Special Awardの極意~Waseda-Tokyo2024のNew Composite Partに着目して~
1. はじめに
1.1 自己紹介
iGEM Waseda-Tokyo 2024のチームリーダーの林﨑諒巡です。私が率いてきたWaseda-Tokyo2024は、多くの方のサポートを受け、Undergradでは日本史上初となる総合Top10を獲得する事ができました。また、多くの賞を獲得する事もできました(詳細)。
中でも、Best New Composite Partを獲得できた事は、他の賞よりも格別に嬉しかったことを覚えています。その理由は、その獲得を目指し戦略を持って動いてきた背景があったためです。
私の中にはチーム内で誰よりも熱血に「iGEM Competitionの表彰台に登りたい」という意思がありました。iGEM2024だけではなく、2年前にiGEM2022にもメンバーとして参加した事があり、その際に登れなかった表彰台に異常な執着と登ることへの憧れがありました。無事、Best New Composite Partの獲得と、Best Model Nomineeを獲得する事ができました。この経験を後世に活かすためにこの記事を書きます。
本当に、本当に支えてくれた全方面に対して感謝申し上げます。ありがとうございました。
1.2 この記事のモチベーション
私は、今年度のWaseda-Tokyo2024で、New Composite Partの獲得のための戦略設計を担当しました。この記事では、iGEM CompetitionでMedalだけでは飽き足らず、Special Awardを獲得したいと考えるiGEMerに向けて、どのようにしたらそれが達成出来るのか、特にNew Composite Partに着目して書いていこうと思います。
この記事を読了する事で、以下の内容を理解できるようにします。
(New Composite Partに限らず)Special Awardを取る為に必要な要素
New Composite PartがiGEMerに求める理念
Waseda-Tokyo2024のNew Composite Partのバックグラウンド
【重要】この記事は、Award取得を本気で狙う方の為に書くため、以前、私がiGEM Japan Community 2024のアドベントカレンダー12/7分で執筆した記事「iGEM勝利の必要条件と、iGEMが求める価値観」は読了し、完全に理解している事を前提に書きます(以下、12/7分記事と呼称します)。12/7分記事では、iGEM Competitionの求める一定の水準を満たすために必要な要素をドキュメントしています。そこに書いてある内容を満たしていない場合、Award取得は厳しい場合がほとんどです。iGEMの求める事の基礎的な理解は、Awardを取りに行くために必要となる考え方の土台になります。
2. iGEMの価値観と、Special Awardの関連性について
Special Award獲得にあたり重要な要素は以下の2つだと考えています。1つでも欠けてはいけません。それぞれについて私の考えを以下にドキュメントします。
①iGEMの求める価値観とHandbookの要件を紐づけた本質的な理解
Judge Handbookには各Awardを勝ち取るチームの性質が明文化されており、何よりも重要です。それらはHandbook中ではAspectsとして記載されています。
私が12/7分記事で指摘したiGEMの価値観は以下で、Special Award Aspectsとの対応を見出す必要性があります。
例えば、EducationのAspectsの場合、以下のように各要件に対応する価値観を見出す事が出来ると考えています。(異論は認めます。より広義に考えれば3.や4.は違うかもしれません。僕よりもEducationを理解している人は多く居ると思うので、今度一緒にラメーンでもすすりながらディスカッションしましょう、誘ってください)
このように、ほとんどすべてのJudge Handbook記載のSpecial Award要件は、上記の価値観に紐づけて対応させることができます。あくまでも、Special Award要件は抽象的なiGEMの価値観を具体化させたものに過ぎないのです。
では、New Composite Part(以下、NCP)がiGEMerに求めている内容はどのようなiGEM倫理に対応しているのでしょうか。NCPの要件は全て「#1 踏襲と記録と継承(Document, Build Upon)」の価値観に基づいています。NCPは、複数あるSpecial Awardの中でも最もこの理念が体現されているものです。
