釉薬を使わずに優しい光沢感を表現。全く同じものは存在せず、たった一つのものに出会える楽しみを膨らませてくれます。かつては会社員として働いていた由上さんに、どのようにして陶刻作家への道を歩んでいったのか、お話を伺いました。

ーものがたり

大好きな動物や自然、哲学からインスピレーションを受けて創作活動をしている由上さん。会社員時代は、自分のやりたいことをやりたい!と思いながらもなかなか勇気を出せずにいたところ、きっかけをくれたのが北海道のニセコに住んでいた亡き叔父さんでした。ニセコを訪ねた際、壮大な自然に触れて過ごしていくうちに子供の頃の記憶を思い出したそうです。

職人さんが轆轤(ろくろ)をひいているのを飽きずにずっと見ていたこと、埴輪(はにわ)のお店で熱心に観察していたこと。自分は土に興味があったのだという記憶が蘇ったのです。

探究心が強かった子供の頃の記憶が、陶芸の道へと進む後押しとなりました。会社員を辞め、陶芸を学んだ後、滋賀県にある陶芸の森に滞在。さまざまな国の人たちと共に制作した経験が、作家として歩んでいくことへの決心へと繋がっていきました。そして2010年に本格的に作家として活動を始め、現在も勢力的に制作しながら販売はインターネットのみで行っています。インターネットを使い、販売まで自ら行うからこそ、想いがお客さまへ伝わるようにと一つ一つ心を込めて制作をしています。

ー想い

忙しい日々の中でも、大切な何かに出会った時はふと立ち止まって、子供の頃の記憶を思い出すようにその時間を愉しむ。そんな出会いが作品を通して生まれてほしいと願いながら制作しています。

過ぎていく時間の中で心を穏やかに暮らしていくことを大切にしている由上さん。その想いから生まれる作品には、由上さんの願う世界、平和への希望が込められています。

陶に想いを込めて、心に刻んで制作をしています

ずっと眺めていたいような、手で包み込みたくなるような温かさを感じる由上さんの作品。一呼吸して、穏やかな時間を過ごしてみませんか。

ー作り手情報

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