バーチャル世界の半分が怒るかもしれない新番組

 新川良です。「バーチャルってすげー!」って気持ちからそのままV企業の裏方をするようになったVの者です。

 今日お話するのは、なぜ僕がVRoadCasterで新番組を企画することになったのかについて語ったものです。内容が内容なので個人的な発信として綴ることにしました。(本稿は個人の見解であり、所属する団体を代表するものではありません)

 まずは知らない方もいると思うので、改めてVRoadCasterの紹介をしますね。

 VRoadCasterは3D空間上で活動するクリエイター集団です。VRソーシャルアプリ「VRChat」での交流から、2018年に様々なジャンルのクリエイター、技術者が集い、結成されました。3Dモデラ―、イラストレーター、作曲家、ゲームクリエイター、動画クリエイター、デザイナー、CGアニメーターなど、ほとんどがバーチャルタレントを兼ねながら活動する個性豊かなメンバーです。

 ニュース番組「V-TV」、バラエティ番組「Vさわぎ」、音楽番組「オトラボ」など、およそ2年間での番組本数は90本以上、出演されたゲストも60人を越えます。お忙しい中ご出演いただいたゲストの皆様、応援いただいた視聴者の皆様には感謝の念が尽きません。誠にありがとうございました!

 さて、その後1年ほど休止期間を設けていたわけですが、その間バーチャルタレントやVRソーシャル、ハードetc...取り巻く環境が目まぐるしく変わりました。一部をピックアップして簡単に遡ってみましょう。

Vtuberの一般認知

 マスメディアがバーチャルタレントを取り上げること自体は2017年からありましたが、2020年はそれぞれの活躍やニュース性の高さから大々的に取り上げられることが多くなりました。

読売・日本テレビ系列「ダウンタウンDX」にゲスト出演決定
https://kizunaai.com/news/media/784/
Vチューバー、雑談で1億円 投げ銭世界トップ3独占
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66281130W0A111C2TJ1000/

 ただバーチャルタレントが取り上げられることはうれしい反面、いくつかの紹介は「いじり」の面が強い印象を受けました。VRやメタバースといった特性にはあまり触れられることもなく、少し肩透かしを食らう気持ちになりましたが、認知を広めるには十分なインパクトがあったように思います。

VRソーシャルの多様化とVRヘッドセットの普及

 2018年から様々なVRソーシャルが登場。2020年はOculus Quest2の売れ行きが好調なこともあり、莫大な資金調達に成功するVRスタートアップベンチャーも現れました。徐々にVRソーシャルの存在感も顕在化してきています。

Oculus Quest 2の販売台数は「これまでの全VRヘッドセットの合計を上回る」。フェイスブックが明らかに
https://www.moguravr.com/oculus-quest-2-32/

ソーシャルVR「Rec Room」が1億ドル調達、評価額は12.5億ドル超でVR初のユニコーンに
https://www.moguravr.com/rec-room-financing/

箱を活かした独自の世界観

 バーチャルタレントが多数所属する事務所は箱と呼ばれてきましたが、1年の間にYouTubeのアルゴリズムをうまく活用し、所属タレント同士の放送をレコメンドできている点や、タレントの人間関係から多数のファンアートが創られた点など、箱の機能がより強力なプロモーション効果を生むようになりました。

 また、箱を活用した新たな試みも発表され、これからの展開に目が離せません。

VTuberグループ「ホロライブ」、異世界創造プロジェクト『ホロライブ・オルタナティブ』始動のお知らせ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000375.000030268.html
KAMITSUBAKI STUDIO発ゲームプロジェクト「神椿市建設中。」クラウドファンディング開始
https://kai-you.net/article/79359

バーチャルタレントは冬の時代か

 こうした環境が進む一方で3万人を超えたと言われるバーチャルタレントは、親和性はありますがその環境に迎合できるカルチャーにはなれていません。ほとんどのバーチャルタレントにとってVRは存在するためのツールのひとつという面が大きかったですし、元よりゲーム実況やトークが活動目的のバーチャルタレントがほとんどです。またそこから生まれる市場競争の激しさも制作の選択を狭める要因でした。

 バーチャルタレントのほとんどは当然ですが箱ではありません。しかし、デビュー前にYouTubeのチャンネル登録、Twitterフォロワー数が10万を超える事例もあるように、箱であるというアドバンテージはかなり大きいものになっています(それぞれの積み重ねの賜物ですし、タレント本人に企業所属であるというプレッシャーもあります)。個人バーチャルタレントにとって冬の時代かもしれません。

