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クランクシャフトアプローチ

走行力学-2
クランクシャフトアプローチ

クランクシャフトはピストンで発生する直線運動を円運動に変換する機構。
エンジンの形式や設計ポリシーによってその形状も変わってくるので、単純なようで実は奥深い部品なのである。
本稿では、「クランクシャフトとは何か」を基点に、高速回転する重量部品のシビアさと
チューンアップの可能性を探究することにしたい。

クランクシャフトのおさらい

クランクシャフトはピストン、コネクティングロッドとともに運動系と称され、シリンダで発生する膨張エネルギーを回転力に変換する機構を指す。ピストンの往復運動(いわゆるレシプロ、Reciprocatingだ)をシャフトの回転運動として抽出するメカニズムは駆動力の発生源といえ、レシプロエンジンにおいて極めて重要な部分である。そのデザインは気筒数やV型、直列、水平といったシリンダ配列によって基本的な形状が決定される。では、まず各部の名称と簡単な機能をおさらいしておこう。
 クランクシャフト本体をシリンダブロックに保持する部分がメイン(クランク)ジャーナル、クランクシャフトの回転中心になる部分だ。コネクティングロッドの大端部(ビッグエンド)と連結する部分がクランクピン。回転中心からオフセットするクランクピンを支持するのがクランクアーム。そして、回転時のアンバランスを取り除くためにカウンター(バランス)ウエイトがクランクピンの対角に設けられる。
 カウンターウエイトの多くは、アームを板状に延長して質量を得るようにしたもので、アームとウエイトを併せてクランクウェブとも呼ばれる。このウェブはクモの巣ではなくて、機械や建築で言うところの薄板の意だ。
 クランクシャフトの両端には、それぞれクランクプーリとフライホイール、クラッチ機構が装着されることになる。
 次にその機能に付いて触れておこう。燃料の爆発圧力をピストン、コネクティングロッドを介して受け止め、クランクシャフトは常時高速回転することになる。
 さらに、連結する駆動系部品を稼働させ、また、加速やエンジンブレーキといった、さまざまな走行状態におけるタイヤからの反力をも受け止めなければならないので、材質や形状において高い強度や剛性、加工精度が要求されることになる。
 同時に摺動部分となるメインジャーナル、クランクピンにはメタルベアリングが装着され、的確なオイルフィードが求められる。特にメインベアリングはエンジンの中で最も焼き付きを起こしやすいといえるほどに過酷な状況におかれていることを認識しておきたい。
 クランクシャフトに限ったことではないが、最も重要なことは部品が壊れないことだ。前段で解説したように、その点において運動系パーツには途方もない力が加わるために、破損したときのダメージは強烈だ。ほぼ間違いなくエンジンはお釈迦である。よって、メーカーの作るクランクシャフトは設計や材質、強化処理においても一定の安全マージンは確保していることになる。
 一方、そういった贅肉をそぎ落とすことにチューンアップの面白さがあるのだが、正確な知識や情報に基づかないと危険度が高くなるのは当然だといえる。

回転時のアンバランスの釣り合い

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