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田中靖浩『名画で学ぶ経済の世界史』(マガジンハウス)

対局つかみ明解に説明

本書のテーマは「名画」なのか「経済」なのか、それとも「世界史」なのか、タイトルからは分かりにくいが、本書は美術を教養として学びたい人向けに書かれた良質な絵画入門書である。全7章は「章」ならぬ「7つの部屋」(イタリア、フランドル、オランダ、フランス1・2、イギリス、アメリカ)に分かれていて、各部屋を回りながら絵画と経済の物語を楽しめる構成になっている。紹介される画家はダ・ヴィンチ、ヤン・ファン・エイク、ブリューゲル、レンブラント、ルーベンス、ダヴィッド、ジャン=フランソワ・ミレー、印象派、ターナー等と多岐にわたる。

著者は現役の公認会計士。2018年に出版してベストセラーになった『会計の世界史』の著者と言えば、知っている人も多いのではないだろうか。この本でおこなった絵画の紹介が好評だったので、その姉妹編として絵画を中心とした本書が書かれた。よって、本書は美術史家が書いた絵画入門書とは一味も二味も異なるのだが、本書が優れている点は、絵画史を経済と世界史と絡めて大局的につかむ視点と、それらをわかりやすくプレゼンする能力にある。おそらく後者は会計セミナーの講師を長年務めてきた著者の経験により培われたものだろう。

図版の使い方がうまく、説明も要を得ている。例えば、ダ・ヴィンチの「受胎告知」(1472年頃)がいかに絵画として画期的で優れているかを13世紀と14世紀に描かれた2枚のゴシック期の「受胎告知」と比較することで明快に浮かび上がらせ、「人間が見たままを表現しようと試みる遠近法には『人間中心』の姿勢があります」とポイントを押さえて説明してくれる。

本書は14世紀にヨーロッパで大流行したペストの話から始まる。著者によれば、その後イタリアで花開いたルネッサンスはギリシャ・ローマ美術の再生であると同時にペストからの復活でもあった。本書の副題が「国境を越えた勇気と再生の物語」と銘打たれている所以である。

2020年11月15日(「南日本新聞」掲載[一部改稿])