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医学書を執筆、出版する方法

・私は「内科診療ことはじめ」(出版:羊土社 2022年3月)と「レジデントのための神経診療」(出版:医学書院 2023年8月)という2冊の本を執筆・出版させていただきました。どちらもベストセラーという訳では全くないのですが・・・、執筆・出版の経験で得た多少のノウハウを共有することができればと思い記事を書かせていただきました。
・具体的には出版のメリット、実際に出版へつなげる方法、お金のことなどをまとめています。今後医学書をだすことに興味がある方に役立つ内容になりましたら幸いです。

医学書が担う役割は何か?

・読むのも書くのも英語原著論文が一番重要です。では敢えて日本語で医学書を書くメリットはどこにあるのでしょうか?
・当たり前ですが本は日本語の方が圧倒的に読みやすく理解しやすいので、ある分野を始めて学ぶときは日本語の方が良いです。私は神経が専門なので、神経系の原著論文は比較的すらすらと読めますが、ときおり皮膚科系のジャーナルを読もうとすると用語すらわからず全然読めません。このように初めて学ぶ分野や専門外の分野はやはり英語での入門はややハードルがあります。
専門外の分野や初めて学ぶテーマの入門書として日本語で書かれた優れた書籍があると新しく学ぶ上で非常に助かります
・私が学生のころ「ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理」という循環器の本(原著は英語ですが日本語への訳本)があり、これは難しいけれど病態生理を解説するとても面白い内容で読み込む過程で循環器内科が好きになりました(学生のころは循環器内科志望だったのですが、初期研修で自分の体力的に厳しくやめてしまいましたが・・・)。
・このように医学書はその分野への招待状の役割も担っていると私は思います。医学書を通じてその分野に少しでも親近感や興味を持ってもらえることができれば、仲間が増えます。こうした水先案内人はどの世界においても必要です。
・近年感染症を志望する若い先生が増えているのも、こうした感染症診療の魅力を医学書や日常臨床での教育を通じてPRできていることが大きいのではないかと個人的には感じます。

医学書を書いたことで得られたメリット

自分の考えの整理につながる

・普段考えていることを相手に伝えるために言語化する作業は非常に勉強になります。医学書は自分の勉強のために半分書いているもので、アウトプットを通じて自分の知識を体系的に構築することができます。
・こうして一度書いたものを土台にして、また臨床で得た知を本の余白に書き加えたり修正していく過程で知がsolidなものになると感じます。私は自分の本の余白にもっとこう書くべきだったという気づきや新たに得た知見を書き足しています。

教育に役立つ

・臨床での教育はベッドサイドで口頭で伝えることが多いと思います。ただそのままでは復習しづらさもあるため、口頭で教えた内容を後からきちんと確認できるように文章に残しておくことが教育上有用(特に復習)と思います。
・私は自分のホームページがあるので、そこの該当ページをシェアすることで教育することができますが、もちろん自分の本があれば該当ページをシェアすることが教育効果が期待できます。

・TwitterなどのSNS媒体は確かに簡単な情報の共有には適しているかもしれませんが、少し込み入った内容になると太刀打ちできず、また思考回路を伝えることは苦手としています。その点で教科書は骨太な論理展開ができるので、誤解が生じづらく、また複雑な内容や臨床の思考回路を共有する上では最も優れた媒体であると思います。

感謝してもらえると嬉しい

・どんな形であれ自分の書いた本が出ることはとても嬉しいです。初めてお会いする研修医の先生から”先生の本ですごく助かってます!ありがとうございます!”、”先生のファンです!”と感謝されることがしばしばあります。これまで面識の無いはじめましての方から本を通じて親近感を感じてもらい、実際に感謝してもらえることは素晴らしい経験です
・他病院の勉強会にお邪魔する際に「うちの病院で研修医みんな先生の本を読んでます!」と言っていただいたり、「本にサインしてください!」と言われることも多々あり、急性期病院の勤務ですり減った自己肯定感を回復するには絶大な効果があります。

新しい仕事が増える

・本を出版して一番変わったことは色々な仕事の依頼が増えることです。名前が売れることは良い側面、悪い側面いずれもありますが次の仕事に繋げる上ではやはりある程度名前が売れた方がやりやすいことは間違いありません。
・具体的には他の研修病院からレクチャーや勉強会の依頼が増え、学会から若手向けのセミナー講師依頼があり、別の執筆仕事の依頼も増えました。

おもしろい医学書にするためには?

新規性の検討

・私は現在卒後10年目の医師ですが、私が初期研修医をしていた7-8年前と比べても明らかに医学書は増えています。こんなに沢山の本があったら初期研修の先生などは選ぶのに相当迷ってしまうのではないかなと思います。正直こんなにニッチな分野の本もあるのか!と驚くことも多く、本が増えたことによってほとんどの領域がカバーされています。

・正直これだけ医学書が増えている現状で新しく本を書こうと思った場合は他書籍との差別化が必要です。例えばARBが既にあるのに、別の製薬会社が新たに別のARBを発売することと同じであり、同じような内容の本が出版社を変えただけで出版されても意味がありません。
・新規性を検討する上でのポイントは具体的に①未開拓分野に参入する、②読者層を変える、③文体・スタイルを変えるなどが挙げられます。

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