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『和魂 - NIGIMITAMA』

シリーズ1 第1話: 「目覚めし太陽」


真琴は、その日もいつも通りの朝を迎えた。

時計が鳴り響き、目覚めると、カーテン越しに差し込む朝陽が部屋を温かく包み込んでいた。
彼女は軽くあくびをし、柔らかい光を見つめながら「今日も平凡な日が始まる」と心の中でつぶやいた。
家を出て、大学へ向かう途中、ふと奇妙な感覚に襲われた。
空はいつも通りの青空なのに、太陽が真琴を見つめているような、まるで彼女に何かを訴えかけているような気がしてならなかった。

「なんだろう、この感じ……」

彼女は頭を振り、気のせいだと自分に言い聞かせ、足早に大学へと向かった。
午前の授業は順調に進み、特に異変もなく昼休みに入った。
しかし、午後の授業が始まる直前、真琴の体に再び違和感が走った。
視界の端に光がちらつき、体が勝手に熱を帯びていく。

「どうして……熱中症?」

周りの友人たちに声をかけようとしたが、言葉が喉の奥で詰まり、次の瞬間、彼女の体が動かなくなった。
目の前が真っ白になり、気を失いかけたその時、遠くから柔らかな声が聞こえてきた。


「お前は選ばれし者……太陽の子よ……」


その声は真琴の意識の奥深くへと響き渡り、彼女は一瞬で夢の中へと引き込まれた。
そこは広大な草原で、夜明け前の空が紫色に染まっている。
目の前には壮大な神殿がそびえ立ち、神々しい光が溢れていた。

「ここは……どこ……?」

目の前に現れたのは、一人の女性。
彼女は優雅な微笑を浮かべ、真琴を見つめていた。
長い黒髪が風に揺れ、その背後には燃え立つような黄金色の光輪が輝いている。

「私はアマテラス。太陽の神……そして、あなたは私の後継者。」

真琴はその言葉に驚き、後ずさりする。
しかし、アマテラスの声には何か不思議な説得力があり、彼女の動きを止めた。

「なぜ……私が?」

「あなたは選ばれた。人々を照らし、導くために。古代から続くこの力を、あなたが受け継ぐのです。」

アマテラスが手を差し出すと、その掌からまばゆい光が溢れ出し、真琴の心臓に触れた瞬間、彼女の体は太陽の熱と力で満たされた。
光が彼女の全身を包み、鼓動が早まる。
体の奥底から溢れ出る力が、彼女の手の中に集まり、まるで世界全体を掌握したかのような感覚が広がっていく。

「この力……これが私のものなの?」

アマテラスは静かに頷き、微笑んだ。

「その力をどう使うかはあなた次第。だが、覚えておくがいい。この世界には、光だけではない。闇もまた存在し、それは常にあなたの力を狙っている。」

真琴はその言葉の意味を理解しきれなかったが、目覚める前に、アマテラスの最後の言葉が彼女の意識に刻まれた。

「太陽は常に昇る。どんな闇の中にあっても、あなたは必ず光を見つけ出すことができる。」

真琴は急に現実に引き戻された。
自分の体が教室の床に横たわっていることに気づき、目を覚ましたときには、周りの友人や先生が心配そうに見守っていた。

「真琴、大丈夫!?」

友人の美咲が駆け寄り、真琴の肩を揺すった。
体はまだ熱を帯びていて、頭の中は混乱していた。
夢の中でのアマテラスの言葉が今も脳裏に焼き付いていたが、現実感が湧かない。

「えっと……私は……大丈夫……」

頭を軽く振り、真琴は起き上がった。
周りの人々はまだ彼女を心配そうに見つめている。
けれど、彼女の頭の中は先ほどの出来事でいっぱいだった。
**太陽の力**、アマテラス、後継者……すべてがあまりにも現実離れしていて、理解できない。

「ちょっと……外に出るね。」

真琴はそう言い残し、教室を飛び出した。校舎を抜けて外に出ると、太陽が真上に輝いているのが目に入った。光が彼女の肌を暖かく包み込み、その瞬間、彼女の中で再び熱が走った。

「これが……アマテラスの力……?」

右手を見つめると、手のひらにわずかな光が宿っているのがわかる。
真琴は驚いてその手を握りしめた。信じがたいが、確かに何かが変わったのだ。
その時、遠くから叫び声が聞こえた。
真琴は反射的にその方向に目をやると、道の向こうで車が制御を失い、歩道に突っ込もうとしているのが見えた。
真琴の心臓が跳ね上がる。

