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初学訓 巻之四


 名利の二は、衆人の好む所なり。
されども、打ちまかせて好めば、道に背き、却て、身の禍となる。
身に才学あり、徳行あるは、わが身の寳なり。
是れを以て、わが名を貪り、人に褒められん事を好むべからず。
名を好めば實を失い、自ら誉めて、却て名を失う。
人は、只、眞を努むべし。
誠だにあれば、名は、求めざれども、自ら来る。
故に、名は實の賓と、古人もいえり。
名を好めば、みづから誉む。
いやしむべし。
利とは、財寶利禄なり。
勤むべき家業をよく勤め行えば、利は、求めずして、自ら来る。
こなたより求むべからず。
利を求むれば、必ず、害あり。
おそるべし。
實を努めずして、名と利を好むは、鄙狹なり。
いやしむべし。


 文学を好みて、義理を好まざるを、俗学という。
たとえ、四書五經を専らに讀み、其の文義に通じ、程朱の学をするとも、義理を好まざるは、俗学なり。
いやしむべし。


 國土に四民あり。
士農工商なり。
四民、皆、義理を行う事は一にして、利養を求むることわざ、各々かわれり。
義理を行うとは、即ち、人倫の道を行うをいう。
是れ、四民ともに同じ。
利養は、世を渡る営みなり。
是れ、四民各々かわれり。


 士は、王公大人より下士に至るまでを云う。
古、士を立てし本意は、農工商を治め養わしめん為なり。
民に養われん為には非らず。
凡そ、土地を多く領する人は、我が身ひとりに私せず、倹約にして、奢と私欲なく、民を養うを以て心とすれば、其の家長く久しく、財寳満ち満ちて、身の利養豊かなり。
古、からやまとの賢君、身に倹約を行い、奢り費えをなしたまわざりし故に、たびたび、民の貢ぎ物を許し給えども、後には、倉に寳満ち満ちて、米腐り、銭縄朽ちて断れたりとかや。
又、公卿より下つかた、士、庶人に至るまで、身を修めて、君によく仕えれば、君の養いを得、財禄を保ちて、利養は求めずして、自ら其の中にあり。
しかれば、士たる人は、その官職を専ら勤めて、利養は求むべからず。


 凡そ、士は、萬民を養い助けん為の官なり。
昔より、其の為に、其の職分を立てたれば、士たる人は、民を憐み惠む志忘るべからず。
凡そ、道に志ありて、義を好み、心直にして情け深く、偽り無くて謹あるは、良士なり。


 農は、田を作る民なり。
是れ、人を養う物なれば、四民の本なり。
隙ある時を以て、わづかに使い、暇あらしめて、耕作を専らに勤めしむべし。
農人は、天の時に従いて、春夏秋冬の勤め怠るべからず。
又、地の利によりて、其の土に宜しき五穀を種えれば、田畠のなりわいよし。
其の上、倹約にして、財を妄りに用いざれば、財多くして、公に貢をそなえ、父母妻子を養うに乏しからず。
又、身を愼しみ、法度を犯さず、公役におこたらず、私用を後にし、土貢をはやく納めれば、罪咎なくして、父母のうれいなく、其の心も亦安楽なり。
是れ、良農なり。
かようの良農あれば、萬民の手本となる。


 工は、器物を作る諸職人なり。
各々の職をつとめ、器物を、ねんごろによく作り、粗悪ならざれば、求め買う人多く、利を得ること多し。
是れ、良工なり。


 商は、利を軽く取りて、多く貪らず、偽り無く、人を欺かざれば、人是れをうたがわずして、頼もしげありて、其のことばを信じ、其の商物を多く買う。
故に、商物ひろく売れて、利を得ること多く、富を得ること易し。
是れ、良賈なり。


 凡そ、農工商の三民は、君に仕えずして、禄なし。
自ら利養を求るを専らとす。
されど、義理を捨てて、利養を求るは、天道に背き、人事を妨げて、たとえ、一旦の利を得るといえど、必ず、天の咎め人の憎み有りて、後の禍に遭う。
愚なる者は、眼前の利をのみ量りて、後の禍を知らず。
不善を行いて、利を貪ること小なれば、財を失う。
甚だしければ、家を破り身を滅す。
天の責め人の憎み遁れがたし、愚なるにあらずや。


