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『チェルノブイリ』はホラー映画

これはやばい。マジで怖い。いままでこんなに怖いホラー映画観たことない。

チェルノブイリ原発事故を描いた今作はネット界隈ですごい話題になっていたので観たかったんだけど、スターチャンネルでしか配信されてなかったため自分は観ることができなかった。やっとパッケージ化されたのでさっそく鑑賞。

この作品は、実際の事故現場の「近く」でロケを行ったり、発電所のセットから小物類にいたるまで当時のソ連を忠実に再現している、と話題だった。だがしかし、なぜか登場人物たちがみんな英語で話してる。おお、ファンタジー。アメリカ制作なので仕方ないがちょっと残念。なので自分は日本語吹き替えで鑑賞することでこの違和感を誤魔化すことにした。全5話。

この先、若干ネタバレあり。

人間が怖い

とにかくもう最初から怖い。なにが怖いってブラック企業の上司みたいな糞野郎に命令され「被爆→死亡」みたいなことが次々と起きる。

部下「爆発してもう炉心はないです!」
上司「お前はバカか。そんなことあり得ない。お前の勘違いだ。もう一度見てこい」

こんな感じで作業員たちは重度被爆をしていく。さらになにも知らないまま原発の消火活動にあたっていた消防員らも被爆。「4,000,000回レントゲン写真を撮ったのと同じ量の被曝」という台詞が出てきて頭がクラクラした。

現場の糞上司は部下を恫喝する反面、原発の所長には媚びへつらう。胸糞悪い。さらにその所長も地域の重鎮たちには愛想笑いでご機嫌を取る、というバカの連鎖。状況を精査せず情報を隠蔽し、その結果「死の灰」が近隣の団地の住民たちに降り注ぐ。死んでいくのはいつも下層の人々だ。

腐敗。末期のソ連は国全体が腐っていて悪臭を放っていた。でもちょっと待て。これってどっかで見たことないか? この状況、いまの日本に似てないか? そう見えてしまうこと自体が非常に怖いことじゃないか? それにこの国でも原発事故があったじゃないか。他人事ではない。

この糞野郎上司は、最後の裁判でも責任を死んだ部下たちになすりつけたりする。ドラマの演出かもしれないが、本当にこんな人間のせいで大勢が死んだのか、と思わずにはいられない。こんなの避けようがないじゃないか。本当に人間が怖い。

「見せつけてくる」映像

事故処理のために、気の弱そうな根っからの科学者レガソフと、剛腕で傲慢な政治家シチェルビナがやってくるのだけど、バディー物の王道で二人とも互いの第一印象が最悪なところからスタートする。しかし史上最悪に凄惨な状況が二人を否応なしに協働させる。

信じられないことだが、チェルノブイリ原発の事故処理は人海戦術で対処していた。たとえば、高い放射線を出している黒鉛を処理しなければならないとする。遠隔ロボットも放射線で壊れるほどの場所だ。どうするのかというと、人間がやるのだ。一回の作業時間は90秒。90秒交代で次々と作業していく。防護服を着ているとはいえ生身の人間だ。作業員たちの被爆は避けられない。一事が万事そんな感じだ。

そしてそんな緊迫したシーンをカット割り無しでじっくりと見せつけてくる。観ているこっちが圧迫感で苦しくなるほど見せつけてくる。

今作は全体としても「パッパッパッ」とテンポよく展開していく最近よくあるタイプの見せ方ではなく、ひとつひとつのエピソードをじっくりと見せてくる。それが、重さとなり、怖さとなる。

レガソフとシチェルビナは放射能や事故処理と戦いながらも、メンツや体裁ばかりを気にする政府上層部や監視の目を向けてくるKGBとも戦わなければならなかった。理不尽のオンパレードのなか、二人は文字通り命を削りながら戦友になっていく。

すべてが終わったときレガソフとシチェルビナの体は放射能に蝕まれ余命数年ほどになっていた。

アンビエント

あと個人的に印象的だったのが、作中やエンドロールなどで流れるアンビエント・ミュージックだ。はじめはとても怖い印象を受けた。しかし何回も聴いていくうちに心地よくなってくる。

すこし調べたら映画『ジョーカー』でアカデミー作曲賞とってた。今度ちゃんと聴いてみよう。

いまもまだ終わっていない

事故が起きたチェルノブイリ原発第4号炉を覆っていた石棺は老朽化がすすみ、2017年に新たな石棺で再度覆われたそうです。今後100年はもつとのこと。



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