その意味で、NCPは『優れたパーツを作ったで賞』ではないことに注意してください。どんなに優れているパーツを作ったとしても、ドキュメントが不十分であれば全く評価されません。NCPは『優れたパーツの機能をよく調査し、記録し、将来のiGEMerに貢献できそうで賞』です。
それを達成する為に、以下の要項が道しるべとして用意されています。この記事では、これをWaseda-Tokyo2024の例も絡めつつ、読み解いていきます。
NCP獲得にあたって、このAspectsから読み解けることは以下です。
箇条書き上3つはそのまま要件にあることを書き下しているだけなのですが、最も重要なのは箇条書きの一番下に記載したものです。これに気づけたことが、Waseda-Tokyo2024の勝因の1つだと断言できます。
特徴的なNCPであることを審査員に印象づける為には、”Modeling”を意識する事が効果的だと言えます。反論として考えられるのは、「Modelなんてサブじゃないか、やらなくても良いことはやらなくてもいいだろう」です。確かに、実際にModelingはAspectsの原文では
といったように、Wet実験に付随したOptionalなものであるような記載がされています。尤も、パーツの特性評価において信用できるのは現実世界で起こっている結果―Wet実験であり、Dry実験はその理解を補足するものにすぎません。Wet実験が充実しているならばDry実験が不要であると考えるのも、サイエンスにおいては間違いではないかもしれません。
しかし、私が12/7分記事で特徴づけたiGEM Competitionの理念#3「工学的原則」と関連しますが、Modelという概念を、自分たちの理解を助けるために行う事は、iGEM Competitionで評価され易い奇麗なアプローチです。実際に、DBTLサイクルの中の、Designの過程では、Modelによる知見を導入することが効果的なアプローチであることが名言されています。
この価値観には、iGEMのFounderであるTom Knight氏の思想が大きく反映されています。彼は生命科学の世界に、工学的原則の知見を組み込んだ天才です。彼が生物学的な概念を規格化しパーツレジストリという概念が生まれ、さらに生物学の構成要素を数理を用いて紐解く、という概念をiGEMというプラットフォームを利用して多くの科学者に拡散したと言えます。
iGEMの価値観を紐解く上で補足的な知識になるのは、彼の存在に対する理解でしょう。これはもうn回伝えても足りないくらいですが、NCPに限らず、iGEM Competitionにおいて、Special Awardのほとんどすべての要件を理解するには、iGEMの価値観への理解が不可欠だと断言できます。
②Judge Handbookに記載のExamplesと、過去の受賞チームを乗り越える覚悟
iGEMが求める価値観を理解したら、過去の巨人たちがどのようにして要件を満たし、表彰台に登って行ったのか徹底的に研究をしましょう。これは「踏襲と記録と継承」に基づく価値のある行為です。
過去のiGEMプロジェクトを評価要件と照らし合わせ、Judge Handbookにある評価要件(Aspects)がなぜ満たされたのか自分の中で考察しましょう。Judge Handbookは丁寧で、過去の良いExamplesを何個か記載してくれています。また、Part系Awardの場合は評価要件の1つとして「How does the documentation on the Registry compare to BBa_KXXXXXX and BBa_ KYYYYYY」といったように超えるべき最低ラインを示してくれています。
また、iGEM JamboreeのResultsページを見る事で、過去のAward獲得チームのwikiを参照することができます。Nomineesに上がったチームも全て見て、「なぜNomineeはNomineeどまりで、Winnerとの明確な差は何に起因するんだろうか??」という所まで研究しましょう。
それらを徹底的に研究し、模倣する事も重要ですし、またはオリジナルを加えることも場合によっては効果的かもしれません。ここで研究した過去のチームを凌駕するものを作れさえすればAwardは盤石になる可能性が高いです。それを成し遂げる覚悟を持ち、血反吐を吐いてでも過去の巨人を超えてやる、という精神で行動してください。
3. Waseda-Tokyo2024のNew Composite Partについて
3.1 Waseda-Tokyo2024のNCP概要とJudging Feedbackについて
Waseda-Tokyo2024のNCPについて簡単に説明します。より詳細な内容に関しては、私たちのドキュメンテーション(BBa_K5436124)を参照してください。
