NFTアートの所有にまつわる問題と、「デジタル所有権」について整理する。
イケハヤです。
突然ですが、みなさんはビットコインなどの仮想通貨を持ってますか?
ぼくはめっちゃ持ってます。
でもですね、この仮想通貨、日本では「所有権」が認められていないらしいんですよ!
仮想通貨には所有権がない。
ぼくは法律の専門家ではないので引用にとどめますが……マジなんです。
え……所有権がないってどういうこと?
ぼくのウォレットに入ってるビットコイン、ぼくには所有権がないの????
じゃあ誰の???
所有権がないなら、誰のものでもないの???
国が勝手に没収することもできちゃうの????
って感じですよねw でも、ほんとうに「ビットコインに所有権はない」ようです。ぜひ調べてみてください。
日本の法律では「無体物(かたちのないもの)」には、そもそも所有権が認められません。
仮想通貨はデジタルデータであり無体物であるため、「所有権がない」ということになります。えぇぇ……。
NFTアートの所有権問題。
こうした構造は、もちろんNFTアートについても同じことがいえます。
ぼくがアイコンにしている「CryptoPunks」を例に考えましょう。
もっとも代表的なNFTアートであることに、異論はないでしょう。
ぼくが所有(own)していることは、ブロックチェーン上でも証明されています。
このNFTアートは、ぼくが管理しているウォレットの中に保管されています。
仮想通貨と同じように、悪意あるハッカーに秘密鍵などが盗まれないかぎり、誰かがこのアートを奪うことはできません。
また、画像データもイーサリアムの上に載っているので、CryptoPunksを開発した「Larva Labs」が倒産しても、決して消えることはありません。
・誰も奪うことができない
・決して改変されることがない
・決して削除されることがない
フルオンチェーンのNFTアートであるCryptoPunksは、ビットコインと同様に、こうした性質を持っています。
ぼくはCryptoPunksを所有していない!?
で。
NFTアートに批判的な人の意見を見ると、
「日本の法律では、NFTアートには所有権は認められない。にもかかわらず、「NFTアートを所有する」と表現するのは、勘違いにつながる。問題だ」
という話が出てきたりします。
こういう批判的な意見を持っている人たちは、たとえばぼくが
「私はCryptoPunksのNFTアートを所有しています」
と発言すると、
「NFTアートに所有権はない!お前が”所有感を感じている”だけで、お前は決してアートを所有していない!そういう物言いをするのは、詐欺だ!」
みたいな感じの批判が飛んできます。割とマジで。
この記事で整理したいのは、「所有している」ことと「日本の法律で所有権が認められる」ことには、違いがあるということです。
ぼくのウォレットにあるビットコインは、ぼくが所有しています。
日本の法律で所有権が認められないとしても、他の誰かが所有しているわけではありません。
ぼくのウォレットに入っている以上、文句なしに、このビットコインはぼくの所有物です。
そのことに、異論を挟む人はいないでしょう。
同様に、ぼくのウォレットにあるNFTアート(CryptoPunks #2280)は、ぼくが所有しています。
ぼくが所有していなかったら、いったい誰が所有しているのでしょう?
しかし、なぜかNFTアートとなると、「NFTアートを所有している」と記述することが炎上ネタになります。
ほら、これとか、詐欺師呼ばわりです……。
というか、ぼくは一ミリも「誤認するように書いて売っても問題ない」なんて書いてないんですけどね……。
てか、CryptoPunksは公式で「所有(own)」という表現使ってますねw これが「詐欺」なんでしょうかねぇ……。ぼくにはそうは思えませんが。
なぜNFTアートは「所有しているのかどうか」「所有権の有無」で炎上するのか?
