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若冲の現代性

近年の若冲ブームはここ十年くらいのものだそうだ。美術史をほとんど知らない若い人たちが若冲の不思議な魅力に惹き付けられているという点は注目に値する。

若冲の再評価は辻惟雄氏の「奇想の系譜」(1970年刊)から始まる。「美術手帳」に連載されていた経緯もあるだろうが、辻氏が現代の若者文化の感性で若冲を評価している点が面白い。「『蓮池遊鮎図』の蓮のように、海底都市とか、火星の植物とかいったSF的な連想を喚び起すものや、あるいは『老松白鳳図』の鳳凰の尾羽の桃色のハート型の乱舞のように、それこそサイケデリックな幻覚を誘い出すものすらある」といった具合である。

アーティストの村上隆氏は「スーパーフラット」展のカタログの序文のなかで若冲の「群鶏図」や「樹花鳥獣図屏風」を紹介し、それらが日本のアニメーションの表現(劇場版「銀河鉄道999」や「幻魔大戦」を手がけたアニメーター金田伊功の仕事)にまっすぐ繋がっていると主張している。両者の特徴は超2次元的な画面構成であり、鑑賞者の視線は画面の奥に向かって進む代わりに、平面的な画面のうえを複雑かつスピーディーに走査するという。

鹿児島市立美術館(「若冲・琳派と雅の世界」展)で公開中の「雪中雄鶏図」を見てみよう。まず目に入る鶏の赤い頭は画面の最下部やや左寄りに配置されており、視線はそこから右方向に胴体、上向きの尾の部分へと進み、竹やその葉に積もった雪に添って左上部まで進んだ後、雪の重みと共に一気に視線が落ちた先が出発点となった鶏の赤い頭である。

こうした画面構成は若冲の専売特許ではないし、若冲の絵の魅力のごく一部を説明するものにすぎない。さらに言えば、現代の感性で江戸時代の作品を語るのは問題ありかもしれない。しかし、現代的な読みを許容できるところも若冲の魅力であることは確かである。そうでなければ近年の若冲ブームは理解できないだろう。

2012年4月25日(南日本新聞コラム「南点」掲載)