Waseda-Tokyo2024のPET TWINSプロジェクトの目的は「PET分解酵素PETaseの利用可能性拡大による、プラスチックリサイクリングの能率向上」です。マイクロプラスチック問題ではなく、工業的なリサイクル課題に着目し、PETaseの利用可能性を拡大することに焦点を当てたBioremediationプロジェクトでした。PETaseの脆弱性をカバーするために、遺伝子組み換えした大腸菌をそのまま丸ごと酵素として使える「BIND-PETase」というモジュールを発展させました。さらに、遺伝子組み換えした大腸菌をそのまま使う事による安全性への懸念から、より簡便に微生物を制御しBiosafetyに貢献する「電気応答モジュール」を検討しました。
Waseda-TokyoのNCP「BIND-bearPETase」は、野生型の「BIND-PETase」をタンパク質工学により発展させ、機能を評価したものです。「BIND-PETase」は、膜輸送タンパク質CsgAとPETaseをFusion Proteinとして構成させたもので、遊離PETase(何にも結合してないそのままの状態;free-PETase)を弱点を解消するものです。PETaseをCsgAにBINDすることによって、自動的に膜外に強力に固定でき、PETase酵素の脆弱性をカバーし、さらに抽出プロセスをスキップすることも可能にしました。
私たちWaseda-Tokyo2024は、自分たちで独自にImproveしたこのBIND-bearPETaseをNCPとして調査・記録し、レジストリに提出することで、Best New Composite Partを獲得しました。Judging Feedbackを以下に掲載します(他のFeedbackもwikiに掲載されているので自由に参照してください)。Special AwardのBestを取れるレベルのFeedbackはこのような右2列にベタ張りの得票分布になるようです。
一方で、Waseda-Tokyo2024のModelはNomineeでしたが、以下のような得票分布でした。Modelも大健闘しましたが、完全に右2列にベタ張りするような分布でないとAward獲得は難しい事を示唆しています。iGEM2024では、Heidelbergチーム(Grand Prize Winner)が圧倒的でした。。。
3.2 Waseda-Tokyo2024の良かったところ
ここでは、Waseda-Tokyo2024がNCP獲得にあたって重要だった要素を書き連ねていきます。また、自慢話をしたいわけではないので、その背景や裏話も記載したいと考えています。また、3.3節では、Waseda-Tokyo2024に足りなかった部分、より高度にNCPの要件を満たす事ができたはずのポイントもドキュメントしたいと考えています。
3.2.1 Waseda-Tokyoが「踏襲」したある巨人について
まず初めに、NCP獲得にあたって、そのAwardを過去に受賞した巨人たちの調査の徹底が、今回の勝因になったと考えています。Waseda-Tokyo2024が乗った巨人の中で、最も直接的に、私たちを高いレベルまで持ち上げたのは、TU-Eindhoven2023です。
TU-Eindohoven2023はBest New Composite Part Winnerとして、私たちに効果的な要件の満たし方を提示しました。彼らが提出したBBa_K4905006は、パーツの特性評価の為のWet実験が充実しているだけではなく、Dry実験も同程度充実させており、その重要性を私たちに教えてくれました。
驚くべきことに、TU-Eindohovenのパーツページの一番初めにドキュメントされているものは、Dry Labによる成果でした。そのパーツがコードする融合タンパク質のFoldingを推測したMD Simulation(分子動力学)だったのです。タンパク質のFoldingはWet実験を通じては確認しにくい概念ですが、MDによってそれを特徴づける事に成功していました。
このように、Dryによる手段に頼って効果的にパーツの特性評価をドキュメンテーションする先例を創り上げたTU-Eindohovenは、私たちのNCP獲得にも大きく寄与しました。この場を借りてTU-Eindohovenに感謝申し上げます―Dankje。
3.2.2 Waseda-Tokyo2024のタンパク質シミュレーションによるパーツ解析
TU-Eindohovenに勇気づけられた私たちは、Foldingの安定性をDry Labによって検討しようと考えました。FoldX, PyRosettaを用いてタンパク質のFoldingの安定性を確認し、さらに、BIND-bearPETaseの活性部位にPET分子基質に結合することの安定性をAutoDock Vinaを用いて確認しました。