 誠は、天の道なり。
之を誠にするは、人の道なり。
四時行われ、百物生る。
善に幸いし、悪に禍す。
是れ、天道の誠なり。
古今たがわず。
人の道は、これを則として、つとめて誠にするにあり。
ここを以て、人の心は、誠を主とす。
誠あらざれば物なし。
君父によく仕え、いかなる善を行いても、誠なければ、なすこと皆僻事なり。
是れを物なしという。
つとめて善を行うも、誠なければ、自ら欺き、人を欺くに至る。
惜むべし。
欺くとは、偽るなり。
故に、萬の事、誠を本とすべし。
孔子の忠信を主とす、とのたまうも、此の意なり。
忠信は、誠の心なり。

十一
 敬とは、畏れる意なり。
常に心を小にし、畏れ誡めて、恣にせず、人を敬いて侮らず、事に臨めば、心を専一にして、他に心をうつさず、一すぢに念を入れて、疎かならざるを云う。
されど、又、其の事より、重き事あらば、前の事を差し置きて、重く急なる事を為すべし。
凡そ、愼しめば身修り、愼しまざれば乱れる。
萬の事、愼しめば行なわれ、愼しまざればすたる。
愼しめば、禍なく、病なく、命ながし。
愼しまざれば、禍でき、病おこり、命みじかし。
安楽なる時も、必ず、愼しむべし。
愼しめば、後の禍なく、後悔なし。
凡そ、毎事後悔なからん事を思うべし。
後悔なき道は、敬にあり。
敬は、古の聖賢の心法なり。
萬善是れより行わる。
是れ、心のまもり、萬事の根本なり。
人生の、必ず、勤め行うべき事なり。
白楽天が詩に、禍と福とは愼むと、愼まざるにありといえり。

十二
 勤めは、萬事の立ちて行われる所なり。
勤めざれば、怠りて、何事も廃る。
五倫の道も、勤めにあらざれば行われず。
中につきて、忠孝の道をつとむるは、人道の大節なり。
四民ともに、夙に早く起き、夜に遅く寝ねて、其の家業をよく勤めれば、各々其の業おさまる。
士は、君に仕えて、身を省みず、私なくして、誠を務むべし、此の如くなれば、禄は求めずして、其の中にあり。
農工商は、家の業をよく勤め愼しみて、偽りなければ、財を得て貧しからず。
古語に、人生は勤めにあり。
つとむれば、則ち、匱しからずと言えるが如し。

十三
 天の道は、動きてやまず。
一日に周く天をめぐる。
人の勤めは、天道を則とす。
ここを以て、君子は勤めて怠らず、地の道は、静かにして動かず。
人も亦これに則りて、愼みて静かにして、妄りに動かず。
是れ、人の敬は、地の道を則とするなり。

十四
 古語に、勤は貧に勝ち、愼は禍に勝つといえり。
いう意は、勤むれば貧しからず、愼めば禍なしとなり。
人世は、勤愼の二にて立てり。
四民ともに、勤と愼とを、しばしも忘るべからず。
是れ、道を行う工夫なり。
且つ又、貧と禍とを逃れる道なれば、是れ亦、人身の至寶なり。
其の上に、倹約を加え、此の三徳を以て、家を保つべし。

