ほしいものはなんでもかいなさい

古ぼけた ちいさなアパートに 男は住んでいた
さむい冬の夜 夕食の準備をする

ちいさなカップラーメンにお湯をそそいで………….
今日の夕食はこれだけ。きのうもその前もそうだった。

男には多額の返済しなければならない債務がある為
じぶん自身が自由に使える額は ほんのわずかだった

男がちいさい時、彼は広大な土地を所有する大豪邸に住んでいた
一族は国家予算ほどの莫大な富と財産を所有しており
男は必要以上に恵まれていた

彼の父親はじぶんの息子を溺愛していた
とにかく 何不自由なく 育ってほしいと思い
息子が望むものは なんでも買い与えた

パパ、くるまのふぇらーりがほしいなー とくべつしようのやつで
おねだん たったの ¥ごじゅうおくえんだってー


そうか 仕方がないな 買いなさい


パパ くるまのぽるしぇがほしいなー とくべつしようのやつで
おねだん たったの ¥はちじゅうおくえんだってー


つい この前 フェラーリを買ったばかりじゃないか


うん でも ふぇらーり もう あきちゃった
こんどは このぽるしぇがいい


仕方がないな 買いなさい

パパ おひるは まつざかぎゅうのぎゅうどんがたべたい
よるは ほんまぐろかな? おねだん たったの¥いっせんまんえんだよ

そうか 思ったより安いな すぐに手配しよう

パパ ふぉあぐらときゃびあのかいせんどんがたべたいな
それと あしたのあさごはんはとりゅふのめだまやきがたべたい
ぜんぶでたったの¥ごひゃくまんえんだって やすすぎだよねー

そうか 食欲があるのはいいことだ すぐ 手配するよ


息子に 不自由な想いをさせたくない父親は 毎日、毎日
多額のお金を使い、ほしい物は なんでも買い与え続けた

しかし 時が過ぎるとともに 
国家予算ほどもあった富と財産は次第に減少していった

その上 父親が経営する会社も少しづつ 傾き始めていた

それでも 父親は愛する我が子のために
ほしい物は 何でも買い与え続けた

それから さらに時は流れ…………

国家予算に匹敵するほどの富と財産は
とうとう 無くなってしまった

それに父親の経営していた会社も つぶれてしまった

あとに残されたのは 
ぼうだいな額の返済しなければならない債務だった

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さむい冬の夜 古びたアパートの一室で
男は夕食の準備をしていた

いつものように カップラーメンにお湯をそそぐ

それにくわえて 
今日はおいしそうなゆでたまごがふたつもあった

男はいつも以上にゆっくり 食事を楽しみ

あしたからまたがんばって生きよう と思った

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