図鑑という墓場

皇帝ペンギンが存在し
民衆ペンギンが存在しないことに
疑問を抱かないひとには
失語症も吃音も理解できないだろう

民衆の存在しない皇帝が一体なにを統べているのか
いちどでも立ち止まって考えてみれば
からだがどもっていく
矛盾の前に
からだがどもっていく
ゴリラ・ゴリラという学名は
痙攣ではなく吃りなのだ
口で転がしたくなる名前には
吃音の種がまかれている
世界中のいきものを集めた図鑑を音読して
正気でいられたら
それは正気でない証拠だ

ゴミムシが滅んでも
ゴミムシダマシはゴミムシになれず
遺伝子の乗り物として増え続ける
それはゴミムシへの反乱ではなく
言葉への反乱で
失語の深い闇は
ゴミムシダマシとゴミムシの関係に
皇帝ペンギンの存在と民衆ペンギンの非在のあいだに
ぱっくりと口を開けている
自分の本当の名前なんて
危ういところにしか立っていない
動物図鑑にすら収まっていないのだから


#詩

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