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上平崇仁『コ・デザイン デザインすることをみんなの手に』(NTT出版)

一緒に創造する社会へ

例えば、オフィスのゴミ箱。狭義のデザインとは、このゴミ箱を設計したプロダクトデザイナーやゴミ箱に表示する文字などをデザインしたグラフィックデザイナーの仕事を指す。だが、実際に利用する際には、そのゴミ箱をどこに設置し、どのようなルールで運用していくのかということまで含めて考えなければならないだろう。これが本書が扱う広義のデザインであり、こうしたデザインには「コ・デザイン」と呼ばれる「協働のデザイン」の視点が不可欠だというのが著者の主張である。

コ・デザインとは、デザイナーや専門家などの限られた人々によってデザインするのではなく、実際の利用者や利害関係者たちと積極的に関わり合いながらデザインを進めていく取り組みのことである。著者は、その事例としてコペンハーゲンの小学校に設置された螺旋状の滑り台を紹介している。これは小学校の校庭を市民のためのオープンスペースに作り変える過程で出てきたアイデアで、「校舎の上から一気に下まで降りたい!」という子どもたちの突拍子もない発想を建築家がうまく掬い上げ、制約を乗り越えたうえで実装したものだ。建築家は子どもたちと協働作業することで利用者重視の空間を創出することができ、自分たちだけでは思いつかないようないくつもの斬新なアイデアを得ることができた(滑り台はそのうちの一つ)。

この滑り台には、設計する側が実際の利用者側と相互作用することによって、より高い創造へジャンプすること、つまり『いっしょにつくる』ことを通して、予定調和を超えてデザインすることの可能性が示されています。

本書は、デザインとは何かを根本的に問い直したうえで、コ・デザインの重要性を幅広い理論と豊富な事例を用いて解説している。地方の街で交流拠点を効果的に作り出している試みとして鹿児島県阿久根市のイワシビルも紹介されている。これも、経営者とデザイナーのコ・デザインの取り組みとして高く評価できる事例だろう。

2021年3月21日(「南日本新聞」掲載[一部改稿])