負けるために起き上がるのだ

今日のあとにまた別の今日が来ることを
みんなが知ってしまったから
毎日服を選ぶ手間ができくさった
やったら捕まることだらけの日本で
やらなきゃ捕まることといえば
服を着ることくらい

ああ面倒くさいタートルネック
お前のどっちが前なんだ
ああ面倒くさいパーティードレス
誰の気分も煽らないでくれ
ああ面倒くさいリクルートスーツ
私服通勤がウリなんだろ貴社は
ああ面倒くさい囚人服もユニクロも
罰なら裸で受けさせてくれよ

無宗教を誇ってるんじゃないよ
性格なんて誰がよこせと言ったんだよ
神様がいたほうがずっと楽だろうが
運命でぜんぶ決まってたほうが楽だろうが

ハンガーにかかった自分の服が自分の代わりに自殺してくれてるみたいだ

ときどきこんな気分になる
怒ってるんでも悲しんでるんでもなく
原因を探ってもむなしくなるだけで
とにかく何も決めたくないのだと
わかってしまえばいいのだけれど
まさか裸で外に出るわけにはいかず
けっきょく春物夏物秋物冬物あわせて数十着の中から
喪服と礼服をのぞいた
何十分かの一を選ぶ
ほんとうは一を除いた何十着かのなかで泳ぎまわりたいのだが

アダムもイブも
知恵の実を食べたせいじゃなく
中途半端に色気づいたせいで
裸でいることが恥ずかしくなってしまったんだろう

朝はいつだって、死装束すら着たくない気分だ
自分が使う最後のひらがなを
誰か教えてくれたら
もうそれしか口に出したくない

だったら
どうしよう負けちゃうよ(なんに?)

#詩

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