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『幸せな未来は「ゲーム」がつくる』を読んだ

自分はファミコン世代だ。テレビゲーム第一世代とも言えるかもしれない。しかし子供が何時間もゲームをやっているとウンザリしたりイライラしたりしてしまう。自分も相当な時間をゲームに費やしてきたくせに! 自分のことを完全に棚に上げている(苦笑)。

と同時に、頭ごなしに「ゲームばかりしてるんじゃない!」というものなんか違うなあ、とも思っていた。そんなとき、たまたまツイッターでこの本『幸せな未来は「ゲーム」がつくる』(ジェイン・マクゴニガル著)を知った。「ゲームをやることを肯定的にとらえらたい」と思っていたのところだったので早速読んでみることにする。

リアリティー・イズ・ブロークン

この本の主題は「代替現実ゲーム」についてだ。「仮想現実(Virtual Reality)」がコンピュータが造り出した仮想空間内で完結しているのに対し、「代替現実(Alternate Reality)」は逆にゲームの方法論を現実に当てはめようとする概念だ。

著者は「なぜゲーマーたちは一週間に何十時間もゲームに時間を費やすのか? それはゲームに比べて現実はあまりにも不完全だから」と言い放つ。

誰しもが少なからず現実にうんざりしている。退屈な学校の勉強。苦痛極まりない日々の労働。現実世界のどこに生きている実感や何か集中できるものがあるのか? 達成感や成功のスリルを味わうワクワク感は?

現実の中ではたまにしか経験できない楽しさや達成感やスリルは、ゲームの中でほぼ絶え間なく経験できる。「だったら”退屈な学校の勉強”や”苦痛極まりない労働”をゲームのようにデザインし直してみれば?」と著者は挑戦的な提案をしている。

ゲームは、ゲーマーたちに飽きられないように、できるだけ長くプレイしてもらえるように、デザインされている。現実よりも楽しくて当然だ。ゲームは世代を超えて欠かせない存在になっている。どんなにゲームを否定的にとらえたり禁止したりしてもこの流れは止まらないだろう。むしろゲームを否定する立場に立ち止まっていると、現実を見誤って間違った言動をとってしまう可能性が高い。否定的にならず肯定的に捉えてみては?

すべてのゲームに共通する4つの特徴

世の中のすべてのゲーム(デジタル、非デジタル問わず)は以下の4点がなければならない。

①ゴール
②ルール
③フィードバック
④自発的参加

例えば 非デジタルゲームであるゴルフの場合はこうなる。

ゴール「ボールをカップに入れる」
ルール「クラブでボールを打って進める」
フィードバック「打数。他者との競争」

「ボールをカップに入れる」という目的(ゴール)を持ち、「クラブでボールを打って進める」という制約(ルール)を自らに課すことで娯楽性が高まる。さらに「打数」や「他者との競争」で自分の立ち位置がわかる(フィードバック)とゲームへの没入度も上がる。接待ゴルフが面白くないのは「自発的参加」が欠けているからかもしれない。

デジタルゲームは「フィードバック」が非デジタルゲームよりも秀でているそうだ。たしかにそうかもしれない。「スーマリ」のハイスコアやタイム競争、「テトリス」のピースを消せば消すほど上がる難易度、「ドラクエ」のレベル上げ、例を挙げればキリがない。そしてどのゲームにも”視覚に訴える演出”と”聴覚に訴える効果音”があり、それらはリアルタイムにフィードバックしてくる。

なぜゲームは人を幸せにするのか

地位や名誉や金では幸せにはなれない──とはよく言われる言葉だ。これらは「外発的報酬」といわれ強い動機にはなるもののキリがなくなるという問題がある。大金を手にしたとしても次はもっと多額の金を手にしないと満足できなくなるのが外発的報酬だ。

対して「内発的報酬」というものもある。では内発的報酬とは何か? この本では次の4点を定義している。

①より満足のいく仕事
②より成功する可能性
③より強い社会とのつながり
④より大きい意味

著者はMMOゲーム(Massively Multiplayer Online Game「大規模多人数同時参加型オンラインゲーム)を例に挙げている。

MMOゲームには、英雄的なクエストが数多く用意されている(より満足のいく仕事 & より成功する可能性)。MMOゲームをやる人間は内向的な人間が多いが、内向的な人間でも「ゆるくつながれる」のがMMOゲームらしい──ここで個人的に「任天堂Wiiが『テレビの前に集まって遊ぶ』をコンセプトにして負けた理由はここにあったか」と思った。集まる友達がいない人には寂しいコンセプトだったのだ(より強い社会的つながり)。そして大規模レイドバトル(集団攻撃)に参加すれば大きなうねりの一部としての高揚感がある。いわゆる「祭り」だ(より大きな意味)。

これらのものを現実世界で得られることはたまにしか無い。ゲームはこれら内発的報酬を得られるように上手にデザインされているし、そのノウハウの蓄積がある。そしてゲームで培ったノウハウを現実世界に当てはめようというのが「代替現実ゲーム(ARG)」だ。すでにARGはたくさんが世に出ているらしく、本書ではそれらが数多く紹介されている。

個人的に一番興味深かったのはニューヨーク市にあるビル・ゲイツ財団などが資金援助している学校「クエスト・トゥ・ラーン」だ。この学校では勉強自体がゲームなのだ。

例えば、図書室に隠されている極秘ミッションを誰よりもはやく見つけて解け、とやれば「強制されてやる宿題」が「ADVゲームの謎解き」になる。

各単元ごとにポイントが設定されていて規定のポイントを獲得すれば「マスター」の称号を得ることができる、とやれば「ABC評価の成績表」が「RPGのレベルアップ」になる。

勉強すること自体が内発的報酬になっている。こんな学校なら勉強がさぞ楽しいことだろう。

我が家でもやってみよう

ためしに、この方法論を我が家でも取り入れてみた。例えば、片付けだ。子供は散らかすことは得意だが片付けることは本当に苦手だ。

いつもなら「はやく片付けろ!」と言うところを「散らかしドラゴンがやってきた! 制限時間内に散らかしドラゴンを退治しろ(片付けをしよう)! 成功したら経験値500ポイント獲得だ!」とやると魔法がかかったみたいに片付けに取りかかった(笑)。

これはなかなかいいシステムを手に入れたぞ。他のことにも応用してみようと思う。


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