ここに書く内容は、私の成果ではなく、Sub LeaderとしてSimulation班を率いた僕の親友Shota Yamamotoと、そのメンバーによる成果です。彼の貢献は、NCP獲得に大きく寄与しました。
TU-EindohovenのようなMDシミュレーションは計算資源がないことから断念しました。早稲田大学にはオープンリソースとしてのスパコンはありませんでした。しかし、環境要因としてそんなことで負けたくなかった為、その代打の解析手法として、上記のような簡単に走らせる事が出来るin silico simulationツールを用いて目的を果たすことができました。
※※これは余談ですが、今年度のiGEM-Wasedaはバイオインフォマティクスコミュニティ【LabCode】さんの記事の執筆にご協力させて頂いており、今回のパーツ特性評価やプロジェクトの一部過程で用いたツールの使用方法がドキュメントされています。ぜひ参照してください!※※
ここで大事なのは、やはりiGEMにおいては研究成果のクオリティは要求されていないだろうという点です。MDシミュレーションの方が多くの計算資源を要求する分、より精度の高いシミュレーション結果を出力するでしょう。しかし、iGEM Competitionは教育的機会である為、クオリティだけではなく、その軌跡が評価されます。私たちはクオリティではなく、”何としてでもそれを達成したい”という意思で戦い抜いたと考えています。ありがとう、Shota YamamotoとSimulation班。グラッツェ。
3.2.3 Waseda-Tokyo2024の数理モデルによるパーツ解析
TU-EindohovenにはなかったWaseda-Tokyo2024の独自の取り組みとして、パーツ解析の為のMathematical Modelを構築したという点があります(実際には、Part Caharcterizationに載せるつもりで作製したわけではなかったのですが、最終的に統合することでNCPの勝ち筋を盤石にすることができました)。
ここに書く内容は、PET分解モデルをゼロから構築したスーパー物理マンのSodai Naoと、Sub LeaderとしてModel班を率いたAyaka Sasaki& Joseph Yokoboriの功績によるものが大きいです。
Waseda-Tokyo2024の強みとして特筆できるのは、よく形作られたDry Labがチーム内に存在したことです。彼らはBest Modelを獲得するために、プロジェクトを下から支えるモデルを先行研究を参照し構築するのは勿論のこと、さらにそれだけではなく、ゼロから構築出来るだけの知見を長時間に渡るゼミで得ていました。僕も一度だけゼミに参加したことがあったのですが、高度過ぎて宇宙でした。
そんなModel班のプレイヤー、Sodai Naoが構築したPET分解モデルでは、ポリマーに接触するBIND-bearPETaseの触手が、PET分解を行うメカニズムを仮定して、それが予想通りの挙動を起こす事を示し、私たちの理解を助けました。確率に基づいたPET分解モデルは、NCP要件に記載されている”Modeling data can be acceptable”をクリティカルに満たしました。
ここで勘違いされてはいけない事は、Wet実験だけではなくModelやSimulationを含めさえすればNCP獲得が盤石になるんじゃないか?と考えてしまう事です。残念ながらiGEM Competitionはそんなにちょろく無くて、本質を無視したそれだけの理解ではAwardは取れません。
ここで重要だったのは、「ModelやSimulationを採用しなければならない動機を適切にアピールした」ことです。先述したように、iGEMにおいては「軌跡」が重視される為、DBTLサイクルに色濃く現れるような「なぜそう考えたのか?」「なぜその選択肢を取らなければならなかったのか?」などを動機付けを明示する必要があります。この動機付けは、DBTLサイクルでいう所のDesignに対応し、12/7分記事で私が分類したiGEMの求める価値観#3「工学的原則」に対応します。
Waseda-Tokyo2024ではMathematical Modelingがパーツの解析において必要不可欠であった事を以下のように審査員にアピールしました。それは「Wet実験だけではPET polymerがBIND-bearPETaseによる分解を受けているのか確認できないからModelが必要だった」という事です。
Waseda-Tokyo2024は効果的にBest Modelにも記載した内容を動機付けによってNew Composite Partの記事にも書くことにより、いわば「コスパ良く」2つのAwardの要件をGreedyに満たしにいったというヤンチャな事をしながら、審査員のツボを押し当てる事ができました。