「危ない!」

真琴は無意識に走り出した。
彼女の足は異様に軽く、すぐにその現場に到達すると、車がまさに子どもたちに衝突しようとしている瞬間だった。
恐怖に震えながらも、真琴は手を前に突き出した。
その瞬間、体の奥から溢れ出す熱が右手に集まり、眩いばかりの光が放たれた。

「止まって……!」

彼女の叫びと同時に、光が車を包み込み、その動きがぴたりと止まった。
まるで時間が凍りついたかのように、車は子どもたちの寸前で静止している。真琴は驚愕し、後ずさりした。

「何……これ……」

彼女の手の中には、今も太陽のように輝く光が残っていた。
力を行使したという感覚はあったが、それがどういう仕組みなのか、どうやってそれをコントロールすればいいのか、全くわからない。
子どもたちは無事だったが、真琴の頭の中は混乱でいっぱいだった。
自分が今したこと、そしてこれからどうするべきか――すべてが未知数だ。
その時、背後から低い声が聞こえた。

「やるじゃないか……太陽の後継者。」

真琴は振り返ると、そこには長身の青年が立っていた。
彼の目は真琴を鋭く見据え、肩に力強さを漂わせていた。
その手には、雷のような電光が一瞬ちらついたのを真琴は見逃さなかった。

「誰……あなたは?」

「俺の名前は嵐牙。雷神スサノオの後継者だ。どうやら、俺たちの出番が来たみたいだな。」

真琴は嵐牙の言葉に混乱しながらも、強烈な違和感を感じた。
**スサノオの後継者?雷の神?** 彼が放つ異様なオーラと、手にちらついた雷のような光に、現実の感覚が揺らぎ始める。

「あなたも……神の力を?」

嵐牙は軽く頷き、目を細めた。

「ああ。俺はスサノオの力を受け継いだ。どうやら、俺たちは同じ運命を背負っているらしいな。」

「運命……?」

真琴の頭の中はぐるぐると巡り、状況を整理することができない。
太陽の力を突然手にした自分と、今目の前にいる雷の力を持つ青年。
これまでの普通の生活が、わずか数時間で激変してしまった。
嵐牙は彼女の動揺を察したのか、少し柔らかい口調で言った。

「落ち着け。こういうことは、突然すぎるし、混乱するのは無理もない。だが、俺たちはこういう存在なんだ。神の力を受け継ぎ、世界のバランスを守る者として、選ばれたんだよ。」

「世界のバランス……?」

その言葉が引っかかった真琴は、さらに深く問いただす。

「どういうこと? なんで私が選ばれたの?それに、他にも私たちみたいな人がいるの?」

嵐牙は少し間を置いてから、真剣な表情で語り始めた。

「世界は常にバランスを保っている。光と闇、秩序と混沌、太陽と月――そういった相反する力が均衡を保つことで成り立っているんだ。しかし、その均衡が今、崩れようとしている。闇の力が力を増し、古代からの封印が解かれかけている。それを防ぐために、俺たち後継者が選ばれたんだ。」

「後継者……何人いるの?」

「俺も全部は知らないが、少なくとも、お前と俺以外にも存在する。各地で自分の運命に目覚めた者たちがいるはずだ。だが、俺たちがこの力をどう使うかで、世界の未来は決まる。」

真琴はその言葉に戸惑いを隠せなかった。
突然背負わされた大きな責任。
自分が普通の大学生としての生活から、神々の力を受け継ぐ後継者としての役割を果たさなければならないという現実が重くのしかかる。

