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【出版物紹介】訳書『クリスマス・キャロル』

チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』井原慶一郎訳・解説、春風社、2015年


書評掲載情報

▼東雅夫・下楠昌哉(責任編集)『幻想と怪奇の英文学II―増殖進化編』(春風社、2016年7月)の執筆者紹介のコーナーで、「本書に御寄稿いただいたテーマに関心を抱いた一般の読者が、続けて手に取るべき推奨本」として紹介(435頁)。紹介者は同志社大学文学部教授の下楠昌哉氏。

昨年出版された井原慶一郎氏によるディケンズの『クリスマス・キャロル』(春風社)の翻訳は、幽霊物語は本来クリスマスに炉端で語られるものであるという伝統にディケンズの物語を送り返しており、秀逸です。ディケンズも雑誌というメディアと関係が深い大作家ですね。

『幻想と怪奇の英文学II―増殖進化編』(春風社)

冥界からの訪問者たちは次々と別の世界を主人公に垣間見させる。舞台でいえば書割りの急速な展開転換であり、もっと大掛りにいえば要するにパノラマである。格差社会図のパノラマをスクルージとともに我々は眺めているのだ。いうまでもなく文化史的にも名高い「パノラマニアック(パノラマ狂)」の一八四〇年代ではあった。これ、ポイント! 幽霊の舞台化にあずかって力あった当時の幻燈興行等のことは、視覚文化論の名作、アン・フリードバーグ作『ウィンドウ・ショッピング』(松柏社)の訳者たる井原慶一郎氏のこととて、短い解説中に見事にまとめてみせてくれているが、幽霊興行にしろパノラマ的展望にしろ皆、英国ピクチャレスク文芸の問題、そして近現代視覚文芸論の中核テーマなのであり、ディケンズの社会批判小説の意外な後背地の広さに改めて驚かされる。(高山宏氏=批評家・翻訳家/大妻女子大学教授)

「図書新聞」2016年1月30日号【まさに今のための本――実は相当なまなましい経済小説、格差指弾の苦い作品】

幾度も邦訳されている名作だけに、これまた斬新な趣向が凝らされている。なんと「炉端で語られる幽霊話」としての本来の味わい(訳者による詳細な解説によると、ディケンズ自身が「炉端で読み、炉棚に飾るのにふさわしい」小ぶりで美しい装丁の本にしたのだという)を醸し出すべく、「ですます調」を採用したというのだ。「いいですか、みなさん、マーレイは死んでいます」という、聴衆を前に語りかけるような語勢の冒頭の一文からして、訳者の姿勢は歴然だろう。英国における「クリスマス」の風習の変遷と、近代におけるその復活に果たしたディケンズの役割、そしてクリスマスと幽霊話の関係、さらには心霊主義と対峙するディケンズの姿勢に至るまで、詳しい解説が施され、本邦初収録の米国版挿絵(ソロモン・アイティンジ画)二十五葉が彩りを添えている。また、通常の四六版よりも横幅を狭めた判型も、掌になじみやすく、初刊時におけるディケンズの意図に沿ったものとなっている点も心憎い配慮と言えよう。(東雅夫氏=文芸評論家・編集者)

「小説推理」2016年2月号【今月のこの一冊(「幻想と怪奇」)】

孤独なクリスマスを迎えた老人が精霊に導かれて自分の過去やつつましい家族に接し、温かな心と感謝の気持ちを取り戻す物語。19世紀半ばに出版され、明治以降、村岡花子訳ほか60点以上の邦訳が出た。日本では児童文学のイメージが根強いが、井原教授によるとディケンズは子供の貧困問題へ社会の目を向けさせる狙いから執筆した。新訳版は内容、装丁とも一般向けを意識したという。(本坊弓子氏=文化部)

「南日本新聞」2015年12月23日【鹿児島大井原教授「クリスマス・キャロル」新訳】

本書では、クリスマスの夜に炉端で繰り広げられる幽霊話が、原作に忠実に、読みやすい語り口調でつづられる。ディケンズに詳しい井原さんの豊富な解説付きで、ディケンズが描いた19世紀ロンドンの時代背景や、クリスマスの本当の祝い方などについても知ることができる。日本初公開となるディケンズ公認のチャーミングな挿絵も25点を収録した。(坂口涼氏=記者)

「鹿児島経済新聞」2015年12月16日【鹿児島大学教授が新訳 大人のための「クリスマス・キャロル」出版、読書会も】

何度も映画化、舞台化されたイギリスの国民的作家による著名な作品を、ディケンズ公認のアメリカ版挿絵25点とともに、子ども向けにではなく大人に向けて、読みやすくかつ原作に忠実な語り口調で新訳。その他に作品が書かれた当時の時代背景や19世紀英国でのクリスマスの様子なども理解できる注釈や解説も付く。(編集部)

「週間読書人」2015年12月11日号

19世紀英国の文豪チャールズ・ディケンズ著『クリスマス・キャロル』の新訳(井原慶一郎訳、春風社)が、クリスマス時期に合わせて刊行された。同作は村岡花子訳(新潮文庫)、池央耿訳(光文社古典新訳文庫)など既に複数の訳書がある。これらに対し新訳は、原文のリズムや19世紀の社会状況をできるだけ忠実に伝える工夫を凝らしている。(郷原信之氏=文化部)

「日本経済新聞」2015年12月13日【〈活字の海で〉「クリスマス・キャロル」新訳 大人向け読み物に】

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