 少し現実的な話になりますが、ファンそれぞれに時間やお金、心を投資する優先度や限度があります。配信が被りどちらかを選択して見ることになれば、優先して見るバーチャルタレントは当然あるでしょう。そういったアドバンテージや優先度がある中で個人で活動するバーチャルタレントの努力は計り知れません。ファンから求められるコンテンツもゲーム実況やトークが多く競争は激化の一途を辿り、去っていくバーチャルタレントも少なくありませんでした。

 企業、個人問わず、メタバースに集まるようなコンテンツはコストや技術的なハードルが高いということもあり、バーチャルタレントは既存のネットカルチャーの延長上の域を超えることが出来ずにいました。エンタテインメントの性質として、なるべくしてなったものと言えます。

 ならそれをサポートできるコンテンツフォーマットを用意すれば、既存のネットカルチャーから脱することに繋がるのではないか。比較的緩やかな競争の中でバーチャルな部分も求められる芽が出てくるのではないか。

 これが今回VRoadCasterの収録システムを再構築し新番組を企画するきっかけになりました。2020年の冬、VRoadCasterは再招集されます。「もう一度番組つくってみない?」と。

新番組の企画

 今回 VRoadCaster は番組制作にゲームエンジン「Unreal Engine」を採用し、VMC(バーチャルモーションキャプチャー)開発のあきら氏の協力の元、HTC VIVE や Oculus といったモーショントラッキング機器があれば誰でも遠隔で収録に参加できる環境を構築。箱や個人、VRソーシャルといった独立したクラスタの垣根を超え、「バーチャル」という一つの世界観として提示するハブになる番組を目指しています。

バーチャルモーションキャプチャ(VMC)

 新番組は学園を舞台に、VR 関連情報やエンタメ情報を扱うニュースコーナーに加え、ゲストを迎えた架空の部活動を紹介するバラエティコーナーの二構成を企画。全12回の1クールを予定しています。また番組と連動したバーチャルエキスポイベントを企画しており、VRユーザーとバーチャルタレントが交流する新たな試みも思案中です。

番組制作の支援も募集しています!

 2018年、VRソーシャルの興隆の中、VRoadCasterは「今生まれつつあるバーチャルカルチャーの半歩先の未来をつくる」ことを目的に結成されました。

 よくVRソーシャルで出る話題に「2018年は謎のワクワク感があった」というものがあります。2018年といえば、VR関連で様々な技術革新が起きたVR元年(仮)だったり、個人バーチャルタレントが続々と登場した個人Vtuber黎明期と呼ばれたりする時期です。

 当時からVRソーシャルは新しい物好きがそれぞれのアバターを纏い、星空を見上げれば「これもうリアルと変わんないや」と呟いたり、新たな技術に喜び、実装に悩み相談し、会った友人にイメチェンやフルトラ化を自慢し合い、寝落ち寸前まで遊んで「また明日」って言ってリアルに戻っていく、そんな場所でした。いずれこの体験を共有できる人が世に生まれてくるんじゃないか。近い未来、あのSF作品が現実になるんじゃないか。期待に胸を熱くして、そうして友人とまた遊ぶ約束を思い出しながら眠ります。僕にとってこの日常は今までにない青春とも呼べるものでした。

 VRソーシャルは成長を続けているし、ハードも徐々に普及し、ユーザーだって増えている。それにも関わらず、前述の話題を上げる人は多い。

 問題は、「いずれこの体験を共有できる人が世に生まれてくるんじゃないか。近い未来、あのSF作品が現実になるんじゃないか」。この期待感をVRから縁遠く話題になっていくバーチャルタレントの界隈を見て、疑ってしまったところが大きいのかもしれません。

 Vtuber黎明期を思い返すと界隈の良さはこういうところにもあったと思うんです。想像力の手が届く限り、なんでも実現できる。何百年と積み重ねてきた人類の創作に現実が追い付いた。この人は何を見せてくれるのか。次はどんな子が現れるのか。未来はどうなっていくんだろう。そういう期待感です。

 番組を通して、できるならこの期待感を改めてみんなと共有したい。始まったばかりのこの世界をこれまでにない時代を代表するカルチャーに昇華できればと考えています。

 拙いところもあるとは思いますが、一緒にあり得るかもしれない未来を創れたらと思います。


 

 


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