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ネコが連れてきた高所ドア

散歩

散歩中に野良ネコを見かけるとついちょっかいをかけたくなりませんか?
「こんにちは」
「・・・」
「今日も寒いね」
「・・・」
「その毛並み、親譲り?」
「ニャー(逃走)」

自前の毛並みだったのかもしれません。

野良ネコ写真集(4枚目はうさぎに見えるレジ袋)

特にここ一年は大きな旅行には行けなかったため、生活圏を散歩して野良ネコを探す機会が増えました。

ある日

これはいつも通りの冬のある日、東北大学付近を歩いているときのことでした。

ネコだ!!!!!!!

フェンスを一枚隔てた先で会う野良ネコ。
さながら愛を阻む面会室。
近づきたいけど近づけないもどかしさ。
距離を詰めたい下心に駆られます。

座った!!!!!!!!!!!!!!!!!
こちらに気づいて座りました!
触れ合いチャンスが来るかもしれないですよ奥さん。

そしてここまで急接近。もうほぼ握手会だ〜こりゃ。

後ろ姿もでっぷりしていて本当にたまらない。

お仲間の黒ネコと合流したところでお別れ。
(東北大学 片平キャンパス近辺にて)

それにしてもむっくりしててかわいい野良猫でした。

キャンパスに住み着いているのかな。

そんな、とても平和な一日。

しかし、何気なく写真を見返したときに違和感は訪れます。

ん?

んんんん?

えっ(フレームアウトネコ)

ドアが二階にある!?

どう考えても出入り不可能な高所にドアがある。

これが噂に聞く超芸術トマソンなのでしょうか。

超芸術トマソン
かつては何かしらの実用性を兼ね備えていたはずが、その効力を失ってしまった建物や、建物の一部のこと。実用性においては全く役に立たないが、その存在が芸術らしいものを指す。

ここまで立派な超芸術トマソンを見たのは初めて。

建物の名前は「旧第二高等中学校物理学教室」(以下:物理学教室)とHPに記載がありました。

物理の落第者は二階から落とされるとかあるのかな。

あの高所ドアの仕組み、どうなってるか気になります。

仮説

仮説を立てていこうと思います。(in Minecraft)

これは外観を再現した建物。
考えうる可能性を模索しましょう。

1.梯子説

あのドアまでが梯子の場合。
老朽化で梯子が崩れてしまったのかもしれない。

でもこのパターンはありえなさそう。

・梯子を登って扉を開けるという難易度の高さ
・授業のたびに梯子を登らなければいけない
・スカートの中が覗き放題になる

大問題だらけ

旧二高の男子の間で一番人気の授業は物理だったに違いない。

2.階段説

これかなりありえると思いません?

老朽化で階段が崩れたけどそのまんま、みたいな。
にしても一階にドアを作らない理由がわからない。
裏にあるのかな。

さらに疑問なのは、

ここの作りが全部一緒なんですよね。
窓とドアの区別がないように見えます。
ドアだけ後からはめ込んだような。
階段が設置されていた跡がないことも不自然。 

突風などにより破壊された窓をドアで修復した可能性もでてきました。

考えれば考えるほど謎は深まる一方。
思い切って、この建物がある"東北大学"に連絡を取ることにしました。

・・・

結果、少しのやりとりを経て取材する機会をいただくことができました。
部外者の取材を受けてくださる懐の深さに感謝です。

取材

きんちょ〜〜〜〜〜。
(ペットボトルの蓋を閉めないまま走ったら水が飛んだ)

荘厳な雰囲気の東北大学資料館で僕を迎えてくださったのはK准教授。
お忙しい中、時間を割いていただき、名刺まで頂戴しました。

(僕が持っている名刺はさすがに渡せないな・・・)

なんてことはさておき。

みたらし:本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

K准教授:よろしくお願いします。

軽い自己紹介を済ませた後、本題に。
特に知りたいのはこの二つ。
・旧二高教室の歴史
・旧二高教室の二階にある出入り不可能なドアの秘密

これらについてお伺いしたいと、事前にメールでお伝えしていました。

K准教授:あの建物(物理学教室)はもともとあそこにあったわけではないんですよ。

みたらし:!

