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2022年の名人戦七番勝負を今さら振り返ってみた


執筆している現在は2023年名人戦七番勝負の第2局対局中です。
タイミングはかなり遅いですが、前期の七番勝負を振り返っていきます。
肩書はすべて2023年9月3日現在です。
対局当時の肩書ではありません。

昨年は井山王座にとって好不調の波が激しい一年でした。
第1局は井山王座が制したものの、
第2局から4局までは不調な時期に重なってしまいました。
芝野名人の力強い打ちまわしで3勝1敗とカド番に追い込みました。

見えないプレッシャー

第5局からは井山名人が復調してきます。
逆に芝野名人は『あと1勝で名人を獲得できる』という
プレッシャーに悩まされます。

「普段の対局では目の前の一局に集中できます。
しかし勝てばタイトル奪取という場面を迎えると
どうしても意識してしまいます。
雑念が生じて無意識に硬くなってしまうのが敗因だと感じました」

と芝野名人はインタビューで答えていました。

このプレッシャーが厄介なのは無意識に硬くなってしまうということ。

『普段通りに打とう』と思っていても
いつの間にか固くなってしまうそうです。

芝野名人自身が後で振り返っても石が伸びていません。
ほかの棋士に『固かったね』と指摘されるほどでした。
第4局までは芝野虎丸だったのに、
5局と6局目は芝野猫丸になってしまった感じです。

逆に井山王座は普段通りのメンタルで戦い続けました。
カド番に追い込まれてもいつも通りに打てるのが井山王座の強み。
経験の豊富さ、生まれ持っての精神力、
ここ数年で取り入れたメンタルトレーニングによるものなのでしょう。

井山王座が2連勝でタイに戻しました。

開き直る芝野名人

3勝3敗で迎えた第7局。
1日目では芝野名人の打ち筋が疑問で劣勢になってしまいました。
休憩時間中、芝野名人は
「ここからチャンスが来るかどうかはわからない。
もし逆転の機会が転がり込んできたら逃さずに決めよう」
と開き直りました。

『左上の大石を取れないと負け。
でも直接取りに行っても仕留められない。
何とか工夫しなくては』
と碁盤だけに集中。

『この碁を勝てば名人になれる』という雑念は
いつの間にか消えていました。

芝野名人は右下隅や右上隅で様子を放ちます。
実利で勝負する態度でした。
まるで猫丸のように消極的な打ち筋に見えました。

井山王座は真正面から受け、実利は自分の方が多いと主張しました。

これは芝野名人の狙い通り。
白136とまるで虎のように相手の大石に襲い掛かります。

井山王座も虎に噛まれてはいけません。
コウで粘りますが芝野は大石にガブガブと噛みついて中押し勝ち。

消極的に見えた様子見は
大石に跳びかかるために力を貯めていた打ち筋だったのです。
最終局を制した芝野は名人に返り咲きました。

「2カ月以上の長丁場となった七番勝負で
いい成績を残せてよかったです」
と芝野名人は笑顔で語っていました。

カド番に注目

今期の名人戦七番勝負ではどちらが先にカド番に追い込むか、
カド番になった時、芝野名人が重圧にどのように向き合うかに注目して観戦します。

書き終えたので碁盤を見ると第2局の89手目でした。
井山王座が攻めて芝野名人がシノギにまわる展開です。

芝野名人が攻めることが多いのですが、この展開もおもしろい。





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