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推し作家に30歳を祝ってもらった話~野﨑まど先生シンポジウム 

はじめに

 今日は2022年9月11日。わたしの31歳の誕生日である。めでたい。
 ちょうど1年前、わたしが30歳になった2021年9月11日に推し作家に30歳を祝ってもらった話について書いてみようと思う。

推し作家 野﨑まど

 推し作家とは野﨑まどのことである。
 2009年にメディアワークス文庫賞を受賞し『[映]アムリタ』でデビュー。ハヤカワ文庫JAから『know』、電撃文庫から『独創短編シリーズ野﨑まど劇場』、講談社nexから『バビロン』、講談社から『タイタン』、集英社文庫から『HELLO WORLD』など複数の出版社で書いているほか、2017年に『正解するカド』、2019年に『HELLO WORLD』、2020年に『バビロン』と計3作品がアニメとなっている作家でもある。
 特徴としては壮大なテーマを設定し、読者を惑わせながら遠い着地点につれていく作品が多いことが1つめに挙げられる。「愛とは?(『[映]アムリタ』~『2』の共通テーマだと思う)」「正解とは?(『正解するカド』)」「仕事とは?(『タイタン』はちょうどコロナによる働き方改革推進時期に上梓されおおいに考えさせられた)」など。ハマる人にははまる。
 そしてもうひとつの特徴として、人をからかう小悪魔的な作家自身であるということ。そのからかう相手は担当編集であったり読者であったり。全然新刊が出ないことも野﨑まどからの愉快ないたずらで、「どうしてこんなものを出した!!!!」という作品も少なくない。叫びながら喜んでいるので読者は野﨑まどの手のひらで踊らされているのは間違いないのだが。
 とにかくそんな野﨑まどという作家が推し推しの推しなのである。

野﨑まどのセミナー開催!?

これは2021年8月28日の、わたしの叫びTweetである。

 ※本物ですが実体ではありませんでした。

なにがあったかというと。


 津田塾大学が中心となって進めている「学びの危機(まなキキ)」プロジェクト。コロナでやりにくくなった「学び」を途絶えさせないようにウェブ上でいろいろとやってみよう! というものである。
 どこが開催するかは特に気にするでもない。問題なのは、野﨑まどが講師としてシンポジウムを開催するということである。

シンポジウム:もうそれだけの人類 POST-COVID-19後の市民社会とDV/AIを現代文学から読み解く
9月11日(土) 14:15~17:10 講演:野﨑まど先生(作家)

 狐につままれたような気がした。普通に「は?」と声が出た。野﨑まどが人前に出た試しはほとんど無いのである。『正解するカド』『HELLO WORLD』のプレミアイベントでも原作者が出たことは無いのだ。当然だ。人前に出るのは作家の仕事じゃない。作家が出てきて喜ぶのは一部の熱狂的なファン。出演しているM・A・Oや浜辺美波が人前に出てきてきゃあきゃあ言うのがイベントという感じがする。
 でも、一部の熱狂的なファンにとっては藤井聡太より大谷翔平より岸田文雄より野﨑まどなのである。
 ともかく。疑念しか無いがわたしはシンポジウムに応募をした。ウェブ開催ではあるが人数制限(先着200名)があるようだし、他のまどファンもこぞって出るのだから話のネタを取りこぼして疎外感を感じたくないというオタク特有の強迫観念もある。
 以下に疑念を箇条書きしておく。
  ・野﨑まどは顔出しをしないがどのように出てくるのか。
  ・「野崎まど杯(仮)」とはなにか。
  ・ちょっとしたクイズ大会ってどういうことか。
  ・素敵なプレゼント?
  ・野﨑まどのプレゼントって消しゴムはんことか直筆イラストとか?
  ・素敵なプレゼント欲しいぃぃぃぃぃぃぃぃ!
  ・っていうか質問フォームあるけど新刊進捗どうですかで埋まるからその反応をものすごい見たい 

 こんな感じ。箇条書き一番下。現在では応募フォームが見られないため質問フォーム有無も確認できないが質問フォームがあったのである。

「2. 野崎先生への質問がございましたら、下記にご記入ください。頂いた質問をシンポジウム内にてご紹介させて頂きます。(時間の関係上、全ての質問にお答えできない可能性がございます。その点につきましては、どうかご容赦下さいませ)」

→今日は僕の30歳の誕生日です。何かのご縁でこのようなシンポジウムに参加できることを嬉しく思います。まど先生、よろしければ誕生日お祝いの言葉をください。また、先生が何度も描いてきた「創作」について、2020年台AIの進歩によってどのように変わっていくと思うかお考えをお聞かせ願えませんでしょうか。

