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なぜ感染症診断を2つに分割して認識するのか?~感染症診療の基本的な考え方~その6

今日もご訪問ありがとうございます。

本日は、現実世界から少し距離を置いて、2つの感染症診断の思考実験をしてみたいと思います。

予めお断りしておきますが、本ノート記事はあくまでも、仮想世界でのお話です。

リアルワールドでの感染症診断は大変複雑な要素が多数あるのは、皆様周知の事実かと思います。

でも、限定された世界での脳内シミュレーションは、2つの感染症診断における相互規制関係を理解するためには大変わかりやすい(都合の良い?)学習の場となるかと考えております。

そして、この重要な相互規制関係を納得していただければ、
なぜわざわざ感染症診断名を
・臓器・解剖学的診断
・微生物学的診断
の2つに意識的に分割し、認識することが必要なのかをご理解いただけるものと信じております。

それでは本題にはいります。

まずは冒頭のスライドを再掲します。

いま皆様の仮想世界には、上記の感染症しか存在しません。
・臓器・解剖学的診断は、「肺炎」と「腎盂腎炎」のどちらか
・微生物学的診断は、大腸菌と肺炎球菌のどちらか
です。

それでは、モンダイです。下記症例問題について考えてみてください。
あくまでも限定された仮想世界の中で考えることが重要です~
ではどうぞ。

提示症例は、60才女性でいろいろな炎症マーカーが上昇しているので感染症っぽいということにしておいてください。

いま先生方に想像いただいている仮想世界では、冒頭のスライド記載の感染症しか存在しない世界ですから、カンタンに100%の限定列挙で臓器・解剖学的鑑別診断をあげることが可能ですね。

臓器・解剖学的鑑別診断の限定列挙:100%
・肺炎
・腎盂腎炎

本患者さんの臓器・解剖学的感染症診断は上記2疾患のどちらかです。
では、臓器・解剖学的鑑別診断をさらに限定するためにはどうすれば良いでしょうか?

そのためには、
・病歴
・身体所見
・臨床検査
・画像診断
様々な手段を駆使して、上記肺炎もしくは腎盂腎炎に合致する所見、合致しない所見を積極的に集めて検討していけば良い~と言うわけです。

多くの症例では、丁寧し診療をすすめていけば、臓器・解剖学的感染症診断にたどり着けるものなのですが、たまに

「どこの感染症かわからない~~~」

なんてことが発生いたします。

本仮想世界の症例では、肺炎か腎盂腎炎かわからない~と言ったところでしょうか。

ではどうするか?

臓器・解剖学的診断がわからないなら、微生物学的診断から再度アプローチしてみるという方法があるのです~~~

本仮想世界では、微生物学的診断は下記2菌種に限定されているのでした~
・大腸菌:Escherichia coli
・肺炎球菌:Streptococcus pneumoniae

では下記の血液培養結果が得られたら、臓器・解剖学的鑑別診断はどうなるでしょうか?

「血液培養陽性なんだから、微生物学的鑑別診断は肺炎球菌で確定だよね~」
「でも、臓器・解剖学的診断はわからないんじゃないの????」

いえいえ~そんなことはありません!
ここでご登場いただくのが

・相互規制関係

です!

2つの感染症診断
臓器・解剖学的診断微生物学的診断には、目には見えない赤い糸で結ばれている~切っても切れない~お互いに束縛し会う関係≒相互規制関係があるのです。

臓器・解剖学的診断~微生物学的診断
両者の相互規制は極めて強いもの
です~特に市中感染症の世界では!

ですから、どちらかの診断が1つに限定されれば、もう片方の診断も自ずと限定される関係にあるんです~これが相互規制の関係です。

冒頭のスライドに戻ります~

この仮想世界には下記2つの感染症診断が存在するのでした
・臓器・解剖学的診断
 ・肺炎
 ・腎盂腎炎
・微生物学的診断
 ・大腸菌
 ・肺炎球菌
この仮想世界には、2×2=4通りの感染症診断が存在することが想像されます。

でも、臓器・解剖学的診断微生物学的診断の間には、目に見えない、しかし非常に強固な相互規制関係により
・肺炎~肺炎球菌
・腎盂腎炎~大腸菌
以外の組み合わせ~2つの感染症診断は存在し得ないのです。
もちろん、この仮想世界においては~の話ですが。

ですので、本症例の臓器・解剖学的診断は
・血液培養:肺炎球菌
⇒この仮想世界では、肺炎に臓器・解剖学的診断が限定される!
と言うわけですね。

正解:臓器・解剖学的診断:肺炎

この臓器・解剖学的診断微生物学的診断の間に存在する、相互規制関係を臨床現場に活用すると、大変有益なことが2つあります。

1つは上記症例でもお示ししたように、片方の感染症診断が確定すると、もう一方の感染症診断が相互規制関係により、可能性・選択肢が極めて限定される~という点です。

もう一つは、診断の過ち~いわゆる誤診~を回避することが可能となる~点です。

たとえば、上記症例について再度検討してみましょう。

当初本症例について、様々な所見から、先生方が腎盂腎炎である~と臓器・解剖学的診断を予想したとします。
でも、数日後、血液培養から「肺炎球菌」が検出されてきました。

「血液培養から『肺炎球菌』が陽性になったよ」
「じゃあ『肺炎球菌』が腎盂腎炎の臓器・解剖学的診断の規制にあっているかどうか検討しなくちゃね」
「教科書調べてみたら、なんか腎盂腎炎の原因菌に肺炎球菌は書いてなかったよ」
「じゃあ、腎盂腎炎って臓器・解剖学的診断が間違いだったんだね~~~肺炎なんだね」
「あやうく誤診するところだったね」

この仮想世界では、臓器・解剖学的診断は腎盂腎炎と肺炎しか存在しませんから、わかりやすかったかと想像いたします。

でも現実世界では~~~実は今の仮想世界とにたような考え方が現実世界でも可能なのが臨床感染症の世界なのです~もちろん、可能性・選択肢が沢山ありますから、ここまでカンタンではありませんが。

まだお話しておりませんが、見えない相互規制関係は
・臓器・解剖学的診断
・微生物学的診断
さらに
・抗微生物薬~感染症治療薬
の3者の間に存在していてるのです。

この感染症の相互規制関係をうまく活用すると、目の前の患者の皆様の診療がうまくいかない場合に、診療方針を立て直すことができる~診療エラーを回避できる場合があるのです!!!

これが前回(2つの感染症診断~感染症診療の基本的な考え方~その5)お話した感染症診断を2つに分割することの最大の利点となります。

ながくなりましたが、いかがでしたでしょうか?

感染症診療で重要な抽象的概念
・限定列挙
・相互規制
まずは、この考え方をぜひ日常の感染症診断に取り入れてみてください。

次回はついに感染症治療~といきたいところですが、もう少し我慢してください。引き続き診断のお話を続けてまいります。


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