#014「最高の仲間は相互依存が鍵」湘北バスケ部を勝手にストレングスファインダー分析②相互依存編
スラムダンクが不朽の名作として語り継がれているのは、間違いなく最終戦『最強・山王工業との死闘』によるものだろう。
その中でも名シーンを挙げれば枚挙にいとまがないが、「味方の頼もしさに、赤木の張り詰めていた緊張が一瞬緩み涙するシーン」にカタルシスを感じた人もいることだろう。
「このチームは最高だ」このセリフの背景には、”ずっとこんな仲間が欲しかったけど、チームメンバーに恵まれなかった”赤木の不遇さがある。
本日は、王者・山王工業を相手に死闘を演じる主将の赤木が、個性のまったく違うチームメイトの桜木、流川、三井、宮城に共通点を見出し、異なる点も受け入れ、心から理解し、最高のチームワークを感じ得た経緯を、ストレングスファインダー的側面から分析してみよう。前提情報として前回noteの”各メンバーごとの資質を勝手に分析した結果”も頭に入れておいてもらいながら閲覧してもらえると望ましい。
1.赤木と木暮が支えてきたもの
湘北バスケ部は、最初から全国大会に出場できるような戦力やチーム力があったわけではない。元は赤木という”ストイックで不器用だけど根は優しいキャプテン”と、木暮という”戦力的には物足りないけどチームの潤滑油的な副キャプテン”が中心の、どこにでもある凡庸なチームであった。そんなキャプテンと副キャプテンのストレングスファインダーTOP5の分布がこちら。(なんの確証もない、筆者の独断と偏見でつけたスコアだ)
これを見ると、自らは目標に対しストイックに突き進むが、同時に他者に求める基準も高い赤木の人物像が浮かび上がる。故に、同級生からは疎ましがられ、後輩からは恐れられていたのだろう。赤木の人間関係の潤滑な構築を後回しにした昭和スポ根的な指導方法は、ワンマン主将としての限界・問題点として見過ごせない。
そこをうまくカバーしていたのが、木暮の人間関係構築力群だ。木暮の存在ありきで、赤木の厳格で融通の利かない不器用さが緩和され、湘北バスケ部にバランスがもたらされる。ヤンキー気質のド素人で扱いづらい桜木も上手くたしなめる。グレて落ちぶれて行き場を失った三井も100%受け入れる。木暮の”調和を重んじる受容力”は並大抵ではない。そして赤木とタッグを組むことで、湘北名物”アメとムチ”ができあがる。
そんな赤木・木暮に共通するのは「全国制覇というビジョン」。未来志向によって描いたビジョンを鮮明にするため、序盤から最終戦まで何度も口にしていた。キャプテンと副キャプテンが同じ理想の未来を描けている信頼感は、チームが一眼となって突き進む原動力として機能したことだろう。
だが、この2名が率いるチームに決定的に欠けていたものがある。それは『エゴ』である。
「誰かと競って勝ちたい!」「多くの人前で高いパフォーマンスを発揮して注目されたい!」「自分の実力を向上させるため、優秀な人とだけ高め合いたい!」これらすべて、影響力資質の領域にあるエゴである。エゴは外発的な欲求。仏教的には煩悩とも表現され、持ちすぎることは推奨されない面があるにしろ、時に”己を突き動かす強大なエネルギー”になる。熱血漢だけど目標に対し妄信的で不器用な赤木と、いい人だけど実力やカリスマ性に欠ける木暮。両者には「チームを牽引する爆発的なエネルギー」が欠如していた。
2.流川と桜木の加入によりもたらされたもの
宮城と三井が戦線離脱していた春、新入生の流川と桜木が加入したことにより、このエゴの領域が増大した。
2人とも1年生ながら、自己の存在を主張し、時には互いを認め合い、切磋琢磨することで、最終的に勝つための莫大なエネルギーに変えるタイプだ。流川と桜木の2人は「静と動」で人格的にはまったく違うが、チームにエネルギーをもたらす部分や勝利への執念という共通点は、影響力資質のそれを余すことなく発揮している。時に流川は”クールな陰キャ”とも捉えられるため、「桜木は分かるけど、流川の影響力資質は違和感ある」と考える人もいるだろう。ただ、富ヶ丘中の後輩たちからも「何も言わないけど、その強気なプレーでチームを引っ張ってくれていた」と語られている通り、本質は”人の上に立ち、組織を引っ張る牽引者ポテンシャル”のある男なのである。
そのことは、山王戦で安西先生からも言語化されている。
また、時にはエゴを捨て、戦いの中で状況に応じて成長を遂げた流川の適応性(沢北と競う中でパスを習得)、玄人が頭で考えても思いつかないような直感的アイデアで難局を乗り切る桜木の着想(フンフンディフェンスや下投げフリースロー)も、セオリーに忠実で真面目な赤木と木暮からは生まれ得ない状況対応力だろう。
3.三井と宮城の復活によりもたらされたもの
陵南との練習試合後、安西先生曰く「かつて混乱を」と揶揄されるほどのいざこざを経て、三井と宮城がバスケ部に復活する。ここからはいわゆるThe SLAM DUNK的な王道ストーリーが展開されてゆくことになるが、三井・宮城の復活により、もたらされた新たなエゴも湘北の総合力を底上げした。