 と書いた。
「今日は僕の30歳の誕生日です」

 もうアホかと。常連リスナーでしか許されない書き出しである。こんにちは! から始まるわけでも無いのだ。突拍子の無いことをやれば勝ち。みたいな野﨑まどファンとのタイムライン上でのやり取りを出してはいけなかったのである。
「まど先生、よろしければ誕生日お祝いの言葉をください」
 なんでこいつ少し開き直った書き方しているの? いただけませんでしょうか? とか謙虚なメールにできなかったの??
 一応補足すると、シンポジウムと言いながらも野﨑まどなんだし、アニラジみたいなゆる~い空気だろうからこのようなネタメールを送ってもいいんだろうと思ったのである。
 読まれる前提でリスナーネームはひらがな表記の「いがみ ちひろ」にした。井守をイモリと呼ばれることが多いからだ。この名字にしたのは完全に間違っているので、みなさんもペンネームを考えるときは誰にでも読めるものにしようね!

 完全に空気が読めずに恥ずかしい思いをしたのはシンポジウム当日のことであった。

シンポジウム:「もうそれだけの人類」

予習編

 応募フォームに怪文書メールを送ってから当日までは2週間あった。それまでにやらなければいけないことがいくつかある。
 その1はこれを読むこと。

「すごい丁寧に予習資料作ってるな!?!?」
 というのが感想。内容は見てのとおり結構基本的なところで、最近の星雲賞だとか日本SF大賞とかそういうのは無し。そして読んでみて改めて感じたのが、ウェルズやヴェルヌのSF作品のいくつか(『海底2万マイル』『十五少年漂流記』『タイムマシン』『宇宙戦争』)は井守は冒険小説として好きでありもともとSFも冒険小説も源流は同じだということだった。

 まあ、これに付随した予習内容としてほかにやったことは野﨑まど作品の内容をざっと把握し直したことくらいだろう。

 その2は服の準備である。
 シンポジウムのポスターをよく見てみよう。
(一社)社会情報学会2021年度研究大会のシンポジウム企画
 とある。これは学会の基調講演であるのだ。わたしも学生時代に学会発表をしたことがあるが、あれは発表者全員がスーツ姿なのだ。聴講者は別になんでもいいとはいえ、しかもウェブであろうとわたしはスーツ姿で出ようと決めたのである。世間一般的にはクールビズ期間だけれど、上着・ネクタイ着用で。

「ドレスコードとは“然るべき場所で然るべき服装をする”ことです。それは本来、決まりだから、規則だからという縛りではありません。その場と相手に対してふさわしいと思う服装を自ら選択すること。相手のことを考え、その結果を自分の行動として反映すること。相手に敬意を払うこと。それがドレスコードの意味と意義です。」

『know』 222ページ。道終・知ルの台詞より

 これは自分で決めたことなので、他のセミナー参加者に強要することでは無い。ドレスコードとはそういうものだから。
 ただ、質問タイムが双方向で顔出しの必要が迫られた時。『正解するカド』放映前に配られたヤハクィザシュニナのお面をかぶって出るか。あと一週間しか無い中で『舞面真面とお面の女』オリジナル版(メディアワークス文庫の『[映]アムリタ』~『』までの6作品はオリジナル版のほかに新装版が存在するため)表紙に出てくるお面を作って出るかで迷いはしたが(結局このお面は作っていない)。

 そしてその3。
 これは受講環境の話なので大したものではないが、配信はZoom(https://zoomgov.com/jp-jp/meetings.html)、野崎まど杯(仮)のクイズ大会ではZoomと別の早押しクイズ用アプリKafoot!(https://kahoot.it/)を使用するので触ったことのない人は触っておけばいいと思う。

 事前の資料配布は無し。

当日編その1

 さあ、9月11日だ。わたしの30歳の誕生日、土曜日で仕事も無く、シンポジウム開始の14時15分を前にスーツもばっちり着込んでいる。2020年、2021年は普段仕事でスーツを着ることもなくネクタイを絞めたのも久しぶり。これで合っている? と何度も鏡の前で身だしなみを整えた。別に自分が発表するでも無いのに。
 きちんとノートが取れるように、そしてテレビの大画面でZoomできるように。部屋の大整理を行った。壁付けのテレビの前にダイニングテーブルを持ってきて、テーブルの天板と同じ高さになるようにテレビを嵩上げして。ノートパソコンからHDMIケーブルで画面を出力だ。なんだろう、テレワークってこういう姿になるのかもなと思った。そう、このご時世わたしはテレワークをしたことが無い。弊社上層部も『タイタン』を読むべきである。
 ノートとペン、これはシンポジウムでなにかを得ることを目的に用意した。得るものはクイズ大会の商品ということでは無い。シンポジウムの資料はおそらく後日配布となるだろうけれど(実際配布された)、それが無かった場合ただ受け身でシンポジウムを聞くだけになってしまう。
 ただの仕事上のセミナーのようなものであれば別に構わない。しかし、よりにもよって野﨑まどのシンポジウムだ。一言一句聞き漏らすまいぞ。