十五
 倹約に二義あり。
倹約の二字を、つづまやかにすと讀む。
取り廣げずして、約め行うなり。
一には、身の行を約にして、恣ならざれば、過ち少なし。
二には、財を用いるに約にして、身の養に、おごりと飾なく、無益の事に財を費さざるをいう。
行いを恣にせざるは、身を保つ工夫なり。
財を濫りに用いざるは、家を保つ工夫なり。
此の二を倹約という。
心を恣にして、約にせざれば、過ち多くして禍あり。
財は限りあるものなり。
富める人も財を濫りに用いて、倹約ならざれば、財つき、家乏しくなりて、父母を養い、人に施し、禮義を行い、職分を勤める事ならず。
後は、人の財を貪りて、人の累となり、はては、わが家を破る。
それ、倹約は、わが身の俸養をかるくするなり。
善徳なり。
財を惜しみて、人に施さざるは吝嗇という。
しわきことなり。
しわきは、仁義の道に背きて悪事なり。
愚なる人は、倹約と吝嗇との分ちを知らずして、倹約をも、吝嗇なりとて、譏り笑う。
又、吝嗇にして、自ら倹約なりと思い誤る人あり。
二ながら非なり。
古の聖賢、いづれも倹約ならざるはなし。
是れ、善徳なり。
倹約なれば俗人そしる。
俗人の譏りを顧みず、つとめ行うべし。
俗人の譏りを顧みおそれては、倹約は行われず。
されども、せわしく鄙細なるは、倹約にあらず。
人に對して寛恕なるべし。

十六
 家を保つ道を失いて、倹約を行わず、おごりて財を濫に費やし、財たらざる故、人に借りて、其の利息多く出で、わが家乏しくなりて、自ら養い、家人を養う事難く、器物をととのえ備え、人に施す事ならず。
人の財を借りて返さず、人の物を買いて償わず、自ら苦しみ、人を悩ます、大なる悪事となる。
かねて早く誡め愼むべし。

十七
 忍という事、亦善行なり。
忍とは、こらえるなり。
堪忍するをいう。
忍に二事あり。
一には、わが心に嫌う事を堪えて忿らず、又、一には、わが心に好む物を堪えて貪らず。
是れ、忿りと慾との二を堪えるなり。
忿を忍は、人のしわざ、吾が心に合わざるを堪えるなり、忿は、わが心を亂し、人を妨ぐ。
心は、萬事の本なり。
忿りて心亂れては、言う事と行う事、道理に叶わず。
忿る時、先づ、物を言うべからず。
忿る時物言えば、必ず誤る。
是れ、忿りを忍ぶ一の手立なり。
もし、言わずして叶わざる事ありとも、言に忿りを顕わすべからず。
たとえ、心の内に忿り釋けずとも、言に出さずして、忿りやみ、本心にかえるまで、堪えぬれば、大なる誤りなし。
慾を堪えるは、酒食好色など、およそ、わが心に合いてすき好める、耳目口體の慾、財寶器物の慾、皆堪えて、恣に貪らざるなり。
忿と慾との二を堪えざれば、義理に背き、心を亂し、病を生じ、財を費やし、恥辱をとり、命を失う。
其の害大なり。
凡そ、身の禍は、忿慾を堪えざるるより起る。
しばしの間、忿を堪えずして身を忘れば、父母を憂いしむ。
不孝、是れより大なるはなし。
しばらく堪忍すれば、禍なくして喜びあり。
古人の詩にも、忍事過ぎて喜ぶに堪えたり、といえり。
堪忍しすまして後は、喜びありという意なり。
しばし堪忍せざれば、莫大の禍となる。
程子も、貪慾を忍ぶと忍ばざると、便ち徳有り徳無しを見る、といえり。

十八
 富貴の人は、其の力に随いて、廣く人を恵み助けるべし、人生の楽しみは、人の苦しみを救いて、人を楽しましむる事にあり。
貧窮にして、人を助ける力なくとも、善をする志だにあらば、其の功あるべし。
人に善を勧め、悪を止めさせ、人の害を除き、人の心を和げるは、必ず、財を用いずとも行わる。
もし、余財あらば、無用の費えをせずして、人の艱難を救うべし。
財を惜むべからず。
程子の、財を惜みては、善を行う事なり難し、といえるもまことに然り。
財寶は、多けれど、惜みて、人を救わざるは、不仁の人なり。
善を行うこと難し。

