藍染めのズボンを母に

母はジーンズをズボンと呼ぶ
そして勝手に洗濯をして
せっかくの藍染を台無しにする
iPhoneなんかよりもチェーンソーなんかよりも
母の回す洗濯機のほうがよほど残酷だ

ジーンズを履くときにズボンと音がするような気がして
そこからズボンと名がついたのではないかと思っている
辞書を引けば語源なんて簡単に調べられるけれど
自分だけのあてどもない語源を持つことは贅沢だ

受験英語を忘れることもひとつの贅沢だ
appetiteというスペルにわたしは好きな意味を与える
母語である日本語はそのようにはいかず
剥がすことのできない意味がべったりとはりついている
忘却は贅沢品だ
すべてを忘れるために
一度は死んでしまいたい

「お前の母親はもう
 脛どころではなく
 腿までない」

母からの送金を印字した通帳のほうが
こんなうそんこの詩よりもはるかに真実だ

お母さん、生まれてきてごめんなさい

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