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COVID-19抗原検査の偽陽性について

最近COVID-19の抗原検査の偽陽性が様々なところで指摘されています。

抗原検査の偽陽性については,以下のような問題があると思われます。

①本当は陰性の患者を陽性者のいる場所に隔離してしまう

②そもそも偽陽性と診断する手段がはっきりしていない

プライマリケアの現場では,抗原検査はその場で結果が出て後方病院にも紹介しやすいなどのメリットがあるように思いますが,責任を持たされる後方病院の立場からすると,きわめて厄介な検査であるといえます。

①は想像に難くないと思います。PCRは適切に実施されれば特異度は限りなく100%に近いと思われますが,抗原検査は100%とは言えないでしょう。事前確率が低い状況で安易に行われた場合(そもそも定性検査を用いた無症状者へのスクリーニングは認められていません),偽陽性が発生しやすくなります。社会的な影響も大きいので極めて注意が必要です。

一方,②のそもそも偽陽性のメカニズムは?という疑問もあるわけです。定性検査ではなく定量検査(ルミパルス)ですが,添付文書から引用します。

国内の臨床検体(鼻咽頭検体)を用いたRT-PCR法との比較に基づく臨床研究の試験成績(n=325例)の結果は … 陰性一致率97.3%(293/301例)であった。判定不一致となったRT-PCR法陰性検体8例は全てRT-PCR法陽性歴のある検体であり、発症から9日~23日目の回復期の症例で、カットオフ値の近傍において認められた。このうち4例は、Ct値が高いため陰性とされたものの、RNAの増幅は確認されている検体であり、他の4例はPCRによるRNAの検出限界以下の検体であった。
(~中略~)
唾液検体による検討
空港検疫検体群に対しては、 … 特異度(陰性一致率)99.3%(1746/1759例)

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/ivdDetail/670773_30200EZX00035000_A_01_04#CONTRAINDICATION-AND-PROHIBITIONS

これを真に受けると,仮に抗原陽性・PCR陰性であっても,それは本当の意味での偽陽性ではなく,(なぜそうなるのかはわかりませんが:検体凍結によりPCRの検出力が低下したのでしょうか?)抗原検査のほうが過去の感染を拾うことができるかもしれないということになります。どういう理由で偽陽性になるのかがはっきりわからないと何ともいえません。唾液の不一致13例もどうだったのでしょうか?。検査キットを開封して時間が経ってしまったり,湿度の高い環境で検査したり,粘稠度の高い検体で検査したりすると偽陽性ラインが出るなどとは言われていますが,一応,添付文書にはSARS-CoV以外に交差反応を示さなかったと書かれているので,キットの誤った使い方以外で本当に偽陽性が起こるのか気になるところです。
(10/24追記)どうやら,ライノウイルスと交差反応をするかもしれないとの情報があります。また,すでに締め切られていますが,日本感染症学会が偽陽性についてアンケート調査をしています。
(11/02追記)上記アンケート結果が感染症学会HPに掲載されています。
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_survey_201027.pdf

とはいえ,現場では,病歴・症状から考えると偽陽性としか思えない事例があることも事実です(もしかしたら感染ルート不明の無症候感染者かもしれませんが…)。何種類もの試薬を用いて,複数箇所から検体を採取して,何度もPCRを行うことはかなりの労力と心理的負担を要します。

「評価の定まっていない検査は(治療も!)行わない」という大前提を守ればよいだけの話ですが,なかなか難しいのでしょう。



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