資料について

 前項にも記載したが、当日の講義資料は参加者の中でも希望者にメールで送付された。送付されたのは以下の5点である。
・01_野﨑まど先生ご講演資料『他者を想像する』.pdf
・02_SSI&まなキキpresents野﨑まど杯争奪クイズ大会_参加方法.pdf
・03_野﨑まど杯賞品説明.pdf
・04_SSIシンポジウム_M先生ご講演資料.pdf
・05_SSIシンポジウム_H講演資料.pdf

 当然ながら著作権法によりこれらを公開する権利はわたしにはない。申し訳ないが見たいという人はお近くの優しい受講者に見せてもらってほしい。
 また、M先生、Hというのはシンポジウム進行スタッフのお名前であり、実際の資料タイトルでは名字が書かれていたが、まなキキのHPでもイニシャルで記載されていることが多いためここでもイニシャルに変更した。申し訳ないが野﨑まどと直接話したスタッフ両名の名前を知りたい人はお近くの優しい受講者に教えてもらってほしい。

当日編その2

14時15分、Zoomがつながった。司会進行は津田塾大学のSさんである。
当日のスケジュールは以下。

14:15~15:15  講演
15:15~16:15  SSI&まなキキpresents「野﨑まど杯」争奪デジタル×SF大クイズ大会
16:15~17:15  パネルディスカッション・質疑応答

 ボリュームたっぷり3時間だ。クイズ大会の内容はメモできていないが(自分が野﨑まど杯を取れるようにクイズに必死だったのである)、講演、パネルディスカッション、質疑応答とも可能な限り板書を取った。著作権に抵触しないよう、しかしなるべく抜けのないよう議事録とノートを以下に長々と書く。

議事録とノート(講演)

 まず、まなキキから当日の復習用ページが公開されている。

 あくまでも以下の議事録とノートはわたしの主観であるのをご承知おきください。記載間違い、文の抜けを補填によるニュアンスの変化などもあると思います。

S:2021年現在もcovid-19(新型コロナウイルス)の感染が止まらない。これに伴う市民社会がどのように変わるのか。なかなか議論しがたい内容なので今回SF作家に聞くことにしました。
 普段表に姿を出さない野﨑まどでも、Zoomであれば参加が可能であるかもしれないと参加を打診し、今日このようなシンポジウムを開催するはこびとなりました。
 
──野﨑まど登壇
 
ノートより:まど先生はやはり姿を替えて出てきました。アバターで、です。
 
──タイトル【他者を想像する】
 
野﨑:正直、自分は学術的立場にはいません。プロフェッショナルな立場と、作家という立場は違う。その違いがわかればいい。
S:先生もスムーズに動いています。
野﨑:この表情ですが、別に見下しているわけではないです。
 
1 文学、想像力の世界について
 
野﨑:文章は、想像力を駆使する媒体です。筆者も読者も文字からの想像が必要です。といっても、読者のほうが難しい作業です。それは読者一人ひとりの持つ情報量が違うから。
 例えば俳句などは既存の情報を利用しています。非常に文字が少ないですが、その文字に既存の情報を載せることで読者に想像を促します。お年寄りは持っている情報が多いから面白いと感じる反面、情報の少ない子供はその楽しさもわからないものです。
 
 フィクションの創造において、作品を想像することが必要です。
 『正解するカド』という作品は現代日本が舞台なので現代における理論をたくさん用いています。これにはさまざまな取材が活きました。
 一方『タイタン』という作品は近未来が舞台です。取材ではなく自分の想像力を働かせる必要がありました。その想像も正解とは思いません。

ノートより:カドとタイタンの作り方の違いは『バビロン』正崎善の読み作業に近いように思います。とにかくデータをたくさん用意して(≒取材)理路整然と証拠を集める場合と、少ないデータから想像を膨らまして証拠を推測する場合。

野﨑:いろんな想像を山程します。想像は、既知の情報を利用して、未来を創造すること。シミュレーションとも言いかえることができます。
 既知であるものは道として使えます。新しい情報を脳に蓄えていく、これでシミュレーションの土台を大きくしていきます。ゼロから作るのは難しいですから。
 たとえば天気予報。これは完全に経験による予報であって、シミュレーションに近いかもしれません。
 想像力とはアルゴリズムでは無いです。アルゴリズムとは正解に向かうための手段です。
 しかし想像力は不利なこと、不都合なことにい行き当たることもあります。
 
