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【読書コント】救急車を呼んでくださいじゃなくて?

今日も仕事が終わって時刻は22時過ぎ。

帰り道をため息交じりで帰っていると・・・

『どかーーーーーん』

どこからともなく大きな衝突音のような音が聞こえた。

私は何事かと思い音が聞こえた方向に走って向かった。

そこには1人の男性が倒れていた。私は急いで彼の元に駆け寄った。

私:大丈夫ですか?何があったんですか?

男性:あっ。今急に後ろからバイクが来てほんの少しですが接触をしてしまったみたいで。ちょっと足が痛んで歩けなくて困っていたんです。見ず知らずの私に声をかけていただきありがとうございます。

私:少し接触の感じじゃないですよ!けっこう腫れてますよ。すぐに救急車呼びますね。

私は携帯を出して救急車を呼ぼうとした。

男性:待ってください。救急車より先に私の弁護士を呼びます。

私:弁護士ですか?

男性:そうです。私、弁護士の知り合いがいるんです。すごいでしょ。

私:今、そんな冗談言っている場合じゃないですよ!!救急車呼びましょ。

男性:えっ?この前TVで見ましたもん。救急車は弁護士を経由が吉って。

私:どの番組とかで覚えてます?

男性:どの番組かは覚えてませんが、とりあえずアニメでした。

私:じゃあそれはアニメ上のフィクションの可能性が高いですね。

男性:いつか、使う時がきたらと思ってスマホのメモ帳に書いてたんですよ!そんなことないでしょ!

私:そうですね。それをお伝えいただいたことで、事実は変えられませんが、あなたが勉強熱心だというのは伝わりました。

男性:なので、1本だけ弁護士に電話させてください。

私:弁護士は救急車に無関係ですよ!

男性:いや弁護士が救急車を電話で呼んでくれるのです!

私:最終的には救急車を呼ぶんですよね?どう考えてもあなた以外の人だったら発生し得ない1人の登場人物と2本の余分な電話が増えるだけですよ?時間が余計かかっちゃいますよ!!

男性:さっきから、素直にこっちが聞いてればうるさいなー。怪我しているのは俺なんだ。すぐ済みますから。少し黙っててください。

男性はポケットから携帯を取り出し電話をかけ始めた。私はわざわざ助けに来た私に数秒前に「うるさい」「黙っててください」そんな心無い言葉を発した男性の顔を彼にばれない程度に隠れながら思いっきり睨みつけてみた。

男性:はい。先ほどバイクと接触をしてしまって。はい。救急車を呼びたいんですけど。はい。はい。はっはっは~笑。

笑っている。電話から弁護士さんらしき人の笑い声も漏れてきた。弁護士さんの人生の中で「救急車を呼んでほしい」という依頼は初めてで思わず吹き出してしまったのだろう。ただ、この男がなぜ笑っているのはいたって謎である。

男性:そうですよね。わかります。はい。はい。救急車です。はい。あっ。待ってください。今、通行人Aに変わりますので。

(通行人A?)私は心の中で疑問に思った。夜遅くにこの裏路地にいる人間は私と彼の2人しかいない。全身全霊で嫌な予感しかしてこない。

男性:あの~。弁護士の先生が代わって欲しいと言ってます。

私:私にですか・・・?通行人Aって私のことですか?

男性:説明めんどくさいんで。なんとなくです。あだ名みたいな。それより、早く出てください。早く病院に行きたいんです。

(この時間自体、君のせいで発生している無駄な時間だ)そう思ったが時間が余計にかかるのを避けたかったので何も言わなかった。その代わりと言ってはなんだが、今度は男性にわかるように思いっきり正面から睨みつけながら電話を受け取ってみた。

私:お電話代わりました。

弁護士:あのね。はっきり言いますね。私も忙しいんですよ。救急車に関してはもしご本人が呼べないのであれば、あなたが呼ぶべきなのでは。

私:いや、私もそう言ったのですが・・・

弁護士:言い訳は良いです。こちらは状況も場所もわからないので、2度手間になりますよね。わかりません?今すぐこの電話を切って救急車を呼んであげてください。

私:はい。わかりました。

弁護士:あと最後に、通行人Aとかってふざけてますよね?こんな時間に電話して、しかもふざけているなんて非常識だと思います。それでは。

--ガチャ。

私は今度は携帯電話を睨みつけた。携帯電話を睨むことで(なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ。)そんな気持ちを弁護士に電波を通して少しでも伝えたいと願ったからだ。

男性:ダメでした?

私:当たり前じゃないですか?すごい怒ってましたよ。中でも通行人Aが一番怒っていました。

男性:演劇の台本じゃなんだから!みたいにつっこんできました?

私:いや。ガチギレでした・・・もう救急車呼びますよ・・・

男性:待ってください。今度は海外に住んでいる友達に連絡します。

私は彼の言葉をすべて無視して救急車を呼んだ。救急車が来るまでの間、彼は海外に住んでいる友達、元プロ野球選手、学校の副校長など様々な人に救急車を呼ぶようにお願いしたが誰も実行はしてくれなかった。

数分が経過して、救急車が無事に到着した。

男性:一緒に救急車乗っていきます?

私:いや、遠慮します。家すぐそこなんで。

男性:今日はありがとうございました。ここだけの話、今日私が電話した人は私がずっと友人だと思っていた人たちでした。結局助けてくれたのは、見ず知らずのあなただけでしたね。迷惑かけてごめんなさい。そして救急車を呼んでくれてありがとう。

そんな言葉を残して、彼は救急車で運ばれていった。

結果として大切な睡眠時間という代償を払って、本日初対面の2人から罵声を浴びせられたモヤモヤを得ることとなった。そして、友人とは何だろうか。そんなことを考えるきっかけにもなる夜だった。

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