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ピロはボディに厳しくない

走行力学-5

ピロはボディに厳しくない

足まわりを強化する施策として「ピロ」化が言われる。
ウレタンゴム製のブッシュを金属製のピロボールに変えて“リジッド”化することだ。
走行性能は向上するが、しかし、衝撃がボディをダイレクトに攻撃するため寿命が短くなる。
という定説をここで再考する。じつはピロ化にしたほうがボディに優しいのではないのか。

不安定な入力のブッシュ

足回りのピロ化――という言葉が「チューニングメニューは?」という項目で頻繁に見られる。ひと言でピロ化と言うが、これはサスペンション各部の剛性を高めて適正に動かすために、市販乗用車で使われているゴム製のブッシュから金属製のピロボールに変更することを指す。
 ピロボールにまつわる正式名称はいくつもあり、ロッドエンドやスフェリカル・ジョイントと呼ばれることもある。ようするに球面すべり軸受けというか、金属のボールをメタルで保持した部品である。が、本稿は正式名称の議論は他に譲ることにして、ピロ化で進めてみよう。
 さて、ブッシュ部分をピロ化で固めると、ゴムブッシュによるたわみがなくなるため足がちゃんと動くため、サーキットを筆頭としたスポーツドライビングを詰めるのなら必要不可欠となる。だが、路面からの衝撃がダイレクトに車体に伝わるようになるので乗り心地は悪くなり、かつ衝撃を直に受けるためクルマの寿命も短くなる、ということになっている。
 ここに大きな誤解が潜んでいるようだ、というのが本題である。じつはピロ化したほうが、ボディには優しいのではないか。ゴムブッシュはアタリが柔らかくなって乗り心地はマイルドになるが、しかし、ゴムはねじれたり共振したりと不可解な動きが多く、増幅する上に、タイヤから伝わる力がどこに逃げていくのか分からない。結果としてボディには多大な負荷がかかっている状態が頻繁に見られるのではないだろうか。
 その本当のところはどうなのだろうか。質問をぶつけて見たのはボディ補強のスペシャリストであるエムラインの望月氏である。
「走行フィールドを考える必要があります。一般的な街乗りしかしないのなら、入力が穏やかになるブッシュのほうがいいでしょう。しかし、ハードドライブやサーキット走行などの場合は、本来の使われ方を超越した入力がかかる。問題はその時。ブッシュすなわちゴムは、入力に対して力の伝わる方向が安定しないということ。たわんだりねじれたりしながら潰れきる。そうした過程ではどこにどれだけの力が伝わるのか分からない。ボディの弱い部分を攻撃する可能性を否定できない」
 これが、ピロ化をして力の伝わる方向を一方向に安定させれば、負荷はかかるものの、ボディのどこにどれだけの負荷がかかるのかを“想定”できる。望月氏の仕事は、そうした部分を突き止め補強を加えることだと考えると、納得がいくというものだ。ブッシュのままだと力の入力方向と強さを完璧に把握することはできない。

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