 この想像力について。Covid-19をいいあてたような作品もあります。『ペスト』『天冥の標』などです。一方で想像できなかった社会変化もあります。だから、想像力において「当てようとしない」ことは大切だろうと思います。想像の数を増やせば、その多くの想像のるつぼの中に未来の一部があるはず。
 ひとつの想像の精度をあげようとしてもベクトルがズレてしまうことがあります。山程玉石混交でも作ったほうがいいです。
 
2 AIについて
 
野﨑:AIとは人工知能(Artificial Intelligence)のことです。
人工知能学会においては「知的行為を行うもの」と定義されています。知的行為の中身は推論、認識、学習、自然言語処理。
 人工知能における学習とはディープラーニングのことです。
 
 非デジタルなものをデジタル処理する場合において、知的生命体と呼べるのは人類のみです。霊長類と呼ばれるだけあります。この言葉は強い。
 しかし、観測内における唯一の知的生命体が人類であるとすれば。
 人工知能とは地球外生命体なのかもしれない。その可能性があります。
 
ノートより:人工知能が地球外生命体なのかもしれない、と言った時。様々なAIが普及している現代はあちこちでファーストコンタクトしているとも言えるか。
 
野﨑:AIはあちこちで使われています。囲碁、ゲームAI、将棋もだし珍しいところではキュウリのサイズの仕分けなんかでも用いられている。アルバイトができることをAIもできるようになるわけです。
 するとAIはどんどんヒトのような振る舞いになっていきます。ヒトに似ていく。でも、AIは人間とは別の知性です。
 そもそも知って何か? AIは全知たるか? AIに人間が知ることができない死を知らしめられないか。
ノートより:『Know』の世界観みたいになってきています。
野﨑:AIの欠陥はヒトとズレた部分があること。これでは役に立ちません。しかし、利点としてヒト以上の能力を発揮できることです。ヒトである以上それが足枷になります。人智の及ばないところにAIは行ける可能性を持っています。
 例として囲碁AIですが、プロが見ても「わけがわからない良い手」が出ます。このプロセスは人間には理解できないそうです。その場合のAIとは人智以上のものです。これが良いか悪いかはともかくとして、人智を超えたものであることに間違いは無い。
 
 Covid-19について対策にAIが導入されたらという可能性について考えます。
 もしかするとAIからは人智を超えた提案が出るかもしれない。内容としては怖いものが出てくる、それを人類は採用できるのか。それはわかりません。
 人智の及ばないことを選択できるのか、人類として。
コメント:正解するかわからない対策を、AIの提案だと受け入れられるか自分でもわかりませんでした。権威のある医療関係者の意見のほうがAIよりも優れているだろうとその時は思ったからです。
 
3 市民権・市民性について
 
野﨑:Citizenshipについて。
 市民性とは、市民が備えるべき資質と能力のことです。例えば、
・他人を尊重
・個人の権利と責任の理解
・人類文化の多様性の理解
・社会の中で円滑な人間関係を維持すること
 これらは行動規範と呼ばれます。手本つまりこうあるべきと言いたいのです。これは善性とも呼ばれます。市民性とは善性であることなのです。
 
 手本は「よいもの」です。善とは継続することです。
 善性とは継続に寄与する性質・傾向・能力のことです。
 
ノートより:『バビロン』でも続くことは善いことと定義しているため、まど先生の持っている考えそのものだと思います。
 継続が善だとしたら、「進歩」はどうなのか。『正解するカド』では自分が途中であることが進歩だと定義していましたが。
 
野﨑: Covid-19は市民性の変化を促しました。どう行動することが市民の社会に寄与するか。大勢でそう考えるようになったからです。マスクやワクチン、外出しないなど意見は様々あると思います。
 急激な社会変化は市民性がゆらぎます。(例:マスク非着用の外出は善ではないという風潮となったことから)科学的な検証がCovid-19の流行に追いついていないため揺らいでいるのです。
 アンテナを高く張っているヒトがいますが、そうでないヒトも別に悪いということでは無いです。正しいことを知っているヒトがいたかどうかについて、思想も心情も自由なので誰も何も責めることはできないからです。
 
 AIに市民性があったほうがいいのか。答えはありませんが考えてみます。
 AIは現在、市民では無い。AIの行動規範はAIの継続に寄与するかどうか、だけです。
 
一般的に知性は自我とは不可分です。ここでAIに市民(=集団)の継続を考えさせたら歪みをもたらすことになります。AIにヒトをロール(演技)させるのは危険ではないでしょうか。それはぜか。
 これまでは市民性とは人間同士の問題でした。人間の行動規範は人間が考えてきたからです。しかし、市民性にAIが導入される(≒AIが市民として迎えられる)と未知数となります。
 
