<論文>薬剤耐性グラム陰性菌の治療:DTR-P(IDSAガイダンス)
Infectious Diseases Society of America Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections
Published by IDSA, 9/8/2020
難治耐性緑膿菌(DTR-P.aeruginosa)
多剤耐性とは、緑膿菌の感受性が期待されるペニシリン系、セファロスポリン系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系、カルバペネム系の少なくとも3つのクラスに対して、少なくとも1つの抗菌薬が耐性と定義される。2018年に難治耐性("difficult-to-treat" resistance:DTR)という概念が提唱された。DTRとは、ピペラシリン・タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、アズトレオナム、メロペネム、イミペネム・シラスタチン、シプロフロキサシン、レボフロキサシンのすべてに対して非感受性を示す緑膿菌と定義される。
質問1:DTR-Pによる単純性膀胱炎治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:DTR-Pによる単純性膀胱炎の治療には、セフトロザン・タゾバクタム、Ceftazidime-avibactam、Imipenem-cilastatin-relebactam、Cefiderocol、アミノグリコシドの単回投与が望ましい。
根拠:セフトロザン・タゾバクタム、Ceftazidime-avibactam、Imipenem-cilastatin-relebactam、Cefiderocolの比較データは不十分である。他のすべてのアミノグリコシドに対して耐性がある場合、Plazomicinの追加の有用性は低いと考えられる。ポリミキシンBではなくコリスチンを使用することも考えられるが、コリスチンは尿路で活性型に変換されるため、腎毒性のリスクを認識しておく必要がある。経口Fosfomycinは臨床的に失敗する可能性が高い(fos A遺伝子による)。
質問2:DTR-Pによる腎盂腎炎と複雑性尿路感染症(cUTI)治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:DTR-Pによる腎盂腎炎とcUTIの治療には、セフトロザン・タゾバクタム、Ceftazidime-avibactam、Imipenem-cilastatin-relebactam、Cefiderocolが望ましい。
根拠:腎毒性が許容できる場合、1日1回のアミノグリコシドが代替選択肢となる。経口Fosfomycinはfos A遺伝子の存在と腎実質で十分な濃度に達成しないため推奨されない。
質問3:DTR-Pによる非尿路感染症治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:DTR-Pによる非尿路感染症の治療には、単剤療法としてセフトロザン・タゾバクタム、Ceftazidime-avibactam、Imipenem-cilastatin-relebactamが望ましい。
根拠:セフトロザンは阻害剤に依存せず独立してDTR-Pに対する活性がある。AvibactamとRelebactamは主にAmpCの阻害により薬剤の活性を拡張するが、他の複合的な抵抗性メカニズムには影響を与えないと考えられる。セフトロザン・タゾバクタムとCeftazidime-avibactamは作用機序が類似しており交差耐性が起きる可能性がある。Cefiderocolはほかに高度耐性の緑膿菌に対して信頼できるin vitro活性をもっているが、非尿路感染症で効果的かつ安全に使用できる患者層が定義されるまで、ほかの望ましい抗菌薬が使用できない場合にのみ推奨される。ほかに望ましい治療がない場合、アミノグリコシド単剤は合併症のない血流感染症(尿路感染症や、カテーテル抜去後などソースコントロール可能なもの)に限定すべきである。
質問4:DTR-Pによる感染症の治療における併用療法の位置づけは?
推奨:DTR-Pによる感染症に対しては、第一選択薬(セフトロザン・タゾバクタム、Ceftazidime-avibactam、Imipenem-cilastatin-relebactam)に対するin vitroでの感受性が確認されている場合には、併用療法はルーチンでは推奨しない。
根拠:有効治療の可能性を広げるために経験的治療で併用療法(β-ラクタム系+アミノグリコシドまたはポリミキシン)をすることは合理的だが、β-ラクタム系薬がin vitroで活性を示した後に併用療法を継続してもそれ以上の有益性が得られるというデータはなく、むしろ有害事象の可能性を高める。望ましい薬剤で活性を示すものがない場合、アミノグリコシドに活性があれば、ブレイクポイントに最も近いセフトロザン・タゾバクタム、Ceftazidime-avibactam、Imipenem-cilastatin-relebactamのいずれかとの併用療法が検討される。このアプローチの有用性を示すデータは不足しており最後の手段として検討する。Cefiderocolの単剤/併用療法との比較データも不足している。アミノグリコシドが活性を示さない場合、ポリミキシンBとの併用を検討することができる。ポリミキシンBはプロドラッグのため血中濃度の高さに信頼性があり、腎毒性のリスクも低いため(リスクの差は正確ではないが)、併用療法としてコリスチンよりも望ましい。
<感想>
ラストはDTR-P.aeruginosaです。MDRP(多剤耐性緑膿菌)のさらに耐性の進んだ緑膿菌の治療についてでした。セフトロザン・タゾバクタムは日本でも使用可能ですが,カルバペネム以上に温存しておきたい抗菌薬です。
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