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Thinking of idlers way

リアル感か世界観か

文/写真:大塚 治[Osamu Ohtsuka]
撮影協力:ロマンジャポネトーイ https://rogi-toy-md-c.jimdofree.com/

 筆者はアイドラーズマガジンの創刊号からの表紙イラストや文を書いてきた。そんな筆者だが、じつはこれまでミニカーや模型の企画をしていた時期がある。元カーデザイナーであり日本の小規模模型界の第一人者、故 小森康弘氏の元で指導を受け、現在では日本を代表する原型師の1人として活躍する伊東佑司氏と共に学生時代に模型ブランドを興し、自分で書くのは口はばったいが、そこそこのヒット商品を生んだ。
 ミニカーには一家言ある読者諸兄も多いことと思うが、大手メーカーとは違う、愛好家との距離の近い小さなメーカーで「ものづくりの現場」を見て来た。その目線で今回の話をさせてもらうことにした。

ひしゃげた箱もまた、愛おしいよね

デフォルメするセンス

 2台の1/43スケールのカレラRSRを題材として話を進めよう。どちらも今となっては古いミニカーとなってしまうが、白い方が1990年代に立ち上がったドイツのミニチャンプスというメーカーの製品。黄色に炎の柄のもう1台はフランスのソリド社が1970年代に発売したものだ。
 ミニチャンプスというメーカーは設立時から製造を中国の工場で行い、それまでの他メーカーでの「トーイミニカー」の製造から「大人のコレクション」向けのミニカーを作り始めたメーカーのひとつだ。対してソリド社は子供から大人までファンの多いフランスの歴史あるミニカーメーカーである。
 多くの場合、ミニカーは今回のRSRのように元になるクルマがある。それを縮小しモデル化する。2D(平面)のイラストレーションと3Dのモデル制作にはじつは共通点が多い。たとえば、イラストレーションでは立体物を平面に落とし込む際に遠近法などを使い違和感がないようにデフォルメする。立体のミニカーも同じ。実車の図面データや寸法をそのまま単純に1/43にスケールダウンすると大抵細長く貧弱なミニカーが出来上がってしまう。
 これは人の視野が関係する。大きな実車と違って、手のひらサイズのミニカーだと一気に全体を見渡せてしまうのだ。クルマのカタログにある側面図を見ると、タイヤ/ホイールがイメージより小さく見え、相対的に腰高でホイールベースも長く見えてしまう。そんなイメージのズレが格好悪いという違和感として残ってしまう。スケールダウンは正確でもその違和感の大きさはあまり気分の良いものではない。
 師匠曰く「どの車にもデザインのポイントになる部分がある。そのポイントを見つけ、それを強調したり、デフォルメしながら他をうまく省略することで実感がわく」という言葉には重みがあった。この言葉は筆者のイラストレーションの原点にもなっている。
 また、現在とは違う鋳造製法の頃には、素材によっての収縮率や収縮方向があった。その場合、原型を作る時に図面通りでは仕上がりに大きな狂いが出てしまうため、全長は1/43だが全幅は1/42・5で作るなどと完成時を想定してあえて予め変形させておく。ここにもまた確実に原型師のセンスが求められる。

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