十九
 道に志あらん人は、常に、仁を以て心に保ちて、毎日人に利益ある善事をなすべし。
善を行うは、必ず財を用いる事の多少によらず。
ただ、人の難儀を救えば、其の功大なり。
財を多く費しても、益なき事に用いれば、人の助けとならず。
およそ、善を行いて、人を救う事、上は王公より、下は乞丐に至るまで、行われずという事なし。
善を行うべき時に當て、心を盡すべし。
貧賤なる人も、仁に志て行えば、其の身に應じ、日々、人に利益ある事多し。
飢えたるものに一飯を与え、渇けるものに湯水を与え、道路に茨梖殼、はりある物、かどある石、人の足を害う物を取り棄て、溝の内なるふみ石を、一二置き換え、小なる溝に小橋をかける程の事は、いかなる貧之の人もすべき事なり。
是れ亦、人に益ある善行なり。
況や、富貴の人、其の志あれば、人を救う事弘く、其の功大なり。
高きも賤しきも、怠りなく、久しく行えば、善を積む事限りなし。
豈、楽まざるべきや。

二十
 すべて、世俗は、耳目口腹の慾を恣にするを楽しみとす。
然らざれば、大富貴を得てもかいなしという。
是れ、まことに小人の心なり。
其の志むげに卑しむべし。
かかるいやしき楽しみを志とし、酒食色慾を恣にする人は、必ず、財つきて、貧窮に苦しみ、人を妨げ、恥辱をとりて、名を失い、元気衰え、病生じて、命を失う。
況や、禍となり、富貴を失う。
悲しむべし。
何ぞ楽しみとすべきや。
道を行い、人を救い、分を安んじ、理に従うほどの楽しみ、此の世の中に、何かあるべきや。
尊き卑き、只、是れを以て楽しみとすべし。
道を行い人を救うを楽しみとせずして、あだなる世俗の楽しみを願うは、大富貴を得たりとも、誠に不幸なる人というべし。
富貴の人は、ことさら、身の慾を愼み恣にせず、貧困なる者を憐み施す事を楽しむべし。
耳目口腹の慾を恣にすれば、道に背きて、楽しみを失い、却って、禍となる。
大富貴の人といえども、財を費やし盡して、困窮の憂い遁れ難し。
況や、慾を恣にすれば、名を汚し、財禄と官位を失い、病を生じ、身を苦しめて、命を失う。
禍、是れより大なるはなし。

二十一
 暇ある時は、月花をめで、風景を感じ、山水を望み、園に遊び、詩歌を吟ずるも、よき程に好めば、道に害なし。
是れ亦、風雅なる君子の楽しみなり。
古人、名教の内におのずから、楽地ありといえるは、聖人の道の教えの内に、世俗の楽しみにあらずして、至れる楽しみあるをいう。
私欲の楽しみを好めば、かえって、身の禍となる、恐るべし。
好むべからず。

二十二
 凡そ、人を知る事は、至りて難し。
人の心は、隠れて見えず。
わが知闇ければ、人の善悪を知り難し。
其の上、私あれば、人を好み悪むこと、公直ならずして、善人を悪み、悪人を好む。
人の善悪を知らず、我が心にかなえりとて、善人とすべからず。
其の人の善悪を擇ぶべし。
君子は、友とする人も、召使う人も、つとめて其の人を擇ぶ。
もし、わが心にかなえりとて、擇ばずして、悪しき人を友とし臣として近づければ、其の人に引きそこなわれ、莫大の禍となる事、和漢古今ためし多し。
能く能く人を擇ぶべし。
人を擇ばざれば、大なる禍あり。
愼むべし。

二十三
 才智あり、忠信ありて、私少なく、愼み有りて、事をよく勤める人は、才徳備われる人なれば、今の世に有り難し。
才少し鈍く、物言い振舞い、わが心に少しかなわずとも、心愚ならず、忠實にて裏表なく、邪ならざる人を、好んで用ゆべし。
才鈍き人も、愚ならざれば、世になれ、久しく事に携われば、かえりて、よき程になり、要用にかなう。
辯舌利口にして、立居振舞い快く、人の心によくかなえる者、多くは、其の心偽りかたましく、後ろめたき事多し。
信じ難し。
かようの人を用いれば、必ず、禍となり、家を破る。
たとえ、家を覆すに至らざれども、目に見えぬ所に、大なる災いあり。
甚だ恐るべし。

