3 心術上 36

 尚書に曰く、必有忍、其乃有済、有容、徳乃大。
忍ぶとは、堪忍するなり。
堪忍すれば、怒りを抑え、事を破らずして、禍なし。
人我の間、和平にして、萬事調う。
故に、有済と云う。
古語に、忍過ぎて、事堪喜といえり。
堪忍し済ませば、必ず、喜びありとなり。
人の悪しきを堪忍せざれば、怒り起り、人に争いて、人我の間和順ならず。
世に立ちがたし。
堪忍すれば、争い出来ず、口論にも及ばずして、恥辱なし。
心中平かにして楽しみ多し。
有容とは、心廣くして、人の善をば取りて用い、人の過ちあるをば宥すを云う。
容れることあれば、其の徳の器大なり。
たとえば大なる器の、其の量ひろければ、物を入れること多きが如し。
古人の詩に、海濶徒魚躍天空任鳥飛といえるが如し。
忍は力を用いて堪えるなり。
容は、其の徳ひろくして大なれば、忍ぶはいうに及ばず、まづ、務めて忍びて、其の工夫熟して後、有容にいたるべし。
忍は、生しきなり。
有容は、熟するなり。
されど、はじめより、容の工夫もあるべし。
人の善を取り、人の過ちを宥すこと、はじめよりなくんばあるべからず。

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