ノートより:『タイタン』も市民性にAIが導入されている例です。あっちはうまくいっているけれど。
 
4 変化について
 
野﨑:市民性、人間そしてAIの変化についてです。
 市民性は常に変化しています。規範はあくまでも相対的なものです。変化は善性を保つために重要な要素です。レジリエンス(弾力性)は善性にとって必要なのです。
 ここで、ヒトは変化するのだろうか。と。
 地域差、年齢差、性差。変化の可否はケースバイケースになっています。変化か維持か、正解はありませんが。
 
 生物の進化もそうです。変化するもの、維持するものの中で淘汰があり、失敗すれば死にます。その中で生存してきたものが今に至ったというわけ。
 知的生命はもう少し賢くて、経験と学習から将来をシミュレーションし、ダメな場合は更に経験と学習を繰り返す。そのシミュレーションがオッケーであれば淘汰を乗り越え生存します。シミュレーションの結果淘汰される側になってしまうこともありますが。
 シミュレーションが入るだけで効率がよくなります。このサイクルですが、AIは人間よりも変化しやすいものです。身体的制約は少なく、処理速度も生物より早い。半導体に神経系は勝てません。そのため、状況によっては人間よりも優れています。
 
 技術進歩によりDX(Digital Transformation)が進められています。行動、知識、もののデジタル化などです。AIを活用して、知的経験のデジタル化は進んでいます。Amazonのレビューの順位付けなどがその例です。現在のAIは想像力を生み出す段階に差し掛かっていると思います。
 
 AIの提案についてです。
 物量がある、玉石混交である。モラル・インモラルが混在し、その価値基準は人間と違います。ビッグデータも扱える。これを用いてビッグサジェスチョンができるようになります。
 その提案の中から。選別もAIが行う。人間は結果を使うだけの立場・仕事になります。信頼の最終段階をヒトは構築すればいいのです。
 何がすごいかはわからないけれど、すごいものを使うのが人間。AIとは人智を超えた想像力そのものなのかもしれません。
 AIと人間との間には言語化が必要となります。AIを活用するのに必要なのはコンバータです。このコンバータさえAIが生み出すかもしれません。
 そのようなコンバータを扱ったSF作品に瀬名秀明の『BRAIN VOLLEY』があります。
 
 言語化の壁はありますが、子供や動植物、鉱物には必要ないかもしれません。ただしこの辺りの話は宗教的な話になってきます。人間よりもすごいもの、想像の限界。人智を超えたもの。それは神様と呼ばれています。
 人間よりもすごいものが未来に行くのでしょう。
 
5 信頼とは

野﨑:信頼とは、信じて頼りにすること。頼りになると信じること。これは社会学や心理学の話でもあります。「返ってくるか」ということです。
 対象への理解が深い、対象の能力が高い。このものさしで考えれば子供や機器は上下関係では下になります。支配される側で「返ってくる」量が少ないからです。
 一方高能力者、また神という存在は上下関係では上になります。「返ってくる」量が多いからです。
 
 では、AIはどちらになるのでしょう。AIを支配する(=下)のか、AIに庇護される(=上)のか。混在になるのではないかと思います。能力差を補ってのちに人間と帯刀に鳴るのではないでしょうか。
 
 AIと人類への権利ですが、人類はAIに権利を与えるかという考えについて、逆にAIも人類に権利を与えるのかと。AIに人権を人類が与えるならば、AIも人類にAI権を与えるかという話になります。知的生命体である人類がはじめて出会う対等の他者はAIです。
 
 そうすると、AIとの関係構築を考えることになってきます。AIとはいったいどう円滑になっていけるのか。
 それを考えるのにCovid-19の問題は比較的変化量が小さく相互に理解しやすいものと思えるかもしれません。
 

議事録とノート?(クイズ大会編)

 クイズ大会の問題と回答は(https://learningcrisis.net/?p=19121)で公開されている。野﨑まどの出題内容については、まど先生らしいなと感じた。
 ネズノフミ動画の再生数は2022年9月現在、まだ3桁である。

 ここからは余興、と銘打ってはじまった大クイズ大会。ここで1位~3位入賞者への商品が発表された。

第1位:正賞【秘密】
 副賞:
HELLO WORLD Blu-ray スペシャルエディション(Blu-ray2枚組)映画HELLO WORLD公式ビジュアルガイド
第2位:正賞【秘密】
 副賞:『バビロン』1~3セット
第3位:正賞【秘密】
 『野﨑まど劇場』2冊セット