我々はこの謎を解くべく、南米の密林へ潜入した……。
NFTアートの原画問題。
ここからは南米の密林です。
まず、NFTアートに対する批判としてよくあるのは、
「NFTそれ自体はたんなるトークンであって、トークンが参照している画像は別の場所に保管されている。NFTは消えないが、画像は改変されたり、消えることがある」
というフォーマットです。
これはそのとおりで、ぼくも異論はありません。
NFTアートにはさまざまな形式があり、いわゆる「フルオンチェーン」のアート作品の場合、NFT(スマートコントラクト)そのものが原画になっています。
こうしたアート作品の場合、そもそも外部の画像を参照していないため、前述のような「NFTは画像は改変されたり、消えることがある」という批判は成り立ちません。
また、BAYCなどのコレクションは「IPFS」という分散型のファイルシステムを利用して、これらの問題に対処しています。
IPFSの永続性はまだ十分に検証されていませんが、AWSなどのサーバーに比べると、耐検閲性が優れているため「かなりマシ」であるとぼくは考えています。
「トークンが参照しているアート画像は別の場所に保管されている」という批判についてまとめると、
・フルオンチェーンNFTの場合は、そもそも批判として成り立たない
・IPFSを使い、同時に改変を不可能にすれば、NFTとアート画像の結びつきは、十分に強固だと考えられる
という感じになりますね。
「アートを所有する」の曖昧性。
また、議論を難しくしているのは、そもそも「アートを所有する」という行為自体が非常に曖昧な点にもあります。
ぼくは、CryptoPunks、BAYCというNFTアートを所有(own)しています。
しかし、批判者は「NFTはアートそのものではない」と語ります。
彼らは、「NFT」と「アート」は厳格に区分けできる「別物」だと考えているように見えます。
NFTがアートを参照しているだけだ、ということですね。
ここにおいて、彼らとぼくの間では「アートの実体」についての理解が異なっています。
ぼくは、特にCryptoPunksは「こんなのはアートではない」といった批判を巻き起こす性質を含めて、これは現代的なアート作品だと考えています。
NFTが参照する画像データがオンチェーンにあろうがなかろうが、そこになんらかのアート性が認められるなら、それは「NFTアート」です。
ただし、これはぼくの主観的な感覚です。
IPFSを利用するBAYCについては、「NFTとアート(画像)そのものは別物である」というのは、記述的な意味では正しいです。
しかし、それをもってしてもなお、「アートの実体がNFTに含まれている」という認識は可能なのです。
ぼくは「NFTとアートが紐付いていない」という前提に違和感を抱きます。
BAYCのNFTはIPFSを参照していますが、ぼくは十分にこのお猿さんは、完成した一個の「NFTアート」だと感じます。
そしてぼくは、この「NFTアートを所有」しています。この表現が詐欺的であると言われても、感覚的に理解できません。
てか、そんなんいうたら「油彩画はアートそのものではなく、あくまで絵の具の集合体だ。アートそのものは作者の頭の中にあるんだ!油彩画はアートそのものではない!」みたいな話になってきちゃうんじゃないかなぁ……。
「所有すること」と「所有権が認められること」は違う。
先ほども書きましたが、もっとも重要なのは「所有すること」と「国が認めた所有権があること」は、実はぜんぜん違う話である、ということかなと思います。
そのことは、冒頭で述べた「ビットコインに所有権が認められない」という話がわかりやすいでしょう。
現在の法律ではビットコインに所有権は認められません。
しかし、自分ひとりが管理するウォレットのなかにあるビットコインを、私が「所有している」ことは明白です。
そうでないとしたら、このビットコインは、私以外の誰が所有しているのでしょう?
「明白に個人(やコミュニティ)が所有しているけれど、国家と法律は所有権を認めていない」という状態は、ごく普通にありえるということです。
NFTやビットコインは、今その状態です。
国家が所有権を認めていないから、ぼくらはNFTやビットコインを所有していることにはならない……としたら、恐ろしいことですね。
資本主義の歴史をたどれば、そんな闘争ばかりだったのかもしれません。
それもあって、最近は「デジタル所有権(Degital Ownership)」という新しい法的概念にまつわる議論も始まっているようです。法律のほうが追いつくといいですね。
まとめ。
本記事の主張をまとめます。
・NFTアートへの批判として「NFTはアート画像を参照しているだけだ」というものがあるが、フルオンチェーンNFTについては該当しない
・BAYCはIPFS上のアート画像を参照したNFTだが、所有者であるぼくは、これが十分に「NFTアート」足り得ると感じている
・「所有している」ことと、「国家が所有権を認めている」ことには、明確な断絶がある
・ビットコインには所有権が認められていないが、私たちはビットコインを所有することができるし、それはNFTも同様である
・デジタルデータに所有権が認められないという法的ルールのほうが、シンプルに古いだけで、現に「デジタル所有権」の議論は始まっている
日本でも早く「デジタル所有権」が規定されるといいですね。
ビットコインだってNFTだって、そのウォレットの持ち主が「所有している」ことは明らかですから。
もっとも、こうした整理が終わるまでは20年くらい掛かりそうですが……。
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