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書評

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誰のどの作品かを類推しながら読む書評です。
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和解の夢。

 これから紹介する作品は、おそらくその作家のみた夢が主題となっている。彼は夢の中では少 年である。 彼は、どんよりと曇った空の元、暗い田舎道を一人歩いている。吹いてくる風からは塩の香り がする。おそらくこの夜道は海沿いにある。道の左側には松原があり、右側には畑のようなもの が一面に広がっている。一時間以上歩き続けているけれども、あたりに人家らしきものは見当た らない。ただ、真っ暗な道をとぼとぼと歩いている。途中でアーク灯という当時の電灯を見つけ る。そこにたどり着いて、よう

反逆的な、あまりに反逆的な

 これから紹介する詩はあるフランス人によって書かれた暴力的な詩である。  くだらない書物に飽きた彼は酒場へ出かける。酒場へ入ろうとした時、ある一人の物乞いが彼の元へ寄ってくる。そして、帽子を差し出すのである。その時の目つきは「王位をも転覆しかねない、まことに忘れがたき」目つきだった。彼はその物乞いに襲いかかる。片目を殴り潰し、前歯を二本へし折り、生爪を剥がすのである。彼はその場所が警官の目の及ばないことを知っていた。さらに、肩甲骨が折れるほどの力で背中を蹴飛ばし、そこらに落ち

泥棒との対話。

 「あまり期待してお読みになると、私は困るのである。」  この一文から物語は始まる。何も困ることはない。傑作なのだ。もしかしたら、彼の作品の中で一番好きかもしれない。文学的にどうだとか、思想がどうだとか、詩的だとか散文的だとかそんな小難しそうな議論は必要ない。とにかく面白いのだ。では、泥棒をテーマにしたエンタメ作品か、と言われれば全くそうではない。エンタメとは非常に遠い。これは、私小説風フィクションである。しかし、本当にフィクションだろうか、と思わせる場所もあり、そこもこの作

執筆当時二十四歳。無名時代の傑作。

 「きっと、そうか。」そういって彼は現場から立ち去る。そして、この物語は終わるー。  立ち去った彼は、失業中の若者である。彼は途方に暮れていた。あたりは夕暮れ で、雨は上がりそうもない。周囲には誰もいない。ただ、ぼんやりと雨の音が聞こ えるだけである。大不況と災害によって人生が立ち行かなくなった彼は、良心との 対決を一人行っていたのだった。  この物語は、非常に短い。しかし、だからといって軽い内容ではない。極めて濃 密で、一種のリズムがある。濃密さとリズム、それはどこからくる