コメント:『野﨑まど劇場』についてはみんな大好き、の前置きがついた。正賞はものすごいです! と太鼓判の正賞。これを目指して全員が燃えたに違いない。

 そして成績が悪い人には、Sさんの研究室で出版したものの在庫となった本を押し売りするよということに。
(ただし、クイズ大会後にはこれは冗談だと種明かしされた)

 60問が終わり、第1位から第3位の方が発表された(おめでとうございます!!!)。正直、副賞のHELLO WORLDブルーレイもビジュアルガイドもバビロンもまど劇場も持っていたので特に悔しくはないのだけれど正賞の野﨑まどの作った謎のなにかはものすごく欲しかった。そして正賞が発表となる。

第1位:【野﨑まど杯優勝記念パラパラ漫画】
 
まど先生オリジナルのパラパラ漫画!!!!!!! どうしてこの作家は……、作家だけどもこういうものを作って提供してしまうのか。欲しかった。
第2位:【野﨑まどサイン(クリア仕様)】
 
この字面が出て、あーあれか、とイメージが湧いてしまった自分はやはりどうしようもなく野﨑まどファンであった。
第3位:【図書カード(1000円)】
 普通だな、と思ったがそういうタイトルの小説かもしれないし小説ではないそういうタイトルの何かかもしれない。
 と思ったらまど先生が補足で「一番欲しいですね」と全国の書店で使える図書カードそのものであることを明言した。すこし残念ではある。

最下位:【野﨑まど生写真】
 
最下位の景品に生写真って、それむしろ欲しい! 欲しすぎる!!!
 アイドル生写真同等の、いやそれ以上に欲しい。そんな最下位賞なんて全然考え付きもしなかった。
 結局わたしは可もなく不可もなくの順位だったように思う。

 クイズ大会が終わった時点で時間は16時45分になっていたため、かなり押していたのがわかる。60問が多すぎるのである。

議事録とノート(パネルディスカッション)

 パネルディスカッションではMさん、Hさんが資料をそれぞれ作ってきてその疑問に野崎まどとディスカッションを行った。

Mさんのテーマ「現代社会で非・専門家が小説を読むということ」
M:前置きとして、小説を読むということについて考えます。
 小説を楽しむという行為において、言語と社会的枠組みに共感する。知の習得をする。お約束を楽しむ、あるいはひっくり返されることを楽しむ。感情に訴えかけられるということが挙げられると思います。
 フィクションの世界にAIが入ってきたとしたら、AIに何かを投影しやすいことになるのではないでしょうか(例としてターミネーターのT-1000とか?)。
 例1:『know』『タイタン』
 この両作品ではAIが人間により近いものと扱っています。 
 
M:他者の他者らしさについて。これは自分にとって不都合な部分も含みますが、他者は現代社会において他の少数の他者と繋がりやすいようになっていると思います。
→フィルターバブル、エコチェーンバーなど。
 例2『タイタン』
AI(コイオス)との会話、他人が怖いことについて。
 
M:他人とは。怖いものなのでしょうか。安全な意外性をもつ存在こそが人間に求められているのか。共感されやすいほうがいいのか、仕事の影響を与える対象としても他者は他者らしくあるほうがいいのか。AIの発展によりどっちに転がっていくのでしょうか。
 例3『欺瞞』『タイタン』
 欺瞞など無意味である(笑)
 
M:前置きは異常です。AIに自我は芽生えるのか? 他者からの拒絶を低減させるためには何ができるのでしょうか。
 
野﨑:正確に予想はできませんが、自我の定義とは何なのでしょうか。未知の料理のようにも思います。自分の発想の中にないもの「=自我以外」が芽生えたほうが面白いかもしれません。面白い・つまらないの二元論で考えれば、ではありますが。
M:『バビロン』も社会学的には面白いです。自我のイメージが発展しているから?
野﨑:書いているあいだに書き手の考え方も変わっていますから。
 
野﨑:他者の概念についてですが、境界線が自我かと思います。他者との境界線にあるもの、つまり身体が自我と同じなのでは。身体の境界線を薄くすることになるのか?
(境界線が薄すぎると『新世紀エヴァンゲリオン』のATフィールド崩壊みたいになるイメージ)
 自我の低減は脳も認識するのか。未知のストレスが多いのかもしれません。未知でなくするために、デジャヴを。化学的に再現するのはありかもしれません。それはそれでストレスが溜まりそう。ディストピア感もあるかなと。

