見出し画像

鉄道ダイヤを考える: ❶京葉線編 1. 2024年3月改正の明暗


1. はじめに

「通勤ラッシュ」という文字を聞いた大半の人は、通路が人で埋まるほどごった返す駅の風景や、「痛勤地獄」とまで呼ばれる、サラリーマンや学生で鮨詰めとなる電車を思い浮かべるだろう。あまりの密度の高さに「苦しい」「痛い」と感じる人も多いはずだ(実際、筆者がその1人である)。そんな満員電車での時間が、もし「15分」増えたらどう感じるだろうか?今回テーマにする京葉線は、それが実際に起きて騒動となり、今なお論争が続いている路線である。今回の投稿では、そんな京葉線の「今」の状況について扱う。

2. 京葉線 2024年3月16日・9月1日改正の明暗

JR東日本千葉支社は2023年12月15日に、京葉線など管内のほとんどの路線でダイヤ改正を行うことを発表した。その内容は以下の通りである。

  1. 「しおさい」へのE259系の導入及び全列車の船橋停車、朝夕の一部列車の四街道停車

  2. 「わかしお」の土休日運休列車の増加と一部臨時化および全列車の5両編成化

  3. 「成田エクスプレス」の千葉・佐倉停車本数増加と料金体系の変更

  4. 総武快速線の朝時間帯の増発

  5. 10〜15時台を除く特急以外の京葉線速達種別(快速・通勤快速)の廃止

  6. 外房線・内房線の一部本数見直し

今回私が取り上げるのは②と⑤である。特に⑤については千葉市以東の千葉県の自治体の大半からの反発を招き、JR東日本は異例中の異例となる「2024年3月改正内容見直し」「2024年9月ダイヤ変更」を強いられることとなった。この2つの変更の内容はどちらも「快速の増便」であり、今回の改正がいかに大きな反発を招いたか象徴する出来事となっている。ただ、千葉市以東の自治体が軒並み改正に反発する一方で、改正を歓迎する自治体もいた。それが新習志野駅を市内に持つ習志野市である。新習志野駅は京葉車両センター最寄駅で、快速・通勤快速は共に通過する。2024年3月16日改正で優等種別が各停化されることにより、新習志野駅の停車本数は平日30本、土休日40本増加し、3月改正で最も恩恵を受けることになったが、9月改正に伴い、各停が一部(平日7本、土休日12本)減少。特に7時台においては、改正後下図の通り東京方面への列車が12分開く時間もある。

図1:新習志野駅改正後時刻表(推定)
緑→9月以降快速となる列車
オレンジ→武蔵野線直通列車
黒→各駅停車

この各停の本数減少の影響をもろに受けることから、習志野市は9月改正に非常に強く反発しており、新たな問題の火種が生まれてしまった。京葉線の沿線自治体が全て納得し、JR東日本も得をするダイヤを作るには、どうすればよいのだろうか?

3. 京葉線の今

ダイヤを作る上では、運行形態を考えることが必要だ。そもそも京葉線は、東京〜蘇我間を結ぶ全長43.0kmの路線である。また終点の蘇我からは一部列車が外房線(普通列車は上総一ノ宮まで、特急は安房鴨川まで乗り入れ)・内房線(上り1本は上総湊まで、それ以外は君津まで乗り入れ)へと直通運転を行っている。沿線には東京ディズニーリゾートや幕張メッセなどの名だたるレジャー施設が存在するほか、2024年5月29日には南船橋に新アリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」が爆誕したことから、これらの施設で1ヶ所でもイベントが行われるとたちまきその最寄り駅は大混雑に陥る(ディズニー最寄りの舞浜だけは毎休日大混雑だが。)。またこの他、大型連休時には蘇我を最寄り駅とする蘇我スポーツ公園にて大型フェスが開催され、開催日には最寄り駅の蘇我はもちろん、シャトルバスが出る千葉みなとも加えて大混雑する。以下に、その運行形態について記述する。

図2:京葉線の停車駅。
2024年3月に通勤快速は廃止されている。
▲→一部停車

3-1. 海へ走る・特急「わかしお・さざなみ」

特急は2024年3月16日現在、「わかしお」が平日21本(10.5往復)、土休日16本(下り9本、上り7本)「さざなみ」平日8本(下り5本、上り3本)運転される。3月改正では、勝浦6:44→東京8:26の「わかしお4号」と、勝浦19:03→東京20:39の臨時「わかしお22号」が新設された一方、旧「わかしお10号・11号・22号・24号」の4本が廃止となり、「わかしお」全体では改正前の24本から22本へと減便された。また残った列車についても安房鴨川発着列車の勝浦発着への変更、勝浦発着列車の上総一ノ宮発着への変更など運転区間の短縮が一部列車で行われており、全区間で本数が減少している。「さざなみ」については2015年改正でラッシュ時のみの運転に変更されていたが、3月改正では通勤ニーズの変化に合わせ東京21:30→君津22:39の「さざなみ9号」廃止される。現状、東京→勝浦間はわかしおが最速84分(ラッシュ時は下り90分/上り101分)、東京→君津間はさざなみが最速66分(ラッシュ時上りは69分)で結ぶ。
なお、土休日には新宿発着の「新宿わかしお」が1往復、「新宿さざなみ」が1往復(繁忙期は増発され、最大3往復)が運転され、新宿→勝浦間を「新宿わかしお」が107分、新宿→君津間を「新宿さざなみ」が85分で結ぶほか、「新宿さざなみ」は君津の先、富浦を経て館山まで運転される。この2列車に関しては、3月改正で秋葉原駅・津田沼駅を通過するようになったこと以外に変更点はない。

