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<論文>薬剤耐性グラム陰性菌の治療:ESBL-E(IDSAガイダンス)

Infectious Diseases Society of America Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections
Published by IDSA, 9/8/2020

ESBL産生腸内細菌科(ESBL-E)
ESBLは、ほとんどのペニシリン、セファロスポリン、アズトレオナムを不活性化する。EBSL-Eは一般的にカルバペネム系に対して感受性を維持している。ESBLは、非β-ラクタム系(シプロフロキサシン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、ゲンタマイシンなど)を不活性化しない。しかしながら、ESBL遺伝子を有する菌は、しばしば、広範な抗菌薬に対する耐性を媒介する追加の遺伝子または遺伝子の変異を保有している。
どのようなグラム陰性菌もESBL遺伝子を保有する可能性があるが、大腸菌、K.pneumoniae、K.oxytoca、P.mirabilisに最も多く見られる。CTX-M-15は米国で最も一般的なESBLである。CTX-M以外のESBLには、TEMやSHVβ-ラクタマーゼの亜種が含まれる。ルーチンのEBSL検査は、ほとんどの臨床微生物検査室では実施されていない。むしろ、セフトリアキソン非感受性(最小発育阻止濃度(MIC)>2mcg/mL)が、しばしばESBL産生の代理となる。

質問1:ESBL-Eによる単純性膀胱炎治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:ESBL-Eによる単純性膀胱炎の治療には、Nitrofurantoinおよびトリメトプリム・スルファメトキサゾールが望ましい。

根拠:フルオロキノロン(シプロフロキサシンまたはレボフロキサシン)とカルバペネムはESBL-Eの膀胱炎に対して有効だが、これらの薬剤の使用を控えることで、将来の感染に備えてそれらの活性を維持することにつながる。フルオロキノロンに関しては副作用の懸念もある。アモキシシリン・クラブラン酸(シプロフロキサシンより失敗率が高い)、アミノグリコシド単回投与(データ不足)、経口Fosfomycin(Nitrofurantoinより失敗率が高い)が代替選択肢となる。ドキシサイクリンは推奨されない。

質問2:ESBL-Eによる腎盂腎炎および複雑性尿路感染症(cUTI)治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:ESBL-Eによる腎盂腎炎およびcUTIの治療には、Ertapenem、メロペネム、イミペネム・シラスタチン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、またはトリメトプリム・スルファメトキサゾールが望ましい。

根拠:Nitrofurantoinと経口Fosfomycinは腎実質で十分な濃度を達成できないため避ける。ドキシサイクリンは尿中排泄が限られているため避ける。

質問3:ESBL-Eによる非尿路感染症治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:ESBL-Eによる非尿路感染症の治療にはカルバペネムが望ましい。

根拠:経口ステップダウンの正式な評価はないが、(1)経口薬に対する感受性があり、(2)患者が解熱し血行動態学的に安定しており、(3)適切なソースコントロールが達成され、(4)腸管吸収に問題がない 場合に、フルオロキノロンやトリメトプリム・スルファメトキサゾールは合理的な選択肢となる。Nitrofurantoin、Fosfomycin、ドキシサイクリン、アモキシシリン・クラブラン酸への経口ステップダウンは避ける。

質問4:ピペラシリン・タゾバクタムに対するin vitro感受性がある場合、ESBL-Eによる感染症の治療にピペラシリン・タゾバクタムは使用できるか?
推奨:ピペラシリン・タゾバクタムに対する感受性がある場合でも、ESBL-Eによる感染症の治療にはピペラシリン・タゾバクタムは避けるべきである。後にESBL-Eと同定された菌による膀胱炎に対する経験的治療としてピペラシリン・タゾバクタムが開始され、臨床的に改善した場合には、抗菌薬の変更や延長は必要ない。

根拠:ピペラシリン・タゾバクタムは、多くのESBL-Eに対してin vitro活性を示すが、カルバペネムと比較して成績は劣る。侵襲性ESBL-E感染症では病原菌がESBLの発現を増加させる可能性やその他のβ-ラクタマーゼの存在により有効でなくなる可能性がある。ESBL存在下ではMICが不正確となる可能性がある。

質問5:セフェピムに対するin vitro感受性がある場合、ESBL-Eによる感染症の治療にセフェピムは使用できるか?
推奨:セフェピムに対する感受性がある場合でも、ESBL-Eによる感染症の治療にはセフェピムは避けるべきである。後にESBL-Eと同定された菌による膀胱炎に対する経験的治療としてセフェピムが開始され、臨床的に改善した場合には、抗菌薬の変更や延長は必要ない。

根拠:セフェピムはカルバペネムと比較して成績が劣る。ESBL存在下ではMICが不正確となる可能性がある。

質問6:ESBL確認検査が陰性の場合、セフトリアキソン非感受性の大腸菌、K.pneumoniae、 K.oxytoca、P.mirabilisによる感染症治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:地域で検証されたESBL確認検査でESBL産生が認められない場合、感受性検査の結果に基づいて治療することができる。

根拠:現在、CLSIが承認したESBL確認検査用の表現型検査は存在しない(ダブルディスクシナジーテスト、ETEST®、自動化された感受性プラットフォームアルゴリズムなどは注意して解釈すべき)。

質問7:分子検査でblaCTX-M遺伝子が検出されない場合、セフトリアキソン非感受性の大腸菌、K.pneumoniae、K.oxytoca、P.mirabilisによる菌血症治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:blaCTX-M遺伝子が検出されないことは、他のESBL遺伝子の存在を否定するものではないため、セフトリアキソン非感受性の大腸菌、K.pneumoniae、K.oxytoca、P.mirabilisからblaCTX-M遺伝子が検出されない場合でも、カルバペネムが望ましい。

根拠:市販の分子検査はESBLの検出をblaCTX-M遺伝子に限定しており、他の遺伝子の存在を否定するものではなく、少なくとも初期治療はカルバペネムが推奨される。


<感想>
ESBLといえばセフメタゾールが気になるところでしたが,特に記載はありませんでした。それどころか,ピペラシリン・タゾバクタムも避けるように記載されています(現実的には感受性があれば使っていると思いますが)。アモキシシリン・クラブラン酸も感受性が残っていれば経口へ変更することがありますが,やはり推奨されていないようです。むしろ大腸菌だとキノロン耐性のことのほうが多いイメージですが…。米国と日本では少し事情が違う,ということでよいのでしょうか。一応ですが経口Fosfomycinは国内と海外で仕様が違う(国内はカルシウム塩で吸収が悪い)ので注意が必要です。

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