Hさんのテーマ「野﨑まど先生の作品を拝読して-AIと人間の関係性から-」
H:野﨑先生の作品に登場するAIについて。
 『[映]アムリタ』(2009年)では、淡々とした受け答えをするのがAIとして書かれています。『小説家の作り方』(2011年)では在原顕の作ったAIが在原顕以上の性能を持ってしまいます。
ノートより:『死なない生徒殺人事件~識別組子とさまよえる不死』(2010年)ではAIでは無いが自我の引き継ぎが行われている。これはこのシンポジウムには無関係?
H:『know』(2013年)では電子葉がクラウドに接続する補助デバイスとして用いられています。『タイタン』(2020年)ではAIが判断を行うまでに進歩しています。
 野﨑先生の作品は王ごとにAIの役割が大きくなっています。
 どんどんとAI感が遷移していきますが、今後の作品でAIと人間の関係性はどうなっていくのでしょう。これは狙い通りなのでしょうか。
野﨑:恐縮です。
 狙い通りということはありません。AI感はどんどんとアップデートしてきています。ディープラーニングという概念が出てきたことによって、AIの書き方も日進月歩です。

議事録とノート(質疑応答編)

 さてお待ちかね。野﨑まどへの質疑応答タイムである!!!!!
 読まれたらどうしよう!!!!! こんなに真面目なシンポジウムなのに!!!!! でも読んで欲しい!!!!! お祝いしてほしい!!!!!(趣旨はお祝いしてほしいことだった)。

Q1「執筆について
野﨑:(食い気味に)ノーコメント。
Q2「作品の着想はどこから?
野﨑:その時々。自分が生きる中で合ったものから。遊ぶことを我慢するときにひらめくことが多いです。アイデアが必要な時は苦痛ですが、浮かぶ時もある。すごく良いアイデアはメモを取らなくてもいいくらい覚えていられます。
 取材、参照をするにあたっては図書館を利用します。ふわっとした知識で書くのは駄目だと思い、でも調べ始めるときりが無い。興味からであって、勉強のつもりは無いです。
Q3「狂った文章はどうして出てくる?
野﨑:どうしてといっても別に、誰の責任でも無いものが出てくる。その分に説得力を持たす工夫なんかも特にそのように考えてはおらず。既存のキャラをつかってみたり試行錯誤します。
Q4「特徴的な登場人物の名前はどのように生まれる? そこにポリシーはある?
野﨑:役割に則って名前をつけています。疲れたときの命名法ではありますが。
Q5「規定概念が覆るような作品にこだわっている?
野﨑:特にこだわっていません。どんでん返しが好きで書きたいというわけでは無い。ただどんでん返しで無い作品は書く機会がいままで無かったというだけです。
Q6「扱うテーマが抽象的なのはなぜ?
野﨑:小さくて個別的な概念は答えがすぐに出てきてしまいそう。だから、考え続けるようなテーマのほうが書き手として頑張りがいあります。がんばります。
Q7「執筆におけるルーティンはある?
野﨑:取材は興味の向くままやっています。学会に今回もツテができたし、そういうのが嬉しいです。情報の仕入れ方、アンテナの張り方、着想の接し方などに助けになるから。
 ただ、生活費。お金が無くならないには気をつけています。
 もうやりたくない、って時は無理をしません。
 コロナ禍になってスタッフワークが難しくなりました。飲み会に行かないと進まないこともあります。
 あと、自分の着想のルーティンとして漫画喫茶で仕事をすることがあります。時間あたりの料金が発生するから……。
Q8「作家になってなにか変わったか自覚はあるか?
野﨑:特に大きなものは無いです。進学や転職、定期的に仕事を変えるようなことが無くなっただけ。
Q9「総理大臣にならないか?
野﨑:なれるものならば。
Q10「曲世愛や最原最早はどうやって生まれたのですか?
野﨑:世界観が先にあって、そこから生まれました。『know』は特にこれだ! というものは無いです。キャラメークは作るときに迷うところ。曲世愛は「人間と反対のキャラクター」として設定しました。あまり考えたくないキャラクターです。
Q11「AIの導入によって思うことは?
野﨑:日本の教育がパッシヴからアクティブに変わるのか。答えを待つ日本の教育の形にAIが影響を与えることになるのか。海外のことはわかりません、自分は日本人ですから。アメリカ人みたいになる? それがアクティブということでしょうか。両方のタイプのAIが教育には必要なのかもしれません。
Q12「作品の死生観は?
野﨑:人が死ぬという話についてですが、特に積極的にやろうというつもりは無いです。ただ人が死ぬことを忌避しすぎるのもよくない。身軽ではありたいと思います。死は悲しいことだけど、悲しみを必要以上に作品に入れ込むことはやりたくない。
 もしかしたら今後人の死で笑いをとるような時代が来るかもしれないが、シリアスになりすぎないようにしていきたいです。
Q11「バビロンの進捗は?
野﨑:キリスト教についての知見が深まっています。
Q12「メディアミックスについて新情報はある?
野﨑:メディアミックスとは先方から話があれば始めることができるものであって、最近は難しいですね。私から何か人様の活動に口を出すのはちょっと……。
 そういう意味でもありがとう情報社会学会!
Q13「ほかにも質問が多く寄せられているほか、今日誕生日だという方もいますね
野﨑:わざわざ誕生日に参加してくださってありがとうございます。おめでとうございます。誕生日は大切な日ですから、ケーキを買ってお祝いしてください。せっかくだから自分からも何かプレゼントをこのあとお送りしますね。
S:野﨑先生から誕生日プレゼントなんてファンからすれば嫉妬に狂うようなお言葉です。名残惜しいですがお時間となってしまいました。

