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【甲冑話まとめ 】

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甲冑に関連するnote記事をまとめています。
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向山新之右衛門の赤鎧

  井伊の嫡流でありながら、江戸時代を通じ諸所を転々とした挙句越後与板二万石に落ち着いたものの、時には彦根藩の先兵扱いを受けた与板井伊藩。その臣として幕末井伊直安治世、諸奉行に任じた向山新之右衛門着用の具足が発見されました。二万石の家における五十石は藩中の上士であり、その珍しい形式(腹巻式具足)と相俟って与板井伊家家臣幕末期使用の基準が窺い知れる貴重な発見となりました。  特に兜の飾りである「前立物」が彦根藩のような長い金の天衝(てんつき)ではなく、小型の銀の半月(三日月)

「甲冑記録のとりかた」 井伊家歴代甲冑 朱漆塗桶側二枚胴具足(伝・井伊直孝所用-彦根藩家老印具徳右衛門家伝世-)調査報告から

今回はかつて紙面に掲載した、館長による甲冑調査記録をご紹介します。 甲冑、刀剣は日本の歴史・文化面において大変重要な面を担ってきながら、いまだ学問として殆ど手付かずの領域です。明治維新後散逸の危機にあった甲冑を調査し、まとめ上げた人としては山上八郎、かれの「日本甲冑の新研究」を超える書は未だありません。大著ですのでお手に触れた人もそうはいないだろうと思います。 ここではあえて、館長による井伊直孝所用具足の調査記録をそのまま掲載し、後世甲冑を研究したいと思われる方のために一例

「甲冑に近づいてみた」-カブトの舞台裏  『甲冑の解剖術』より-伝・真田昌幸所用具足

昨夜再放送が終わりました、日曜美術館 アートシーン特別編。 「甲冑の解剖術」 (金沢21世紀美術館)に尾上右近氏とともに映っていた、 真田昌幸の赤具足に近付いてみたいと思います。 まずは天衝前立、六連銭脇立、水牛脇立にフォーカスです。 21世紀美術館のプレス向け説明会で館長がお話しさせていただきましたが、 「兜の装飾物が非常に多い」ことがポイントです。 そんな兜の裏側はこのような感じです。玉ねぎのような形を、「突パイ型」と呼んでいます。 この兜に付属する装飾は何と四種類

伊達政宗の周到 日本ただ一つの作例兜から—

(一) 戦国武将中、第一の文藻家は伊達政宗だと私は思っている。直江兼続も当代有数の文人であるが、政宗は尚その兼続を凌いで高い。「文」に於ける俊秀ではその筋目を計る作歌のみならず、通常の文章表現でも斬新であって、かつ気配りに満ちている。自筆書状の残存数は戦国武将中、第一ではなかろうか。 文書の一字一句、一条はまことに重要である。戦国の世界をみごとに渡りきった政宗にとって根本のところ、祐筆は信用していなかった。丁寧な自筆が第一である。大坂冬陣に際して、徳川方に属した政宗は大津