たとえ体力がなくても、元不良でチームに迷惑をかけた過去があったとしても、自分の強みは”3ポイントシュートの成功率の高さ”という点を自覚していた三井。弱みの改善には目をつむり、その強みのみに一点集中して意識を向けることで、数々のピンチを救う活躍を見せ、読者の心にも大きく影響を与えることになる。
宮城も、上背がないという致命的なハンデを「誰よりも低く素早いドリブル」という武器で乗り越え、”湘北の切込み隊長”としてゲームメイクの起点となる役割を見出した。実際、ミドルシュートやダンクは苦手だったが、ゲームのスターターとして湘北に欠かせない存在となる。
三井や宮城からは「流川や仙道や牧のように万能な優等生じゃなくても、1つの強みを磨き、チームに必要な形で提供できれば、”オレの出来次第”という自信が醸成される」ということを学べる。エゴこそが個人の原動力であり、溢れたものがチームの活力へと変わる。
また、三井や宮城が湘北にもたらしたものはエゴだけではない。
一つが、三井による”アイデンティティの追求による自信と希望の醸成”だ。「スーパースター三井」という中学の称号を喪失した三井は、バスケ部を潰しに不良たちと共に殴り込みをかける。その罪滅ぼしとして責任感や信念を獲得することとなる。翔陽戦や山王戦の最中、三井は散々「諦めの悪い男」というアイデンティティを見失っては見つけ、己に言い聞かせ、その言葉に見合った責任を活力としてパフォーマンスに変える。過去の経験を肯定し、アイデンティティを未来への希望に転換する三井の姿勢は、他4人のメンバーが同じく山王戦でそれぞれの核を見つけていく流れにも直結する。
また宮城はスピードと感性以外に、”チームへのポジティブなエネルギーの伝達と、桜木との良好な師弟関係がもたらすバランス”をもたらした。「ダンナ、全国に行けるぜ」「ファインプレイだぜ、花道」「さあこっからが湘北炎の追い上げだぞ!」宮城がチームに届ける声は、他の誰よりも温かく、それでいてポジティブなエネルギーに包まれている。同じ人間関係構築力タイプだが、調和と全体最適を重んじる木暮だけではもたらせなかった、突き抜けたエネルギー補給源として確立している。
また、素行不良な問題児である桜木との関係性もフレンドリーであり、扱い方も上手い。フェイクを直伝したり、アリウープの戦略をともに企てたりと、自我の強い桜木をしっかり立てながらも掌でうまく転がし、チームのバランスを保つ役割に貢献している。赤木・木暮に足りなかった部分を、宮城の存在で補完できているのだ。
4.相互依存の関係性
スラムダンクとは青春バスケ漫画でありながら、誰も頼れず孤軍奮闘していた赤木という男が、依存先を見つけて自立していく物語と言えるかもしれない。赤木には中学時代からずっと積み重なった葛藤(自身の能力不足と、チームメイトや環境の不遇さ)が重くのしかかり、自他に対して厳格で、融通が利かない孤独なキャプテンとして描かれていた。
そんな赤木に、自分が素人だろうが、相手が高校バスケット界の絶対王者だろうが、残り時間が少なかろうが、当然のように勝利に向かっていく桜木を筆頭に、4人の心強い仲間ができる。
山王戦終盤、自分とともにプレイする4人の全員が、当然のように諦めず勝利を目指している。そのことに気づいた時、試合中にも関わらず涙を流してしまう。木暮だけが唯一、赤木の涙の理由を即座に理解する。味方の頼もしさに一瞬気が緩んだこと、ずっとこんな仲間がほしかったこと。1つのゴールに向かって苦楽をともにし、しのぎを削り高め合い頂点を目指す戦友がずっと欲しかった。
もちろん赤木にもエゴはあるし、他の4人が自らのエゴを安易に引っ込めることはない。だからこそ、仲良しになることはない。でも、たとえ不器用さを晒しても、欠点だらけの鰈であったとしても、そんな自分を理解してついてきてくれる最高の仲間たちを得られたことへの涙。
「このチームは最高だーーー」
赤木は相互依存することができる仲間、それに互いに寄り掛かることで自らも自立して貢献していけるための最高の自信を得た。それがスラムダンクという漫画を最高のエンタメに押し上げてくれている裏テーマであり、今回ストレングスファインダーを用いて勝手に分析したことで見えた結論である。ストレングスファインダーでチームの全体像を俯瞰することで、一人ひとりがチームに対して異なる貢献ができるのだということを理解させてくれる。そして、総体としてのチームの強みがどのようなものかも見えてくる。一人ひとりには、空白の領域もある。だが、チームのメンバーそれぞれが、チームの成功に貢献できる様々な才能を持ち寄っていることがひと目で分かる。相互依存することにより、チームとして最高のパフォーマンスを発揮するための道筋が、あらゆる角度から言語化できるポテンシャルがある。
さて、スラダンも次回でラスト。
それぞれのキャラが自らの核をさらけ出し、その核に確信を持ち、それを存分に発揮して成長して羽ばたく瞬間を、ストレングスファインダーの本質とも絡めて描写してみようと思う。
それではまた!
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