4 心術下 51

 人倫に交わり、萬事を行うに、心平かに、気和して、寧なるべし。
寧ならざれば、気、躁しく荒くして、道理明かならず。
道を行うこと難し。
故に、まづ、心気を治め、和平にして静かなるべし。
血気盛んなる時は、気逆上りて、心も共に定まらず。
例えば、気の上る病あれば、心気、収まらず、酒に酔いたる時は、気上りて心乱れる。
家を新たに作りて、棟木・杈首・梁・柱など、いまだ落ち着かざる時、大風に遭えば、倒れ易し。
材木、折り合いて後は、大風吹きても、倒れがたし。
人も血気治まざれば、人に対するにも、心定かならず。
浮気にて落ち着かざれば、言も行いも、理に當らず。
戦場にて、敵と戦うにも、気上りて心静かならざれば、動き騒ぎて、敵に勝ちがたく、退き易し。
文字を書くにも、字毎に、其の所に落ち着きて、豊かに見えるは、能書なり。
文字、落ち着かざるは、悪筆なり。
萬の事、皆、気の下に降り合いて、静かなる時ならでは、道理に適いがたし。

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