「私にそんなことができるの……? 私はただの普通の人間だったのに……」

嵐牙は真琴をじっと見つめた。

「普通の人間かどうかなんて関係ない。お前は選ばれた。それが全てだ。」

その時、嵐牙のポケットに入れていた通信デバイスが震え、彼はそれを確認すると険しい表情になった。

「おい、話してる時間はないかもしれない。闇の勢力がこの街に接近しているようだ。準備はできていなくても、戦うしかない。」

「闇の勢力……?」

嵐牙は真琴を見据えて頷いた。

「そうだ。奴らは混沌と破壊を求めて動き出した。俺たちが彼らを止めなければ、全てが終わる。」

真琴は動揺しながらも、太陽の力が再び手の中で温かく輝いているのを感じた。まだ自分の力を完全には理解していないが、何かが彼女の中で変わりつつある。

「分かった……やってみる。」

嵐牙は少し驚いたように見えたが、すぐに笑みを浮かべた。

「その意気だ。行くぞ、太陽の後継者。」

真琴と嵐牙は、街の外れにある古い倉庫へと急いで向かっていた。
嵐牙の持っていたデバイスが示す通り、そこには**闇の勢力**が現れる兆候があった。
真琴の心臓はドキドキと早鐘を打っている。まだ自分の力を完全に理解していないまま、初めての戦いに挑む不安と恐怖が、彼女の中で渦巻いていた。

「お前、どうした?顔色が悪いぞ。」

嵐牙が横目でちらりと真琴を見た。彼は戦い慣れているのか、冷静な表情を崩さない。

「私は……まだ準備ができていないかも……」

真琴は小さな声でつぶやいた。

「誰だって最初はそうだ。でも、考えすぎるな。戦いの中で学ぶんだ。力を信じろ。」

嵐牙の言葉にはどこか厳しさがあったが、その奥には励ましの意図が感じられた。
彼らが倉庫の前にたどり着いたとき、空気が一気に冷たくなった。周囲の空気が重く、暗闇がじわじわと押し寄せるかのようだった。倉庫の中から、低く不気味な唸り声が聞こえてくる。

「奴らだ……」

嵐牙は静かに言った。

「行くぞ。」

真琴は大きく息を吸い込み、嵐牙の後を追った。
倉庫の中は薄暗く、床には不規則に散らばった荷物や機械が並んでいる。
その中に、人間の姿ではない異形の者たちがゆっくりと歩いていた。
彼らの姿は、まるで影が具現化したように見え、闇そのものが形を成したかのようだ。

「これが……闇の勢力?」

真琴は思わず後ずさりしたが、嵐牙は一歩も引かず、雷の力を手に集中させ始めた。

「気をつけろ、奴らは影のように素早い。光の力で奴らを照らせ。」

真琴は緊張しながら、手のひらを見つめた。

太陽の力――自分に宿る光が今、必要とされている。彼女はその力を呼び覚ますように、アマテラスの言葉を思い出した。

「……太陽よ……私に力を……!」

その瞬間、彼女の手のひらが再び輝き始め、太陽の光が倉庫内を明るく照らした。
光が闇の勢力に触れると、彼らは苦しむようにうめき声を上げ、後退し始めた。

「やった……!」

だが、喜ぶのは早すぎた。
闇の勢力の一体が、真琴に向かって猛然と飛びかかってきた。
驚きと恐怖で体がすくんでしまった瞬間、嵐牙が前に飛び出し、雷の力でその怪物を撃退した。

「おい、油断するな!戦いは始まったばかりだ!」

真琴は心臓が止まりそうだったが、彼の言葉で我に返った。
**この力をもっと信じなければならない。** 自分には太陽の神の力がある。それを恐れるのではなく、使いこなさなければならない。

真琴は再び集中し、両手に光を宿した。
今度は躊躇せずに、その光を放ち、闇の勢力に向けて攻撃を仕掛けた。
彼らは光に飲み込まれ、一体、また一体と倒れていく。
嵐牙も雷の力で次々と敵を撃破していく。
二人の連携は、まだ完璧とは言えないが、少しずつ噛み合い始めていた。

戦いが終わり、静寂が戻った倉庫の中で、真琴は息を切らしながら嵐牙を見つめた。
彼もまた、呼吸を整えつつ、静かに微笑んでいた。

「お前、思ったよりやるじゃないか。」

真琴は苦笑いしながら言った。

「正直、何が起こったのかまだ整理できてないけど……少しずつ分かってきた気がする。」

嵐牙は頷きながら、真琴の肩に手を置いた。

「これからだ。俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。この世界を守るために、俺たちはもっと強くならなきゃならない。これが後継者としての運命だ。」

真琴はその言葉に重みを感じながらも、心の奥底に燃える決意を感じた。

「分かった。私は……この力を信じる。そして、戦う。」

嵐牙は満足そうに頷き、二人は外へと歩き出した。

太陽が再び空高く輝き、彼らの次なる戦いの予兆を静かに見守っていた。


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