4 心術下 54

 天命は、天の降す所、人の受ける所なり。
命は、猶、令の如しとて、下知の意なり。
天より下だる故に、天命という。
天命に、常あり変あり。
善を行えば福あり。
悪をすれば禍あるは常なり。
善人に禍あり、悪人に福あるは、変なり。
人の吉凶、禍福、寿夭、富貴、貧賤、萬の幸不幸、皆、天の命ずるところなり。
人間の萬事、天命にあらざる事なし、或いは、生まれつきて定まり、或いは、時により、不慮に命下りて、偶然として、福に遭い、禍に遭う。
求めても、命無ければ得難く、求めざれとも、命あれば得易し。
只、人の法を行いて、天命を待つべし。
善を行いて、福来るは、常の理なれども、もし、禍あるは、是れ亦、天命の変なれば、憂うべからず。
およそ、人、天命を知りて、命に任せ、憂い無き工夫をなすべし。
天命を知らざれば、命の定りありて、福の求め難く、禍の去り難きことを知らず。
利に就き、害を避けんとし、人に諂い、神に諂うは見苦し、愚かなりと云うべし。
故に論語に、命を知不を以、君子と為は無也、と云り。

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