 最後の最後で読まれました。祝っていただきました。顔から火が出る恥ずかしさと嬉しさだったけどね、最高だよ。ありがとう、野﨑まど! ありがとう、社会情報学会!



感想

 Zoomを切って、ネクタイを外した。そしてケーキを買いに行った。スーパーで大きなお寿司を買って、海外のビールも空けた。そして、ろうそくも立てて火を点けてケーキを食べた、美味しかった。
 一人、どうしようもない地方転勤先でこんなにも楽しい気分になったのは久しぶりだった。仮にリップサービスだったとしても、お祝いして欲しい人にお祝いの言葉をもらえたからである。
 個人的なことでいくらでも出てくるが、
「人類がAIに人権を与えると同様に、AIも人類にAI権を与えるかどうか」という考えが非常に興味深かった。以下が講演後感想フォームに送った文章である。

 野﨑先生のお話が聞ける、と参加させていただきました。
 基調講演について、野﨑先生の著作の中に何度も出てきたAIについてなので既刊の読者が知っている内容で進むのかなと思っていたのですが、もっと深いところ。たとえばCOVID-19への対応にAIを導入した場合の利点欠点、人の想像の範囲外なアイディアが出てきたらどうするか、などは自分も考えてみようと思いましたし、玉石混交なアイディアを山程用意して、「当てようとしない」という話は自分では決して考えられない内容と思いました。「正解」「究極」といったテーマでまど先生が著作を書かれていることもありなおさら「当てようとしない」という言葉が出てきたのは驚きでした。
最終的にAIへの市民権の話、そして人類へのAI権の話が出てくるのはさすがSF作家だなと関心させられました。
 続いて余興のクイズについてですが、楽しめたけど難しかったです。SFはまだまだ知らないことが多く、人工知能についてもこんなことがあるんだと知るきっかけになりました。次は入賞を目指したいです。
 最後に野﨑先生への質問コーナーの最後に「今日が誕生日だ」とラジオへの投稿のように書いて送らせてもらったのですが、読んでいただき野﨑先生からお祝いの言葉を頂いて忘れられない日になりました。早速ケーキも食べました。
 敬愛する野﨑先生の公演を聞くことができ、またメッセージもいただけて、個人的なところはありますが良い日でした。特に、色々と考えることが見つかったのも良かったです。
本当に、ありがとうございました。

後日談。本当に届いたプレゼント

 というのが冒頭の写真である。
 講演から数日後。当日もお話されたHさんからメールが来て、諸々あって手元に本当にプレゼントが届いた。
 こっそり自分だけのもの、とも考えていたのだけれど、

第1位:野崎まど杯優勝記念パラパラ漫画と副賞(副賞HELLO WORLD Blu-ray スペシャルエディション(Blu-ray2枚組)+映画HELLO WORLD公式ビジュアルガイド )

第2位の方は補足できなかったが、野﨑まどサイン(クリア仕様)というのはこのようなものだったと我々は類推できる。副賞は『バビロン』1~3セット。


第3位:図書カードと副賞(『野﨑まど劇場』2冊セット)

https://twitter.com/yorozu_kame3/status/1440456988803010562

このように正賞の報告をネットにあげてくれる人もいたのでわたしもTwitterにあげました。

https://twitter.com/igami_tefly/status/1440256721927041028

 「情報不足すぎて誰かもわからない生写真(裏にサイン入り)」、「説明の紙(おそらく野﨑まど手作りのパンダ消しゴムはんこ押印済)」、「まなキキHさんからのメッセージカード」が届いた。嬉しかった。30歳を野﨑まどに祝ってもらった読者は果たしてどれだけいるのだろう。
 多少? 傲岸不遜でも誕生日だから祝ってよ! と書いてよかった話である。



※なお、この「情報不足すぎて誰かもわからない生写真」は本当に誰かわからず途方に暮れた代物なのでネット上に公開することはいたしません。わたしと直接合う機会があり興味がある方にはお見せできます。


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