PET TWINSの中で、私たちはDry Labの可能性を最大限に活かし、環境要因にも負けず、資源的な制約がある中で目標を達成するための工夫と努力ができたと思います。Simulation班とModel班が示したオリジナリティ溢れる創意工夫、それがNew Composite Partの獲得とBest Model Nominee獲得に大きく寄与しました。ありがとう、Simulation班とModel班。ピペットマンを一度も触ることなく、ここまで大きな貢献が出来たiGEMerは、見たことが無いです。素晴らしすぎた!!大好きです。
3.2.4 Waseda-Tokyo2024のWet Labによるパーツ解析
Dry Labに対する愛を語ったところで、We Labの話に移っていこうと思います。
今回のNCP獲得において、Dry Labだけではなく、Wet実験の貢献も勿論欠かせませんでした。特に大きく貢献してくれたのはBIND-PETase班を率いてくれたSub LeaderのHanna Watanabeです。
BIND-PETaseの先行研究を探し当ててきた彼女は、そこにある実験をWasedaの持つリソースで実行する為のタスク整理とスケジュール管理を主導し、それだけではなく、誰よりもピペットマンを動かし、誰よりも多くの数のBIND-PETaseの母親となりました。
そもそも、Gold Medal要件としてNCPに絶対出そう、と確定したのはBIND-PETase先行研究との相性の良さに気づけたためでした。BIND-PETaseの先行研究では、その機能を検証する為に数多くのWet実験を行っており、それが巨人の肩の上に乗れるような形でよくドキュメントされていました(Zhu et al., 2022)。そのため、それを追試すれば自動的にNCPの要件である以下の2つを難なく満たせる事が予想できました。
実際に、彼女が主導したBIND-PETase班はこの先行研究を読み込んだうえで、追試を行う為の準備を進め、見事先行研究で行われていた実験の7~8割を行い切る事ができ、評価に直結しました。
冒頭でも述べた通り、パーツの特性評価において、Wet Labによる成果が重要である事は間違いなく、Dry Labによる貢献はあくまでも補足データにはなります。そのため、Wetにおける先行研究の実験種類の充実性だったり、その再現可能性というのはGold Medal要件としてNew Basic/Composite Partを提出するかどうかの判断指標になると考えられます。12/7分記事でも伝えたように、Special Awardの選択は「なんとなく」ではなく明確な根拠が必要だといえるでしょう。
3.2.5 Integrated Human Practicesと絡めたNew Composite Part
New Composite Partの評価要項にはHuman Practicesを彷彿とさせる言葉はないため、ここに記載した内容は評価には直結しない可能性が高いですが、参考程度にWaseda-Tokyo2024のNCPの個性的だあった部分について紹介します。それは、Integrated Human PracticesとNew Composite Partを絡ませたという特色があります。
Integrated Human Practicesの”Integrated”とは、いったい何とのIntegratedを表しているのでしょうか?様々な解釈があるかもしれませんが、重要な事として、「プロジェクトの細部までHuman Practicesによって得た成果を還元すること」であると私は解釈しています。
そんなIntegrated Human Practicesの具体的な行動として、Waseda-Tokyo2024はリサイクル会社esaからいただいたリサイクル工場で実際に扱われているプラスチック断片に対して自分たちが実際に作成したBIND-bearPETaseを作用させてることを実験として行いました。
このペレットはStakeholdersとのインタビューを企画してくれたSub LeaderのDaisuke Kondoが率いるIHP班が持ってきてくれました。愛してます、IHP班。彼らのお陰で、New Composite Partに寄与する特性評価の実験を1つ、増やすことができ、かつ競合するNCPチームとの差別化になったと考えています。
