生の棘

黄色い線の内側に
お下がりください
一番線に
死者がまいります
というアナウンス

新宿で流したらどうなるんでしょう
東口から西口が見えるくらいに
西口から東口が見えるくらいに
人はちりぢりになっていなくなるんでしょうか

そのあとは一番線に死者の群れ。
参るという言葉どおりに
なんとなく申し訳なさそうにしている

参る、とは、行く、来るの謙譲語なのだから
参りますというなら電車はなべて申し訳なさそうにしろと
町田康は『へらへらぼっちゃん』に書いていて
そのとおりだなこの死者のように
行くときも来るときも申し訳なさそうにしろ

太宰治は「生まれてきてすいません」と残したけど、
生者のなんと態度がでかいことか
だいたいちょっと申し訳なく生きているくらいの人としかぼくは友人になれません
この死者くらいなら友人になれそうであるので
まあいいかこんな不条理くらいと思っている社会鍋の時期です


#詩

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