二十四
 友とする人は、尤も擇ぶべし。
智ありて、わが悪しきを正し、善を進める、忠直なる頼しき人あらば、親しみて友とすべし。
直ならず柔らかにして、わが心にかなえる人は、益なし。

二十五
 わが子弟など、年わかき者の、友だちの交り、尤も早く擇ぶべし。
友なう人に移り易き事、古人、麪に油の染まり易きに譬える。
若き人の善悪は、皆、其の友による。
公儀の法を畏れず、親の命を聴かず、酒色と淫楽博奕を好み、わが身の恥を知らず、わが家の業を勤めざる者を、名づけて、無頼の人という。
年わかき子弟を無頼の人に、一日も、交らしむべからず。
必ず、ひき害われ、悪におち入り易し。
一たび、かかる悪友に習えば、善き方え立ちかえり難し。
恐るべし。

二十六
 善を好み、悪を嫌う事の誠なるは、誠意のことなり。
是れ、人の行いの第一のつとめにて、行いの初なり。
善を好む事は、よき色の如く、悪を嫌う事は、悪しき臭いの如くすべし。
是れ、善を好み悪を嫌うこと誠あるなり。
もし、善と知れども、實に好まずして行わず、悪と知れども、實に嫌わずして去らざる、之を自ら欺くという。
自ら欺くとは、善を好み悪を嫌う事、眞實ならざるをいう。
自ら欺くことを誡めて、好悪の二に眞實にして、偽りなかるべし。
是れ、第一の心法なり。

二十七
 凡そ、好む事、嫌う事を、早く擇ぶべし。
一たび、悪しき事を好めば、相つづき、心の癖となる。
善き事も悪しき事も、好めば、後は、習いとなりて、天性の如し。
すでに、悪しき事に久しく染みぬれば、其の僻事を知れども、止め難し。
はじめに擇びて、早く改むべし。
古語に、差う事、若し毫釐なれば、謬るに千里を以てす、といえり。

二十八
 官禄は、我より下なる人を見て、わが身を安んじ楽しむべし。
上なる人を羨むべからず。
官禄の富貴と貧賤とは、天命にして生れつきたる分限あり。
求めがたし。
才徳は、我より上なる人を見て、彼を羨みつとむべし。
才徳も生れつきたれども、善に遷り過ちを改めて、求めて得る道理あり。
人の性本は、善なれば、学問し力め行わば、などかよき道に遷らざらん。

二十九
 人を知るは、至りて難けれど、己を知るは、人を知るより猶、難しといえり。
故に、古人も、知人謂之知、自知謂之明といえり。
明は、知より勝れり。
人の心は、隠れて、表より見えず。
故に、知り難き事、宜なり。
わが心は、内にありて、自ら知り易かるべくして、却って、知り難きは、何ぞや。
わが身には私ありて、己を贔屓して恕す故に、悪しき事も、善しと思うなり。
人、其の子の悪しきを知る事なし、と、古語にいえるが如し。
明鏡も、その裏を照さず、われに智ありと思えど、片つ方には、闇き所ありて、過悪あるをも知らざる事あるべし。
能く省み、又、人の諫めを聴き、わが過ちと悪とを知りて改むべし。
われを知らざるは、愚なりというべし。
外事を差し置きて、先づ、我が悪しき事を早く知りて、改むべし。

三十
 人の不善ありとも、怒りて強く悪み責むべからず。
わが不善を知れば、強く責め治むべし。
強く人を責めざれば、人の恨なし。
わが不善を強く責めれば、わが身に益あり。
己をゆるして、人を責めるは、大なる僻事なり、人の恨ありて、わが身に益なし。

三十一
 凡そ、人となりて、君のため父のため助けとならず、世間の用をなさずして、天地の道に少しの補いなく、人を憐む徳もなく、人を救う功もなくして、天地の物を害い費すは、禽獣草木の、民用を助けるにも如かず、と古人いえり。
わが輩の世にある事、此の如し。
みづから恥づべし。
天道おそるべし。

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