K准教授:これが、大正末期の旧二高の図面です。(図面のコピーを提示)
校舎自体は明治時代からあって。

みたらし:(明治からある建物なのか・・・)

K准教授:昭和末期になると旧二高は廃止され、校舎部分は解体されてしまったんですね。

K准教授:もともとこの東北大学・片平キャンパスっていうのはいくつかの学校が集まっているようなキャンパス群でして、その中に旧制第二高等学校という学校も含まれていました。(図のエリア)

K准教授:佐藤さんがご覧になった白い建物(物理学教室)というのは、もともとの場所で言うとここら辺にあったんです。

K准教授:ですが東北大学が拡大していくにあたって、旧二高は外に出ていくことになります。

K准教授:東北大学のやりかたは二種類あって

みたらし:(ふむふむ)

K准教授:1、既存の建物をそのまま使い続ける。2、建物は全部ぶっこわして新しく作り直す。この二つなんですけど。

K准教授:どういうわけか、物理学教室だけ3つ目のパターンなんですよ。移築や移設して使い続けるっていうパターンなんです。

みたらし:それで現在ある側に移転した、と。

K准教授:物理学の教室自体の図面はもう失われていて、我々に残っているのは「科学教室」だけなんですけど。

みたらし:(いよいよ種明かしの時間っぽい)

K准教授:スロープがついていて、上から入っていくという建物の形式になっているんですよ。

科学教室の図面ではドアの位置が左にずれていました

K准教授:内装が、階段状になっていて黒板が下にあるという階段教室の形式になっているんです。物理学教室も同じ仕組みです。

みたらし:はぁ〜〜〜〜〜なるほど。だからドアが高いところにあるんですね。

K准教授:そうです。なんですけど、移築する際に、内装の階段教室の形状を取っ払ってしまって、二階建ての建物に改造しちゃったんです。

みたらし:なるほど!

K准教授:なのでこれは、もともと一階平屋の建物なんです。入口が階段で登っていく、高いところから入る構造になっていたものが、移築したときに二階建て式の建物に改築された。
そして階段も撤去されて、二階のドアがかつての意匠として残った、っていうのが結果論です。

みたらし:……すごいですね。パッと見、スロープや階段があったようには見えないです。ドアだけ浮いてるような状態で。

K准教授:見えないですよね。竣工当時は白塗りだったんですが、色が完全に剥げ落ちてシルバーグレーになってしまったんです。なので2010年代に塗り直して、今みたいな見た目になったんです。

みたらし:塗り直すとき、「なんでここにドアあるんだろう。取っ払ってもいいんじゃないかな」って話になったりしなかったのでしょうか。

K准教授:あの建物は東北大学で最古の建物なので、重要な文化財としてできるだけ、そのままの形で保存したいということになりました。内装はもうぜんぜん、面影ないんですけどね。

みたらし:ガワだけが残っているような状態だと。

K准教授:そうですそうです、ドアも嵌め殺し(開閉できない状態)になっていて、そこから行き来できるような状態ではないと思います。

みたらし:すごい、とても勉強になりました。

K准教授:片平界隈で何か気になることがあったら是非いつでも来てください。

みたらし:今日は本当にありがとうございました!

さいごに

こんなオチでした。
スロープ階段が撤去され、色も塗り直したためにドアだけが浮いた形になったということだったんです。
結果、階段説はそこそこ近かったということになります。

こういった詳しい話をしてくださった東北大学さんには感謝しかないです。

記念写真

反対側には改築時にできたドアがあった

少し不思議な建物が現存されているのって奇跡的だな〜って。
いらない建物はどんどん改築されていくのが世の常だと思うので。
「無駄」が残されている美しさがあります。

史料館を出た後、少しキャンパス内を歩き回ると、あの日のネコに再び巡り合うことができました。

ネコ、ありがとう。

東北大学片平キャンパスのマップ
'https://www.tohoku.ac.jp/japanese/profile/campus/01/katahira'

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