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おきまどわせる白菊の花

心あてに折らばや折らむ
初霜のおきまどはせる白菊の花

拙訳:
「朝、手に息を吹きかけながら縁側へ出てみると、庭の白菊の上に初霜が降りている。寒いわけだ。
白い霜と白い菊とが合わさって、どれが花なのやら。摘もうにも、あてずっぽうに折るしかないな、これは」

朝の凛とした寒気(かんき)と白菊の可憐な白、誰も触れていない初霜の真っさらな白を合わせ、清らかな美を詠んだ歌だ。末尾に「白菊の花」を置いたことで徐々に焦点が絞られ、「高潔な白」の接写でクライマックスを迎える。

思うに、花の上に降りるものは、初霜だけではない。私は「初霜」をいろいろなものに詠みかえて、四季折々、この歌を思い起こす。

今朝、あたらしい白菊を買った。
仏前に菊を手向ける理由はさまざまだが、その中でも「長く瑞々しい菊の花は健康長寿を司る」というのが好きだ。
降り注いだ思い出や涙で、すこし花が霞む。そしてまた祈りを重ね、積もらせる。どうか生きている人々が、逝ってしまった人が、健やかで生きられますように。

歌 ──凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)生没不明[古今集 秋下 277、百人一首 29]

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