「わかしお」停車駅:東京駅 - 海浜幕張駅(※1) - 蘇我駅 - 土気駅(※2) - 大網駅 - 茂原駅 - 上総一ノ宮駅 - 大原駅 - 御宿駅 - 勝浦駅 - 上総興津駅(※3) - 安房小湊駅 - 安房鴨川駅
「さざなみ」停車駅:東京駅 - 蘇我駅 - 五井駅 - 姉ヶ崎駅 - 木更津駅 - 君津駅
「新宿わかしお」停車駅:新宿駅 - 錦糸町駅 - 船橋駅 - 千葉駅 - 蘇我駅 - 大網駅 - 茂原駅 - 上総一ノ宮駅 - 大原駅 - 御宿駅 - 勝浦駅 - 上総興津駅 - 安房小湊駅 - 安房鴨川駅
「新宿さざなみ」停車駅:新宿駅 - 錦糸町駅 - 船橋駅 - 千葉駅 - 蘇我駅 - 五井駅 - 木更津駅 - 君津駅 - 浜金谷駅 - 保田駅 - 岩井駅 - 富浦駅

※1:東京駅17時以前発の下りと東京駅11時以降着の列車が停車
※2:※1で示した列車以外の列車が停車

3-2. 房総の風・通勤快速

2024年3月16日改正で廃止された通勤快速は、廃止時点で内房線直通が1往復(上総湊6:56→君津7:14→東京8:39・東京19:18→君津20:35)、外房線・東金線直通が1往復(勝浦6:25・成東6:51→誉田7:34→東京8:26・東京18:14→誉田19:02/19:08or19:10→成東19:37・勝浦20:09)の計2往復が運転されていた。どちらも対房総地域客に特化した輸送を行っており、新木場⇔蘇我間はノンストップであった。

通勤快速(外房線直通)停車駅:東京駅 - 八丁堀駅 - 新木場駅 - 蘇我駅 -(以遠大網まで各駅)- 茂原駅 - 上総一ノ宮駅 -(以遠勝浦まで各駅)
通勤快速(その他)停車駅:東京駅 - 八丁堀駅 - 新木場駅 - 蘇我駅 -(以遠終点まで各駅)

3-3. 京葉線の主役・快速


快速は3月改正で大幅な減便が行われ、現在は日中時間帯に毎時2本(土休日は毎時4本)と6時台に2本が運転されるのみとなっている。以前は外房線内で通過運転を行う快速も走っていたが、3月改正で全廃された。改正前は夕ラッシュ時間帯にも毎時2〜3本(土休日は毎時2本)走っていたこともあってか反発も大きく、9月改正では平日は7時台上り2本、9時台下り2本・上り1本、20時台下り2本の計7本、土休日は7時台上り2本、9時台下り2本・上り1本、10時台上り1本、16時台下り2本・上り2本、20時台下り2本の計12本が増発される。

図3-1:快速へ変更となる各駅停車(推定)
京葉線平日下り
図3-2:快速へ変更となる各駅停車(推定)
京葉線平日上り
※訂正:蘇我7:56発の列車の始発駅は君津ではなく上総湊です。
図3-3:快速へ変更となる各駅停車(推定)
京葉線休日下り
図3-4:快速へ変更となる各駅停車(推定)
京葉線休日上り
※訂正:蘇我7:56発の列車の始発駅は君津ではなく上総湊です。

快速停車駅
東京駅 - 八丁堀駅 - 新木場駅 - 舞浜駅 - 新浦安駅 - 南船橋駅 - 海浜幕張駅 -(以遠各駅)

3-4. 混雑緩和の伏兵・各駅停車

各駅停車は2024年3月改正により、日中以外の殆どの時間帯の列車を占めることになった。日中は毎時4本走っており、特に夕ラッシュ時間帯は全列車が各停である。JRが朝夕ラッシュ時間帯を各駅停車だけにしたのは曰く「混雑平準化」のためのようだ。確かにJR東日本が述べる通り、蘇我以西では混雑は平準化されたように見える。蘇我以西では。
蘇我以東の内房線・外房線から直通してくる各駅停車は、沿線客をすべて拾いつつ京葉線へ入るため、地獄のような混雑と化してしまっている。これらの各駅停車も含めれば、混雑の平準化とは程遠い状況であることが分かるだろう。とはいえ、内房線・外房線の列車が地獄のような混雑と化しているのは海浜幕張までで、海浜幕張への通勤客が下車することにより車内はある程度空くため、そこから先は混雑が平準化され混雑率は列車間隔次第となるようだ。京葉線の混雑を扱う動画が少ないため、このあたりは憶測となるが。

3-5. 千葉と埼玉の大動脈・武蔵野線直通列車

3月改正では武蔵野線直通列車には大きな変化はなかった。日中は毎時3本走っている。京葉線と列車本数が不整合となっていることもあり、東京~市川塩浜間の快速通過駅では列車間隔が非常に不均等となっている。

4. まとめ

現状のところ、京葉線問題で争われているのは以下の点である。
①千葉市以東の自治体が主張する、蘇我以東からの「速達性」
③に伴う朝夕時間帯の全列車各停化により、著しく損なわれた。
②習志野市が主張する、優等通過駅の「利便性」
→①を重視した9月1日改正により、各停が約10本快速へ変更され、若干ではあるが損なわれた。(とはいっても、3月改正前より本数は20本ほど増えているが)
③JR東日本が主張する、各列車の混雑の「平準化」
→快速への混雑集中を避けるための3月改正は、①を主張する千葉市以東から大きな反発を受けた。

では、①~③を同時に解決するには、どうすればよいのだろうか?次回から、京葉線ダイヤの改善案について模索する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?