2024/7/19 「昨日、梅雨明けたらしいよ」と君が言ったから、

部屋から出た瞬間に、夏を感じた。

今日は朝早く起きて会社説明会を受けた。しかし、その会社に入社させていただけたとしても、すぐに合わなくなって辞める未来が見えてしまった。途中からはベッドで横になって、わかりやすいんだかわかりづらいんだかわからないスライドが切り替えられていくのを眺めていた。説明会が終わってまた、眠りにつこうとした。

何かしなくちゃ、眠たいな、を反復横跳びしているといつの間にか14時になり、腹が減っていることに気づいた。冷蔵庫の中には相変わらずポン酢しかないので、固形物を買いに外に出ることにした。

玄関の扉を開けると、湿気と熱を運んだ風が顔面を直撃した。いつもならこの瞬間、数分後の肌に張り付く汗まみれのシャツの不快感を想像して嫌な気持ちになるが、今日は不思議と嫌な感じがしなかった。冷房で冷え切った体を温めるような風が、なんだか心地よかった。これだけおれが内側に閉じこもっているのに、世界は何食わぬ顔でこんなにも開けているんだと、本気でそう思った。梅雨は昨日明けたらしい。

玄関から一歩出ただけで、この気持ちを穏やかにしてくれるなんて、夏も捨てたもんじゃないなと思った。ただアツいだけだと思っていた。見直したよ。このまま、電車で知らない海沿いの街に行って、一人で夕日でも見に行ってやろうか。そんなことで今おれの抱えている悩みが消えてしまうわけがないことも、わかっているが。

アパートの前の路地で座り込むと、もう波の音が聞こえる。また家に帰ってから頑張ろう、とは思えなくなってしまった。夏は十分に光り輝いているし、おれ一人が頑張ろうが、がんばるまいが、世界はまわりつづけるのだ。おれが炎天下夢中になってサッカーボールを追いかけた日々、受験勉強に勤しんだ日々、部活で倒れ込む日々、朝まで飲み続けた日々、世界の裏側には今日のおれがいたはずなのだ。砂浜を懸命に走ってみる。50 mもしないうちに足に乳酸が溜まり、再び座り込む。

このまま、海に入ることができる。沖まで出て、帰ってこないこともできる。おれにはそうするつもりもない。今日世界の裏側で歯を食いしばってくれる誰かが、未来をもっと良くしてくれるだろう。おれはこの夏をこの先何回も迎えられれば、それで良い気がした。

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