砂嵐が消えた日に

労働を描いた文学がないことに憤るのは
ばからしいことだ
ほんとうの世界はいまだに
テレビの向こうにあるのだから
こちらがわ偽物の世界の労働も偽物なのだ
アットホームな職場ですという求人広告は
嘘をついていない
求人広告に載っている
BBQ大会の社員たちの引きつった笑いは
テレビ的だから

テレビに愛憎入り混じった感覚を抱くのは
ほんとうの意味で正気である証だ
じじつわたしたちはアットホームな職場を求めているのだし
憎んでいる
テレビに抱く愛憎は
しつけられなかった犬のように
一人暮らしの心をめちゃくちゃにする

はじめての一人暮らしで作る
ひどい味をした野菜炒め食べたとき
わたしはテレビをつけていた
狂ったように笑う芸人は道化というより
わたしだった
自律に失敗した芸人の体が
熱湯風呂に落ちるのを
笑いながら見ていたときの
喜怒哀楽のいずれでもない感情が
きっとはじめて覚えた疲れなのだろう
そのことに詩人が無自覚であるかぎり
労働詠はいつまでも嘘のままだ


#詩

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