粒のひとつとして、犬の成長を見ていきたい
わたくしは奈良を飛び出して大阪へと向かった。
梅田クラブクアトロで開催される「柴田聡子 Tour 2024 “Your Favorite Things”」を見に行くために。
そうです、このnoteに記事を書くのは2年前「柴田聡子 Tour 2022 “ぼちぼち銀河”」の京都磔磔公演について書いた記事以来であり、そしてわたくしがライブハウスに行くのもその時以来なのです。その時の記事はコチラ
元々人混みが大嫌いなのもあって、コロナ禍を経てすっかりライブハウスに行く習慣がなくなってしまったが、柴田聡子のバンドセットでのライブだけは別格。「女房を質に入れても見に行かなあきまへん!」というやつだ。
乗りたくない混雑した電車に乗って、歩きたくない混雑した大阪の街を抜けて、人が集結したライブハウスに約2時間閉じ込められて、また混雑した大阪の街を抜け混雑した電車に乗って家に帰る。考えただけで嫌だ。げっそりする。でも柴田聡子のライブだけはそれをしてでも見る価値がある。大げさに言えば命懸けで見る価値があるのだ。最悪死んでしまっても仕方がない。それぐらいの心持ちで梅田クアトロに行った。ただ見るだけではあるが。
上記の写真は開演30分前に撮ったものだが、このとおり今回は一番後ろのエリアの手すり(細いテーブルのようなものもついている)の位置を確保できたので、かなり快適に見る事ができた。しかもこの位置は床が高くなっているので、後方から会場全体をやんわり俯瞰できるのもポイント。2階席のような完全俯瞰ではなく、僅かに俯瞰というのが本当に絶妙で、眼前のお客さんたちが綿棒のように並んだ様子を含めてライブパフォーマンスを堪能できるすごく良いアングルであった。しばっちゃんの今回の新譜の「Side Step」という曲に〝回りませんか?粒のひとつとして〟というフレーズがあるが、本当に粒になった人々が踊っている(回っている)様子が見れてわたくしは大満足です。もちろんわたくしも後方でささやかではありますが〝粒のひとつ〟になっておりました。
※以下は「柴田聡子 Tour 2024 “Your Favorite Things”」のセットリスト等のネタバレを含みますので、万が一これから行かれる予定の方はお引き返しくださいませ。
今回の柴田さんのパフォーマンスで一番驚いたのは、ギターを持たずにマイクを手持ちでステージ上を飛び跳ねながら笑顔で歌っておられたという点です。ギターを弾きながら歌う印象があまりにも強かったので新鮮な気持ちでその様子を見ていた。昔、ギターを持たずアカペラで床を踏みしめながら「カープファンの子」を歌っている動画をYoutubeで観た記憶があるが、あれ以来のレアな光景だった。これからはこれがスタンダードになるのかもしれない。
今回のセットリストの序盤は、新譜「Your Favorite Things」の曲順通りに進んでいった。わたくしはもう2曲目の「Synergy」の時に既にこみ上げてくるものがあった。さきほど言ったように、眼前に柴田聡子を聴きに来たたくさんのお客さんの後頭部が揺れており、ライティングによって逆光になった人々の輪郭が美しく縁取られているその様子がなんだかやたらとグっときて涙が突き上げた。柴田さんのライブパフォーマンスを見るとなぜだか涙が出てくるというのは過去にも何度かあった。今日は3回か4回ぐらいはそういった突然の涙が突き上げるシーンがあった。
「うつむき」〜「白い椅子」は、音源と同じように曲がそのまま繋がって演奏されたが、ライブでは「うつむき」のラストのテンポが早送りになって え?なになにこのアレンジ!となったまま「白い椅子」へと突入していくのが面白かった。
ライブの中盤ごろ、柴田さんだけの弾き語りコーナーがあり、そこで「スプライト・フォー・ユー」と「どうして」の2曲を歌ってくれた。「スプライト・フォー・ユー」もとても好きな曲だが、あらためて「どうして」の傑作ぶりを再確認した。たった数分の弾き語り曲で、まるで2時間の映画を観終えたような充実感がある。時間の概念がよくわからなくなる凄まじい曲である。
今回の新譜の中でわたくしは圧倒的に「Side Step」がお気に入りですが、ライブでは本当にメンバー全員がサイドステップをしながら演奏していた。とてもおちゃめな光景だった。この曲が好きすぎるので曲が終わる頃にあと3回ぐらいループしてほしいと思いながら別れを惜しんだ(この曲の歌唱は息継ぎが難しいらしいのでこれぐらいの尺が限界なのかもしれない)
この後は「Reebok」「ぼちぼち銀河」「ワンコロメーター」「後悔」「結婚しました」と凄まじい曲たちの釣瓶打ちだったが、中でも白眉はやはり「ワンコロメーター」でした。メンバー紹介と共に曲が始まったが、この曲がいつの間にかファンの中で〝待ってましたソング〟として定着しているのも面白いし、そして実際にこの曲は凄まじい成長を遂げている。
最初に音源で聴いた時、この曲がまさかここまでカッコいいアレンジになってライブの定番曲に進化していくとは思いもよらなかった。本当にどんどん成長していく犬のよう。しかし〝2丁目の吉田さんとこの逃げた犬〟というやや脱力系の歌詞なのに、なんでこの曲がこんなにかっこよくなってしまうんだ。そのアンビバレント感も含めて全てがおもしろすぎる。このままずっとずっと進化して思いもよらない魔改造を見せておくれ。犬の成長をずっと見せておくれ。
そうこうしているうちに、表題曲である「Your Favorite Things」が演奏され、最後に無言でお辞儀をした柴田さんがステージから先にハケて(ハケるとき飛び跳ねながら奥へ下がっていったのもおちゃめだった)、残りのメンバーがアウトロを演奏しそのままアンコール無しでライブが終了した。まさかアンコールが無いとは驚き。
そのまま速やかにシュタタタ〜っと階段を降りてクラブクアトロから脱出し、大阪駅に行く前に解体寸前の変わり果てたマルビルの様子を一瞬チェックしてから無事奈良に戻り〝粒のひとつ〟から通常のつまらない人間に戻った。これからも時おり〝粒のひとつ〟になって柴田さんの周りを回っていたいと思う。
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