12/7記事でも論じた通り、現行のiGEM Competitionにおいて、そこからスタートアップに昇華したりプロジェクトを継続するような動きは多くはありません。しかし、iGEMが大切にする理念#2 「社会との対話・双方向性の学び」は、そういったBeyond iGEMに向かおうとする1つのキッカケとなる価値観だと考えます。しかしながら一方で、New Composite Partの要件にはHuman Practicesに関わるようなことは一切書かれていません。
これは私見ですが、近年のiGEM Competitionではより社会実装よりのプロジェクトが評価される傾向にある一方で、Part系Awardにはその傾向が見られず、ただ、「踏襲と記録と継承;Build upon」の理念が色濃く現れているだけです。
それも重要ですが、合成生物学プロジェクトの根幹を成すBioBrick Partを構築し、ドキュメントするにあたって、それをどれだけ社会実装寄りに見据える事ができたかどうかを検討することも、真の意味でのBuild uponに繋がるのではないかと考えています。Waseda-Tokyo2024のNCPが、Judging Commiteeに何か響くものがあれば嬉しいな、と勝手に思っています。
3.3 Waseda-Tokyo2024のNCPの後悔ポイント
最後に、Waseda-Tokyoが改善できたであろうある欠点について紹介します。それは、統計処理の不足です。Waseda-Tokyo2024は今回、Partの解析において6種類のWet実験、3種類のIn silico simulation、2種類のModelingを実施し、ドキュメントしましたが、1つ1つの結果処理に関しては誇れる程のクオリティではありませんでした。
NCPの評価要件に立ち返ると、”experimentally measured”という言葉があります。これは、パーツの特性評価における計測がクオリティ高く行われているかどうか、という評価軸を反映されていると考えられます。「Measurement」というSpecial Awardも存在しているように、「標準化された計測」・「誰でも再現可能な計測」はiGEMが大切にする工学的原則の1つに含まれるでしょう。
しかし、今年のWaseda-Tokyo2024はパーツ評価の多面性や、その軌跡の充実度ではピカイチだったと考えていますが、1つ1つの実験結果のクオリティまで目を配れなかったのは悔やまれる点で、Waseda-Tokyo2024が壇上に登れないとしたらこの統計処理の不足が、災いすると考えていました。
いくらiGEMが教育的なプラットフォームであるとしても、合成生物学のレジストリに何かをドキュメントする以上、徹底的なMeasurementとその評価は推奨されるものです。そこを無視してしまった点が、Waseda-Tokyo2024がNCPの得点を落とす可能性の高い場所だったと考えています。
4. おわりに
この記事では、Waseda-Tokyo2024がBest New Composite Partを獲得するまでの道のりと、その背景にある戦略や考えていたこと、そして紐づけられたiGEMの価値観についてドキュメントしました。
また、New Composite Partだけではなく、Special Awardを獲得するにあたって重要となる概念に関しても触れました。Special Awardは単なる技術力・表現力・知識自慢を競う場ではなく、社会とのつながりや未来のための貢献を形にする「iGEM価値観を具体化するプラットフォーム」だと言えます。 実際に、私はNCPを獲得するプロセスを通じて、「踏襲と記録と継承」というiGEMの理念の重要性を改めて実感しました。今後iGEM Competitionで、Awardを勝ち取りたい誰かが、僕と同じ道のりをたどり、どうしようもないほどの感動を受け取ってほしいと思います。
最後にBest New Composite Partを獲得を目指すチームにお願いしたいことがあります。イキっているように聞こえるかもしれませんが「Waseda-Tokyo2024という巨人を超えてくれ」という事です。統計処理や実験クオリティへのさらなる配慮が必要であった点は、次世代のチームへの大きな教訓としてほしいです。
Waseda-Tokyo2024が指摘するNCPの課題を踏まえ、未来のiGEMerには「質」と「量」と「軌跡」のバランスを意識しながら血反吐を吐きながら、泥臭く、粘り強く、楽しくSpecial Awardを目指してほしいです。そうして登った表彰台の景色が格別のものであることは、私が断言できます。
重ね重ねになりますが、私たちの挑戦を支えてくださった全ての方々に心から感謝申し上げます。このプロジェクトが、多くの人にとって新たな挑戦へのインスピレーションとなることを願っています。ここまで読了いただき、ありがとうございました!
Ryojun Hayashizaki,
Waseda-Tokyo2024 Team Leader